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第4話


 何かが違う……しかし、その「何が」と聞かれても答えが見つからない。


「こんにちは。今日も寒いですね」

「……」


 閉じ込められた場所にいると外の景色はおろか時間の流れもよく分からない。ただ「体感温度くらいはさすがに分かるだろう」と海城は出来る限り気さくに声をかける。


 元々明るい性格ではない。しかし、あえて明るく声をかけた方が意外と上手く事が運ぶ事の方が多いのも体感としてあった。


 もちろん、気さくに話しかけられて相手を刺激してしまった事もあるにはあるが……そうした時は誠心誠意謝る。これに限る。


 ただ……彼に限ってはその「どっち」すら分からない。いや、どこか呆れた様子だったからもしかしたらお気に召さなかったのかも知れない。そうなったらこちらも出方を変えなくてはならないが。


「……ぁの」


 なんて今後の対策を考えていると、不意に小野寺の方から海城に声をかけて来た。たった一日や二日声を出していないだけでも声を出しにくいのかその声はか細い。


「!」


 あまりの声の細さに思わず驚きの声を上げそうになってしまったが、ここで声を上げてしまってはもしかしたらもう二度と声をかけてくれないかも知れない。


「どうされましたか?」


 そう考えた海城は自分の感情に蓋をして出来るだけ平常心を心がけつつ小野寺に問いかけた。


「今日は……何日ですか?」

「今日ですか? 今日は二月の十二日ですが」


 世間一般ではもうすぐ……と言うかもう二日もしない内にあっという間に「バレンタインデー」という甘いお菓子のイベントを迎える。


 百貨店に限らず近所のスーパーなどもチョコレートやチョコレートを使ったお菓子の特設コーナーが作られたり増設されたりしているのを横目で見ながら自分は安売りしている総菜を買っていた。


 ただ、近年の「バレンタインデー」は海城が子供の頃は随分と変わった様に思う。


 確か海城が子供の頃の「バレンタインデー」と言えば女子から男子に渡すイベントだったはずだ。


 今でももちろんそういった面はあるものの、昨今ではどちらかというと「日頃頑張っている自分へのご褒美」として買ったり「友達同士で好きなチョコレートを渡す」といった側面の方が強くなっている様に思う。


 決してそれが「悪い」とは言わない。ただ「告白のイベント」みたいな色が強かった自分とは随分と変わったな……と、チョコレート売り場にいる子供や女性の姿を見てどこか寂しい気持ちにならなくもない。


「そう……ですか」

「はい」


 それにしてもどうしてそんな事を聞くのだろうか。


 確かにここにいると時間の流れは今一つ分かりにくいとは思う。だからこその問いなのだろうか。


 それとも……他に何か理由でもあるのだろうか。


「……あの」

「はい」


 小野寺はいつもの様に俯いてはいるものの、明らかにいつもとは違って何か考え込むようにこちらには聞こえない声量でブツブツと呟いている。


「……」


 きっと彼は自分の考えを声に出して整理するタイプなのだろう。それならばこちらから声をかけるのは野暮だ。


「俺の方から会いたい人を呼ぶ事は……出来ますか?」


 そして考えがまとまったのかようやく小野寺が海城にそう問いかけた。


「可能です」


 海城は小野寺の問いに即座に答える。


「ですが相手の方に確認が必要ではあります。それとその場合は『面会』という形になりますので長時間話す事は出来ませんし、警察の方も同席しますがよろしいでしょうか」


 ただこれは念のために伝えておかなければならない。もちろんこれは相手にもだ。


 つまり海城は「この件の担当弁護士」という立場で話を聞いている事からこそ警察はいないだけであって友人や親となればそれは『面会』となるので発言の内容には細心の注意を払わなくてはならないのだ。


「はい、大丈夫です」

「分かりました。それではその方のお名前を教えてもらえますか?」


「はい。名前は――」


 小野寺がなぜ突然そんな事を言い出したのかは分からない。しかし「もしかしたらこれが何か大きなきっかけになるかも知れない」と海城はどこか期待していた。

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