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第35話:強制アップデートと年齢詐称 ~乙女の秘密(生年月日)を書き換えるのは重罪ですか?~

本日は一話のみです。

同意確認アクセプト。――システム・ハック、開始スタート


俺は黒い(アンチ・エイジ)魔石(ング・パッチ)を、一条葵の背中にある接続ポート(回路)へと突き立てた。


ジュウウゥゥ……!


まるで焼きごてを押し当てたような音が響く。

固形だった魔石がドロリと液状化し、彼女の制服ごと皮膚の奥へと浸透していく。


「あ……ぁああっ……!」


葵が背中を反らせ、声を漏らす。

それは痛みではない。もっと異質で、根源的な感覚。

自分の(OS)の深層領域に、他人の指が入り込んでくるような、熱く、甘く、そして恐ろしい浸食感。


「暴れないで。今、ファイアウォールを突破してます」


俺は彼女の背中を押さえつけながら、淡々と作業を進める。

視界には、彼女の生体情報を数値化したウィンドウが重なって見えている。


> [WARNING] Unauthorized Access Detected

> [TARGET] Soul Core: Aoi_Ichijo

> [ACTION] Bypassing Security Level: High...

> [RESULT] Access Granted (Admin Mode)


「んっ……あぅ……! 嘘、奥まで……書き換えられちゃう……!」

「声を抑えてください。変な誤解を招くと、後でコンプライアンス委員会に呼ばれるのは僕なんです」


俺はテスターの画面を睨みながら、魔力で構成された仮想キーボードを高速で叩く。

やっていることは、ただの設定ファイル(コンフィグ)の書き換え(・イジり)だ。

だが、対象が生身の人間である以上、そのフィードバックは強烈な快楽(あるいは苦痛)となって脳を揺さぶるらしい。



一方、結界の外では、カイと凛が決死の防衛戦を繰り広げていた。


「くっ、キリがないよ……! 航、まだか!?」


カイが音響デコイを投げながら悲鳴を上げる。亀の群れは、まるでゾンビのように湧き続けている。


その時だった。


「ひぁっ……! そこ、熱いっ……! すごいの、入ってくる……!」


結界の中から、艶めかしい悲鳴が響き渡った。

戦場には不釣り合いな、あまりにも色っぽい声。


「ちょ、航!? 中で何をしてますの!?」


凛が真っ赤な顔で振り返り、叫んだ。


「声が……その、破廉恥ですわよ! 治療って言いましたわよね!? まさか、どさくさに紛れて……!」

「……はは、きっと『大人の治療』なんだろうね」


カイは乾いた笑いを浮かべながら、迫りくる亀の首を剣で切り飛ばした。


「僕らはお邪魔虫(ガード)に徹しようか。……航のことだから、きっとロクでもない理屈があるんだろうけど」


そんな二人の会話がインカム越しに聞こえ、俺は眉間の皺を深くした。


「……お前ら、勘違いするな」


俺は作業の手を止めずに、インカムへ向かって冷静に言い放つ。


「ただのファームウェア・アップデートだ。再起動中はファンが唸る(声が出る)もんだろ」



俺の意識は、葵の魂のソースコードへとダイブしていた。

そこには、彼女という存在を定義する膨大な文字列が並んでいる。

そして、赤く点滅する一行を見つけた。


> `Target_ID: Aoi_Ichijo`

> `User_Age: 18 (Heavy Usage - Connection Throttled)`


「見つけた。こいつが諸悪の根源だ」


ここにある18という数字と過剰使用の履歴が、サーバー(神)に「コイツは端末を酷使しすぎだ」と告げ口している。

結果、サーバー側から拒絶(Reject)信号が送られ、魔法の発動が阻害されているのだ。


「なら、騙してやればいい」


俺はパッチ・プログラムを展開し、この行にマスク処理を施す。

サーバーへ送信するパケットのヘッダ情報だけを、偽装するのだ。


> `Running Patch: Anti-Aging_v1.0`

> `Overwrite: User_Age: 15 (New Device)`

> `Spoofing Server Response... OK`


エンターキー(実行)を叩く。


「はい、あなたは今日からピチピチの15歳です。……サーバーもそう認識しました」


> `Update Complete.`

> `Rebooting System...`


書き換えが完了した瞬間。


ボシュゥゥゥ……ッ!!


葵の全身から、黒い霧が噴き出した。

それは、長年の酷使によって体内に蓄積していた不純物ノイズであり、不完全燃焼の証であるすすだ。


「はぁっ……!?」


葵が大きく息を吸い込む。

今まで詰まっていたパイプが一気に開通し、新鮮な魔力(酸素)が全身の細胞に行き渡る。


ドクン、ドクン。


心臓の鼓動が力強い。重かった体が、嘘のように軽い。

まるで、泥だらけだった窓ガラスを拭き上げた後のように、世界が鮮明に見える。

彼女の肌は内側から発光するように輝きを取り戻し、瞳の濁りは完全に消え去っていた。


「パッチ適用完了。これよりシステムを互換モードで再起動します」


俺はテスターをしまい、汗を拭った。


「おめでとうございます先輩。今のあなたはシステム上、永遠の15歳(仮)です」


ピシッ……!


その時、凛の展開していた多重物理結界に亀裂が入った。


「もう限界ですわ! 結界が割れます!」


バリィィン!!


光の壁が砕け散る。

雪崩れ込んでくるアーマード・タートルの群れ。鋭い牙が、無防備な俺たちに迫る――。


だが、俺は動かなかった。動く必要がなかったからだ。


「――下がってて」


凛とした声と共に、俺の前に一人の少女が立った。

一条葵。彼女は今、戦場に似つかわしくないほど穏やかな微笑みを浮かべていた。

彼女がゆっくりと右手を上げる。その動作に、以前のような気負いや焦りは一切ない。

ただ、呼吸をするように自然に、指を鳴らした。


パチン。


乾いた音が響く。

その瞬間。


ドォォン!! ……ではない。


シュボッ。


そんな、ガスバーナーに着火したような短い音がしただけだった。

しかし、結果は劇的だった。


「「「ギャッ……!?」」」


最前列にいた十数体の亀たちが、一瞬にして消失したのだ。

爆発も、衝撃波もない。

ただ、そこに存在していたはずの質量が、青白い炎に包まれたかと思うと、一瞬で炭化し、塵となって崩れ落ちた。

音も出さないほどの、超高温・完全燃焼。エネルギー変換効率 99.9%。


蒼炎(ペール・ファイア)』。


「う、嘘……」

凛が目を見開いて絶句する。カイも口をポカンと開けている。


以前の葵の魔法は、派手な爆音と黒煙を撒き散らす暴走トラックだった。

だが今は、静寂の中で全てを焼き尽くす最新鋭のレーザー兵器だ。


「よし」


俺はテスターの数値を確認し、満足げに頷いた。


> [STATUS] 魔力燃焼効率:99.9%(完全燃焼)

> [TEMP] 炎温度:3000℃以上(青色火炎)

> [NOISE] 排気ガス(スス):ゼロ


「アイドリング安定。空燃比(AFR)正常。……燃調セッティング、バッチリだな」


現場監督として、これ以上の施工結果はない。

俺は静かに、完了報告書(日報)の下書きを脳内で始めた。

また明日、ご安全に!

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