第7話
「……」
視線を下に向け、どこか落ち着きのない様子でしどろもどろ――この様子から海城は彼女が「人から話しかけられる事に慣れていない」という事に気が付いた。
まさか人違いだったか……と一瞬海城は考えたが、どうやらそうでもなさそうだというのは目の前にいる彼女の反応から何となく分かった。
もし仮に人違いであればたとえ話しかけられる事自体に慣れていなかったとしても、すぐに否定をするはずだ。
それなのに「こういった時どう反応するのが正解なのだろう?」と言わんばかりのこの反応をするという事は彼女が『港明海』だという一種の証明みたいにも感じられる。
「――初めまして。私、本谷弁護士事務所の海城仁と申します」
「あ、港……明海です」
先に海城から名乗った事で港はどこかホッと胸をなで下ろした様な様子で港も自己紹介をした。
「とりあえず……入りましょうか?」
「そう……ですね」
そういえばここはまだ入り口だった……と港はふと気が付き、海城もそれが分かり切っていたのかどこか苦笑いをしている様に見えた。
確かに、港たちが入り口付近にいながら運よく来客がいなかったから良かったものの普通であれば邪魔で仕方がなかっただろう。
港もそれが分かり海城につられてお互い苦笑いをしたままようやく店内へと入って行った――。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「いらっしゃいませー」
ようやく入って来た港たちに店員はどこか待ちくたびれた様子が見えたが、それも仕方がない。入口付近で立ち止まっていたのは自分たちだ。
「お好きな席へどうぞー」
ただ、新規のお客を出迎えるだけが店員の仕事ではない。その証拠に店員が持つトレイの上にはお客が注文したと思われる美味しそうな料理が乗っている。
「……あそこでいいですか?」
「あ、はい」
思わず店員が乗せている料理に目を奪われてしまっていた港だったが、海城に声をかけられた事ですぐに我に返って答えた。
ただ、海城の言った「あそこ」を見てはおらず生返事になってしまったが。
「ふぅ」
いけないいけない、今日の目的を忘れるところだった……と港は一人気を引き締め直した。
今回、海城から電話があったのは小野寺に関する事だ。その電話では詳しい話はされなかったが、今日こうして「待ち合わせ」という形で向こうから会いに来たという事は、それなりに話し込む可能性があるという事だろう。
「……」
確かに学生時代の数年は結構な頻度で一緒にいた。
これを話す機会はそう多くはないが、仮に話したら意外がる人はそれなりにいるだろう。
なぜなら、彼の見た目も含めて一般的に見れば彼はいわゆる「陽キャ」と呼ばれるものに分類され、自分はその逆の「陰キャ」に分類されるからだ。
ただ「どうして?」と聞かれても明確な理由を港は知らないし分からない。なぜなら「彼自身が」なぜか港の隣にいつもいたがったからである。




