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聖女様のお導き  作者: 志野院 
序章
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1話   魔法といっても回復と攻撃は異なる

私、桐嶋理衣乃は家のドアを開けた――はずだった。

しかしそこには見慣れた隣近所の家はなく、玄関から室内に移動していた。

 室内は広く、石造りになっているためかそこはかとなくひんやりとした空気が肌を撫でる。

 しかし部屋のつくりをじっくりと眺めることはなく、目の前の困惑している人物を茫然と見つめる。


「……」


白髪……銀髪? のような色素の薄い髪と緑色の目をした若干歳をとっている偉そうなおじさん。驚いたように口を開けながら私をじっと見つめる。


「……」


かく言う私は自分自身に違和感がする。

おじさんから視線をずらすと、ドアノブを握っていたはずの手には変な木の棒を持っていた。

2つの木の枝が絡み合っているような杖の上に青い水晶玉が乗っかっている。不思議とそんなに重くない。


そして杖を持っている手を見てぎょっとした。

服の袖口が広い。

しかもお出かけ用の服は紺に白のドット柄だったはず、なのに白いし袖口に青色の縁取りがされている。


自分の身体を見てみると白を基調としたいかにもコスプレのような格好。すごく恥ずかしい。でも目の前のおじさんは頭に赤と金の王冠乗っけて服に金のこまごまとした刺繍入れて赤いマントを羽織っていかにも偉そうな格好だ。なんとなくほっと息をつく。別に同類と言うわけではない、けれど変な仲間意識が私の中で芽生えた。


「……聖女様、でしょうか?」


 やっと発された言葉は私にはよく分からなかった。

 いや、なんとなくは分かる。何と言うか今の私の格好は神に仕えていますという雰囲気を全身から醸し出している。


「さあ?」


 私は首をかしげることしかできなかった。


「すみません、私の説明不足でしたな。これからこちらの世界について説明致しますので移動してもよろしいでしょうか?」


「はい」


 おじさんは真っ赤なマントを翻して扉に進む。

 すると扉が勝手に開いた。外側から門番のような人が扉を開けてくれたようだ。


「…………?」


 な、なんだろう……何故か門番の人にものすごくガン見された気がする。私の顔を確認して落ち込むとか、杖の水晶で頭蓋骨カチ割るぞ。


 恥ずかしげもなく王様っぽい格好をしている人はすたすたと歩いていくのでちょっと恥ずかしい。ここが外じゃなくて本当によかった。少しばかり距離を開けて後ろを歩いてついていくと、メイドの格好をした人や衛兵みたいな人が頭を下げて壁際に立っている。

 ……けれど、なんだろう。前のおじさんが通り過ぎるとみんな俯きながらちらっと私の顔を確認してくる。

 まったく、私が偉い人だったら杖で頭をぐりぐり抑えつけてやるところだよ。


 ランプに火が灯った薄暗い廊下を歩き、何度か階段を上ると窓がついている廊下に出た。

 つまり今まで地下にいたのか、夜かと思ったけど窓からはさんさんと陽の光が入っている。おじさんがとある扉の前で足を止めると、門番が扉を開けてくれた。

 室内には長いテーブルに椅子が何個も整然と並んでいる。すごい、遠近法がすごい。


「お掛け下さい」


 促されるままに近場の椅子に座る。

 私が着席するのを見ると、おじさんはふうとため息をつきながら椅子に座った。


「まずは……そう、自己紹介ですな、私はこのリグナス国の国王をしているダグラス・フィリス・ダ・リグナスという」


「私はリイノ・キリシマです」


「それではリーノ殿、まず……あなたをお呼びしたのは私です」


「なぜ、私を呼ばれたのですか?」


 その部分を重点的に聞きたい。さっきからこの王様歯切れ悪過ぎてなかなか話が進まない。


「それは……そうですね、逆に聞きますがあなたはこの世界の人間ではないですね?」


「そうですね、私の世界には私の母国語が通じる王様はいないはずです」


 いないはず、いたらいたでいいけどこんな王様スタイルはしないはず。


「そうですか……では、私の世界について説明させていただきます」


この世界は人間と魔族がいて戦争をしている。

 現在も戦争の最中で村や町が焼かれ人員が不足している。

 現在残っている国で同盟を組み強固な結界を張っているが魔族の王たる魔王を倒さなければこの世界に平和は戻らない。


 かといって魔族に勝つ見込みがない、のでこの世界とは異なる世界に住む人間を勇者としてこの世界に呼び魔族を倒してもらおうというRPG展開な思考を巡らせたらしい。


「それで私ですか?」


「そ、そうなのですが……」


 絶対倒せそうにないって思っているんですよね、そうです私自身倒せると思えません。

 しかもこの格好、見るからに魔法使い。

 魔王って言ったらアレでしょ、HP、MP、SPが9999なんでしょ、あとレベルも999なんでしょ、私はいくらレベルを上げても99までなんでしょ、それから魔王って最上階か最下層にいるんでしょ、それに魔王の元に着くまでにいろんな敵がいてあと四天王もいるんでしょ、多分火、水、風、土みたいな、完全に積んでますね。


「すみませんが、私戦ったりとか争ったりとか、苦手で……」


「でしょうな」


 私をじっと見つめて重く頷く。

 なんだろう、やっぱりか弱そうに見えるのかな。そう思われると恋愛対象外のおじさんだとしても嬉しいな。守ってあげたくなるタイプとか、私って結構可愛い系だったのか。外見については平均だと思っていたから内心腹黒系だと思っていたけれど可愛い腹黒系に進化できたわ。


 レベル上げまくってこの外見で「やーん魔族こわーい」とか言いながら襲ってくるゲス顔の敵に高等魔法ぶっ放して焼け野原にすることも夢じゃないってことですね、夢が広がる自然が消える。


「それで、ですね……」


「はい」


「…………実は、ですね――――魔王を倒さないと、帰れない、のです」


「……」


 そっか、普通帰りたがるよね。

 でもなんとなく絶対的な感じで帰れない気がしていた。だから最初から帰るなんて選択肢はない。

 それに魔王を倒すまで帰れないとかもなんとなく分かる。いわゆるRPGの王道、魔王を倒せばハッピーエンドってことだろう。


 けれど私は出来ない。か弱いし可愛いしこの世界の住人じゃないし、むしろこの世界の人たちが死んでも私の良心は防御力高いから何とも思わないだろうな。まあ魔族くらいは私の通行の邪魔をしてくるなら倒すけど、魔王は無理。


「……そう、ですか」


 ここは大人しくショックで悲しいですって顔しておこう、何かと便利だし。

 すると王様は慌てて私のご機嫌をとり始める。


「ほ、本当にすまない。だが私もやれるだけのことはやってみます、この国で出来ることならばなんでも手を貸しましょう」


「ありがとうございます」


 私がそう言うと王様はほっと胸をなでおろした。

 私も衣食住と安全が確保できて慈愛に満ちた笑顔をつくる。


「では客人用の部屋と日用品を用意させましょう」


 王様は早速用意しようと立ち上がる。

けれどそれってこの王宮で暮らすことになるんだよね。あのメイドたちと会うの嫌だな、だって勇者を召喚するの知っていて「こいつかよ」って目してた。これから誰かが魔王を倒すまでずっと王宮にいるのは辛いだろう。絶対「お前が倒しに行かないのかよ」って目で見られるに違いない。


「いえ、この国に宿はありますか? あればそちらに泊まりたいのですけど」


「それでいいのですか? この王宮の方が過ごしやすいですし、何かあればそこらの者に言えば済むと思うのですが」


「私にとってこの世界の全てが知らないことだらけですので、普通の人たちがどのように過ごしているのか見てみたいのです」


「そうですか、では信頼できる宿を用意させましょう」


 信頼って何さ、普通高級な宿用意する物じゃないの? 信頼はお金で買えるでしょ、やっぱり治安悪いのかな……






王様曰く信頼できる宿は女将さんが元気良く仕切っていて感じがよさそうな宿だった。日用品はこれで買いなさいと王様にお金をもらった。お金の勘定は一回では覚えられないので紙とペンを借りて日本語でメモをとっておいた。

王様からもらった金額は多い、と思う。日本円でいうと万札を束で渡された感じだろう。しかも既に宿には十分すぎる金額を払っていてもらったお金から出さなくてもいいらしい。最高級の貢くんを手に入れてしまった。


まあそんなことはどうでもよく、私は宿のベッドに腰掛けて脚を組む。

日用品は後で買うとして、先ほど重大な問題を発見してしまった。


――自分のデータ


最初に使える呪文が知りたかった。どうせファイアーとかファイアーボールだと思うけど。でも私って可愛いから属性的に水系かな? と思っていたら頭に黄ばんだ古めかしいような紙が脳裏に見え文字が浮かんだ。


使用可能スペル1

ヒール:回復魔法


あれ、なんか変なスペルが見える。

なんでヒール?

そして次に最悪の想像をしてしまった。


――私のクラスって、本当に魔法使い?


すると紙が広がり先ほどよりも多くの文字が書かれていた。


名前:リーノ・キリシマ

クラス:聖職者

Lv:1

HP:15/15

MP:17/17


聖職者って……

あ、涙出てきた……


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