第3話
「……」
事務所近くの駅で電車に乗り、海城は今回の一件を振り返る。
現在、一連の事件の「被疑者」として留置されている『小野寺和樹』なのだが、そもそもの話。彼こそが警察に連絡を入れて来た張本人だという事を忘れてはならない。
その時の電話を取ったとされる警察官からの話を聞いたとされる調書に、彼の声は震えていてあまりにも突然の事で気が動転しているのが分かったと記されていた。
つまり、彼は女性の自殺を全く予知していなかったと思われる。
ただもちろん「演技」という可能性も捨てきれない。だからこその事情聴取だ。
しかし、これはあくまで海城の見立てで警察側の捜査資料から見た状況証拠のみの判断にはなってしまうが、多分。彼は女性の死亡には何も関係はないと海城は睨んでいる。
なぜなら彼女が亡くなったと見られる状況が典型的な「自殺方法」だったからだ。
天井に縄上の物を吊るしてそこに首をかける……と言う。
今時ここまで典型的な自殺方法を取るのも珍しいとは思い「怪しい」と睨んだ警察が遺体を調べたらしいが何も不審な点は見られなかったそうだ。
つまり彼女は自分の意思で「自殺」という方法を選んだという事になる。
そうなると……彼は巻き込まれてしまった人間になるのでそれをただ主張すればいいだけの様にも思えるのだが……。
「なぜか口を開かない」
下手をすると顔もまともに見ていないのではないだろうか。写真で彼を見た事はあっても最初の対面以降彼の頭頂部しか目にしていないと言っても過言ではない。
この時点で「何か事情がある」というのは分かりきっているのだが、ここまで頑なだと海城も困ってしまう。
「……」
彼と彼女の間に「何かがある」というのはまぁ考えなくても分かる。そしてその彼女はまた別件の殺人事件の容疑者として名前が挙がっていた。
その男性は彼女の恋人だったらしいのだが、この男性行きつけのバーにいた知人曰くこの男性がどうにも外面は良いのにモラハラの激しい人物だったそうだ。
しかも時には暴力をふるう事もあって警察を呼ばれた事も度々あるらしく、そうした警察の出動履歴も残っていたそうだからきっと間違いないだろう。
ただ、その時の恋人は今回の女性ではなく別の女性で、ここ最近はそういった事も減ってまたバーに来る事自体減っていたそうだ。
捜査資料には「久しぶりにバーに来たと思ったら新しい彼女が出来たって言ってた」といった内容も書かれていたのでこの「新しい彼女」こそがこの女性だったと思われる。
その際、雰囲気も穏やかになっていため知人たちは「良い女性に巡り合えたのだろう」と知人たちは思っていたそうだ。
しかし、それは「本当にいい女性に巡り会えたから大人しくなった」という事なのだろうか。
もしかしたら人知れず彼女が反抗しないだけでひどいハラスメントや暴力を受けていた可能性も否定は出来ない。
「……」
いや、むしろその可能性の方が高いと思われる。なにせ彼女の遺体には暴力を受けたであろう痣の様なものがあったと記されていたから。
それらを踏まえて警察は男性の恋人が犯人だろうと睨んで真っ先に彼女を疑った……という訳なのだろう。
そして彼女から事情聴取をしようと部屋を訪れた時には既に彼女は彼の部屋に身を寄せていた……という事になるのだろうか。
ただ、そうなるとどうして彼女は彼の家。いや、彼が住むマンションの一室で亡くなったのか……という「理由」が必要なはずだ。
いや、それともひょっとしたら「理由」なんて複雑なものではないのかも知れないが……今の状況ではそれすらも判断出来ない。
状況証拠だけ見れば彼が白なのは明白だ。しかし、今の状況ではむしろ証拠は「それしかない」とにかく彼自身の口から何かしらの情報を聞き出さなければ弁護のしようがない。
「――さて」
海城は彼が留置されている警察署の最寄り駅で電車を降りて改札を出る。
「どうするかな」
ここまで事件の経緯を振り返ってみたものの……結局明確な解決策など思い浮かぶ事はなかった。
それもそのはず。
なぜなら彼はここに来るまで何度もこの事件について考えては自論を組み立て対面して来たからだ。
それでも結局それが実を結んだ事はない。
正直、思い出すだけで悲しくなってしまうところではあるが「何事も思い通りに行くものではない」と海城は自分を鼓舞して来た。
「……」
しかし……今日は「どこかいつもとは違う」と接見室で小野寺と対面して海城は悟った。




