第1楽章 楽士、その捜索の旅。
こんにちは、斬鉄犬です。
ブレイブ・フェザーとは全く毛並みの違う冒険譚、「藍の楽士と6人の姐弟子達」。
正直手探り感が浮き彫りですが、頑張ります!
それでは、「藍の楽士と6人の姐弟子達」の幕開けでございます!
エルノワ公国第2都市・ブリツ。
エーベンコッグの中でも五本指に入る、大都市だ。
「…やっと着いた」
街の門の前で、藍色の外套を身に纏った青年が呟く。
「キキィッ」
その肩で翼を持った黒い狐が急かすように声を上げた。
「解ってるって。けど今日はもう日が暮れるし、先に宿を探そう」
なだめるように指で狐の顎下をくすぐる青年。
心地良さそうに目を瞑り、「キィ」と鳴き声を上げると、主人の肩を軽やかに滑り降り、門へ向かって歩き始める。
「さて…この街に居るはずなんだけど」
肩に掛けた荷物を背負い直し、青年は狐の後を追って門をくぐった。
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「いらっしゃい!!」
町一番の宿屋「キダヌキ亭」の店内は宿泊客と、酒場の飲み客で大いに賑わっている。
「大人1人とハネギツネが一匹。そんなに立派な部屋じゃなくていいんだけど、空いてる?」
青年がカウンターに身を乗り出し、主人に尋ねる。
「ええ、それなら二階のお部屋がありますが…。失礼ですがお客さん、旅の人?」
あまり見慣れない格好をしているらしく、部屋のカギを渡しながら物珍しそうに店主が質問を返す。
「まあ、南の方から、ね」
鍵を受け取り曖昧にそう答えると、宿泊料を払ってさっさと部屋へ向かう青年。
大分お疲れのようだな、と肩をすくめる店主だったが、ハッとしてすぐさま青年を呼び止めた。
「お客さん、帳簿に署名をお願いします」
「ああ、すまない」
差し出された宿帳にスラスラと自分の名前を書き込む。
「グロウ=エルディッツさんね。ごゆっくりどうぞ〜」
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「ふぅ〜」
部屋に入って荷物を下ろし、一息つく。
ここ最近は野宿ばかりだったので、久し振りにふかふかベッドで熟睡出来そうだ。
「キィ」
「どうした、ジェム?」
胸をなでおろしたのも束の間、相棒のハネギツネのジェムが何かに感づいたのか、扉に向かって歩き出した。
「…あれ?」
そう言えば、先程まで扉越しにも聞こえていた喧噪が何時の間にかサッパリ途絶え、代わりに何処からともなく美しい旋律が流れてきている。
軽やかに、それでいて確かに耳に届く美しい音色。
グロウはその旋律に、正確には旋律に込められたモノに覚えがあった。
旅に出る前の厳しい修行時代。
1日の終わりに必ず師匠が奏でてくれた、懐かしくて優しい音。
『水』の音魔術。
『心癒楽章・第二章 黄昏のウンディーネ』だ。
「こんなに早く見つけられるとは…!行こう、ジェム!」
「キキィ!」
居ても立ってもいられなくなったグロウは、自分の弦楽器を手にし、音の出どころへ向かって歩き出した。
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目的の人物は酒場のステージに設置されたピアノを弾いていた。周囲のテーブルには既に多数の客が鎮座しており、旋律を酒肴にゆったりとした雰囲気を楽しんでいる。
「ちょっとすみません」
客の邪魔にならないよう、ピアノの近くのカウンターまで忍び足で歩くグロウ。
幸運な事に席が幾つか空いており、その内の一つに座るとマスターに水を一杯注文する。
酒場に来て水?と言いたげな顔をするも、直ぐにグラス一杯に注がれた水を渡すマスター。
「どうも」
グラスを受け取り、少しだけ水を飲む。
「お兄さん、見ない顔だけど旅の人かい?」
隣でウィスキーを嗜んでいた髭面の男性が話しかけて来た。
「ええ、まあ。南のグリセーから」
「グリセー?そんな遠くから、一体何しに?」
グリセーは公国最南端の牧草地にある小さな村。ブリツからは歩いて半年はかかるド田舎なので、髭面の疑問はもっともなものだった。
「人を探してて」
親指でピアノを演奏している人物を指差しながら答えるグロウ。
「今、漸く一人目を見つけたところです」
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心癒楽章『黄昏のウンディーネ』。
ラフカス湖の妖精・ウンディーネは人々の癒やし手。
ある日の黄昏、ウンディーネは傷付いた魔術師に出
会う。
癒やしの魔力が込められた清らかな歌声と、包み込むような優しさによって命を救われた魔術師はウンディーネを称え、この曲を手掛けたと言う。
「ですっけ、師匠?」
修行時代に教わった知識を思い出しながら、ぼそりと呟く。
「?何か言ったかい?」
「ああ、いやこっちの話です」
慌ててごまかし、また少し水をすする。
冷たい水が喉を滑り落ちていく。
「おや?そういえば兄ちゃんも楽器持っているみたいじゃないか?」
髭面がグロウが背負っている弦楽器に気付いて尋ねた。
「どうだい?シーフィさん―――ああ、今ピアノ弾いてるお姉ちゃんな。彼女が終わったら一曲弾いてみてくれないか?」
「え、いいんですか?」
突然の提案に戸惑いを隠せないグロウ。
「ああ。問題ないだろ、マスター?」
「ええ、勿論ですとも。私からも是非お願い申し上げます」
皿を拭きながらダンディーな仕草で頷く酒場のマスター。
「マスターもこう言ってくれてるしちょうどシーフィさんのも終わっちまった。一丁頼むよ兄ちゃん」
見るとシーフィと呼ばれた女性が、鍵盤を打つ手を止め立ち上がり、喝采を浴びている。
「はあ…」
しょうがない。役不足かも知れないが、やれるだけやってみよう。
渋々楽器を持ち上げ壇上へ上がろうとした、その時だった。
「キャッ!」
「「「あ!」」」
足を踏み外したのか、悲鳴を上げてシーフィがステージから転落しそうになっている。
(マズい!)
あの位置では助けは間に合わない。
(やるしかない!)
そう思った時には既に身体が動いていた。
「風弦!」
瞬間。
グロウが弾いた楽器の弦の一本がうっすら緑色の光を帯びたかと思うと、店内を一陣の風が駆け抜け。
「集いし風よ、かの者を救え!《風操楽章・戯れのシルフ》!」
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「…あれ?」
皆が目を見開いたその先には。
「…間に、あった〜…」
フワフワと宙に浮かぶシーフィと、その場にへたり込むグロウの姿があった。
「今の…音魔術?」
地に足を降ろし、呟くシーフィ。
「に、兄ちゃんが今のをやったのかい!?」
「すげぇ!すげぇよアンタ!」
「何?どんな術を使ったの?」
座り込んでゼエゼエ喘ぐグロウの元にその場で一部始終を見ていた客が押し寄せて来る。
「ちょっ、待って!押さないで!うわあああ!」
あっという間に四方八方から迫り来る人の波に飲まれてしまった。
「すいません、通してください」
人混みを押し退け、グロウのそばへ駆け寄るシーフィ。
「あ、アナタ…」
やがて床にへたりこむグロウと、彼の持つ弦楽器に刻まれた印を見つけると確信と驚愕を強める。
「やっぱり!グロウ、グロウ=エルディッツ!」
それもそのはず。彼女にとってグロウはーーー
「お久し振りです、シーフィ=ブランデルグ、いやーーーシグ姉さん」
弟弟子なのだから。
如何だったでしょうか?
前書きにもあるように、このお話は斬鉄犬が描いているもう一つの小説、「ブレイブ・フェザー!」とはあらゆる点で異なっているため、作者自身も正直手探り状態です。
その中でも一番気にしているのが、地の文。
この物語は「ブレイブ・フェザー!」のように一人称視点から展開することはほとんどありません。
これは実は斬鉄犬にとっては初めての手法なので、読みづらさが半端ではないかもしれません。
もっと精進したいと思います。
それでは皆様ごきげんよう。