第6話
彼女『港明海』は少しだけ困惑していた。
「……」
なぜなら彼女が呼び出されたのは最近若い子に人気とテレビのバラエティ番組で特集されていたおしゃれな喫茶店だったからだ。
正直なところを言うと、彼女自身も二十代の前半でまだまだ「若い子」に入る年齢ではある。
しかし、彼女がこうした場所に来るのは初めてだったという事もあってかどうしても「お店に入る」というだけでも躊躇ってしまう。
「はぁ」
昨日かかってきた電話は『海城』という名の弁護士からのものだった。
最初こそ全く見慣れない番号に戸惑って出なかったが、留守電が入っていた事とネットで調べてこの番号が弁護士事務所からの物だと確信した事で折り返しの電話を今度は港からかけた。
そして「小野寺さんの事でお話ししたい事がある」という事でこの喫茶店で待ち合わせをする事になった……という訳だ。
多分、相手は小野寺と同い年という事で「若い子が好きそうなお店の方が良いだろう」と考えてきっとこのお店を指定してくれたのだろう。
ただ、港はそういった「おしゃれなお店」とは無縁な生活を送って来た。
だからこそこうして「どうやって入ろう」などと変に構えてしまうのだ。
つまり、海城の「変な心遣い」jは港からしてみればそれはありがた迷惑な話で、むしろチェーン店のファミリーレストランくらいで良かったのである。
もちろん、海城はそんな港の事情なんてつゆ知らずデスクが隣の後輩に「若い子が好きそうな喫茶店ってどこか知らないか?」と聞いた結果なのだが。
しかし、このままお店の外でうろちょろしているのはただの不審者にしか見えないだろうし、それこそお店の迷惑になってしまう。
それに……多分、お店の人は港の存在に気付いている。その証拠に視線を合わせない様にしてはいるものの、チラチラと見ている様に感じる。
「……よし」
そこでようやく港は決心してお店に入ろうとドアノブに手をかけたところで……。
「港……さんですか?」
後ろからスーツ姿がよく似合うちょっと強面な男性に声をかけられた。
「……?」
あまりにも突然の事で港は思わずキョトンとしてしまったが、自分に声をかける様な人間はそう多くない。それに、今日は「待ち合わせ」をしている。
そんな中で「声をかけてくる」という事はつまり「声をかけてきた相手こそが待ち合わせの相手」という事になるのだが……。
「え……っと」
そもそも知らない男性の方から声をかけられるという経験が浅い港はそんな事は完全に忘れてただただ困惑し、その場で俯いてしどろもどろになってしまった。




