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楽士、旅立ちの理由

だいぶん久し振りの投稿です。

それでは本編をどうぞ!

遡ること、半年前。

いつも通り修行兼出稼ぎであるグリセー村での演奏と近くの森での瞑想、村の剣術指南役との稽古を終え、グロウは拠点となっている師匠の家への帰途に就いた。

「ただいま戻りまし…た…?」

家に着いたグロウはすぐさま異変に気付く。

いつもは何かしらの音―――それこそ楽器から鳩時計、食器に至るまであらゆる音がしている師匠の家がシンと静まりかえっているのだ。

「師匠?いらっしゃらないんですか?」

この時間帯に外出することは滅多にないはずだがと首をかしげるグロウ。

「キキィ!」

「ジェム?どうしたんだ?」

ハネギツネのジェムがマントのポケットから顔を出したかと思うと、グロウの体を滑り降り、一直線に台所へ向かった。

後を追いかけ、台所に入ったグロウが見たものは。

「…師匠?」

キッチンの隅でうずくまる師匠だった。

顔は青ざめ、尋常ではない程苦しそうな表情を浮かべている。

「師匠、師匠!?くそっ!」

とっさに弦楽器を取り出し、弦に魔力を込める。

混式弦(メキセ・ルーオ)(カイノ)!癒しの力よ、かの者を救え!《療穏楽章・ルナの羽衣》!」

5本の弦が青、緑、黄色を帯び、優しくも逞しい音色が家を、そして師匠を包み込む。

どれくらいの時間が経ったのだろうか、段々と師匠の顔に血の気が戻り始めた。

「ッ!」

だが逆にグロウは大粒の汗を額に浮かべ、苦悶の表情を浮かべている。

音魔術(ミューア)は詠唱を必要としない代わりに、使用には相当の集中力と魔力がなければならない。

それに加え、グロウが演奏している《療穏楽章・ルナの羽衣》は正統な治療魔術に例えると上から2番目に位の高い《完全治癒》レベルの魔術。

そんなものを継続して数時間も演奏するとなるとその魔力の消費量と疲労たるや、想像を絶するモノだった。

「痛ったあ!!?」

やがて弦と魔力が切れ、限界に達したグロウ。

 長時間の演奏で疲労しきった体に鞭を打って師匠を担ぎ上げる。

(医者に、診せないと…)

グリセー村には医者がいない為、山を一つ越えた先にある町まで行く必要があるのだがそんな体力はグロウには残されていない。

「ジェム!黒翼套(バロッキ・ウィンツ)!」

「キキィ!」

グロウの呪文に応え、手のひらサイズだったジェムの体が成体の狼程まで巨大化―――というより本来の大きさに戻り、グロウの背中に飛び付き羽を大きく広げた。

「全速力だ!行け!」

夜の暗闇に溶け込みそうな漆黒の翼が羽ばたき、空を裂く。

僅かに残った魔力を使い、時にはジェムの魔力を借りて飛ぶことおよそ30分。

(み…えた…)

 遠くに町の明かりが見えてきた。だが残り少なくなった魔力を振り絞ったことで、山を越え町の外れに着地すると同時に。

 「くっ…」

 魔力が完全に底をつき、グロウはその場に崩れ落ちてしまった。

 (ちくしょう…指一本動かねえ…)

 魔術師にとって魔力とはただ魔法を使うためのエネルギーなどではなく、五体を動かす生命力そのもの。音魔術ミューアを使うグロウも例外でなく、それが尽きてしまったということは彼もまた死の淵に瀕しているということなのだ。

 (動きやがれ、俺の体…!せめて、せめてもうちょい人目に付くところに…)

 芋虫の様に這いつくばってでも移動しようと必死に身体に命令するグロウ。

 だがそんな彼を嘲笑うかのように、暗黒が押し寄せてきた。

 「師匠…すいません…」

 意識が薄れ行く中、最期の最期でグロウが口にしたのは師への謝罪と。

 「…大光ビッフール…」

 花火のように大きく、明るい光を作り出す光の初歩魔法だった。


――――――――――


 「起きな、この馬鹿弟子」

 「ぐあっ!!??」

 死に際のグロウの意識を覚醒させたのは、他ならぬ師匠の、踵落としと言う名の愛の鞭だった。しかもご丁寧にも綺麗なまでに鳩尾に。

 「痛ッ~!な、何を!」

 「やかましいね、も一発いっとくか?」

 有無を言わさず再び鋭い踵落としがグロウに襲いかかる。

「そう何度も喰らうか!」

 両手を頭の上でクロスさせ、踵を受け止める。

 「ほう?なかなかやるようにはなったみたいじゃないか」

「おかげさまで。少しは俺も成長―――」

 言いかけて気付く。

「あれ…?し、師匠?」

「何だい、その面は?言っとくけどあたしゃこうしてしっかりと生きてるよ」

あんたの掴んでるその足が証拠さね、と事も無げに鼻を鳴らす師匠。

「…不死(ノデン)系のザジって可能性は?」

 「お望みならアンタをそうしてやろう、か!」

 一旦足をどかして、ガードの隙間に電光石火の三連蹴りを叩きこみ、怯んだところに更に顎への掌底、すかさず後頭部へ手をまわしてとどめの膝蹴り。

 本当に昨日死にかけていたのかと思わんばかりの鮮やかな連携であった。受けたグロウとしてはたまったものではなかったが。

 

―――――――――――――――――――


 「コルルナ先生…、二階の患者さんが瀕死の重体なんですが…」

 「?ノウフィ氏なら今朝方峠を越えたはずでしょ?」

 「いえ…その、お弟子さんのほうが」


―――――――――――――――――――


 「全く…師弟喧嘩も程々にしてくださいよ?はい、終わりました」

 呆れ顔を浮かべてグロウの治療を済ませたのは、医師でありこの診療所の主であるコルルナ=ジオット。

 昨晩、グロウの使用した光魔法を目撃した町の住民が二人をここへと運び込んだのだ。

 「喧嘩と言うより、一方的に俺がぶん殴られているんですが…」

 腫れた頬をさすりながらグロウがぼやいた。

 「ふん。余計な事を言うからだ、馬鹿弟子め」

 師匠が不機嫌そうに腕を組む。

 「正直私は昨日瀕死だったあなたが、どうしてここまで動けるのかの方が気になるのですが、ノウシィさん?」

「そりゃあたしはノウシィ=チスカフだからね」

「答えになってませんよ」

 全く、とため息を吐くジオット医師。

「とにかく、二人ともしばらく絶対安静ですからね!」

 「「へーい」」

二人とも不満げにしつつも取り敢えず肯定の意を示すのであった。


―――――――――――――


 「しかし、もうこの時期になっちまったか、こりゃ参ったね…」

 コルルナが立ち去った後、いつになく真剣な面持ちで師匠が唸る。

 「『この時期』?どういう意味ですか?」

 その様子に並々ならぬモノを感じ取ったのか、グロウもまた真剣な口調で師匠の真意を尋ねるが、師匠はその問いにすぐには答えず、『シグ…いやウェンか?』とか『しかし…』、『やはり…な』など、頭をひねり出した。

 やがて得心行ったのかポンと手を打つとグロウを指し、口を開く。

 「よし、やっぱりお前に任せる、グロウ」

 「へ?」

 呆気にとられるグロウを余所に、師匠はさらに言葉を続ける。

 「これはあたしの遺言であり、アンタの音魔術ミューアの修業の総仕上げだ」


 「3年後の満月祭、ストジ山の遺跡にアンタの姐弟子6人全員を集めて漆月の鎮魂楽章を奏でること。それがアンタへの最後の課題だよ」

許してください、なんでもしますから!

これからはもっと早めに続きを投稿しようと思います…

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