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第9話


「――本日はすみません。お忙しいところ」


 店員が去って行ったのを確認すると、海城はさっそく本題へと入るために軽く社交辞令として軽く頭を下げた。


「い、いえ。大丈夫です。電話でもお話しした通り今日は休みなので」


 頭を下げる海城に驚いた様子で慌てて港はそう答える。これは嘘じゃない。元々休みだったのだ。


 港の仕事は本屋の店員で、基本的に店に固定の休みはなく「不定休」という形でシフト制という事もあって平日が休みになる事も多かった。


 しかし「休みの日こそ予定を詰めて忙しい」という人など色々な人がいる事を海城は経験として知っていたため、電話で一応聞いてはいたものの再度お礼を言いたかったのだ。


「だから、あのあまり気にしないで下さい。暇なので」

「そうですか」


 どこか困った様子で笑う港に対し、海城も正直反応に困ってしまった。


「はい。それより――」


 ただ「この話はここで終わらせた方が良さそうだろう」と思ったのは何も海城だけではなかったらしく、今もまだ緊張しているのか視線は泳いでいるものの港は海城に会話の続きを促した。


「はい、本日お呼びした件ですね」


 この流れにわざわざ逆らう理由もないので海城はお言葉に甘えて乗ろうとカバンの中からファイルを取り出し一枚の写真を港に見せた。


「……」


 そこには小野寺が写っている。


 青……ではあるもののどこか水色にも見えるこの背景で上半身が写っている写真はドラマさながらだ。


 多分。運転免許証で撮った物をそのまま使っているのだろうが、こういった場面でも無ければ撮ることのない背景と表情だとも思える。


 なんて事を考えてしまうのは今の状況があまりにも現実身がないからだろうか。


 しかしこれはドラマでも何でもなく紛れもない「現実」だ。


「こちらの『小野寺和樹さん』があなたとお会いしたいとおっしゃっていまして本日お呼びした次第です」

「……」


 これは前もって聞いていたから別に驚くような事でもない。


「小野寺さんとは昔からのご友人なのですか?」

「友人と言いますか……まぁ、学生時代にちょっと仲が良かっただけですよ?」


「それはつまり学生の間だけ仲が良かったと言う事でしょうか?」

「……はい。中高一貫で小野寺とよく話していたのは高校の間だけ。その後は進路が別れてしまって学校を卒業してからはそれっきりで」


「連絡先などは――」

「いえ特には」


 そう港と小野寺は連絡先も交換すらしていなかったのだ。


 だから実は学校を卒業してからの彼の事は「ここを卒業して後はきっと上手くやるだろう」位にしか当時は思っておらず、正直なところこの事件で名前を見るまで彼がどうしているのかすら忘れてしまっていたのである。

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