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第2話


「……はぁ」


 所変わってここはとある弁護士事務所のデスク。そこで一人の弁護士が大きなため息をついていた。


「あ、お疲れ様です」

「ん? ああお疲れ」


 彼は『海城かいじょうひとし』と言うのだが、見た目は年齢の割に若く見られる事が多く、それ故になぜかいつも相手から舐められる事も多かった。


 しかし、それは昔からの事だったので海城自身全く気にしていない。それどころか「相手が舐めてかかってきてくれているのならありがたい」とすら思っている。


 決して負け戦をするタイプでもないので勝ち目がないとすぐに分かる案件には手を出さないしクライアントにもそう伝える。


 相手によっては怒るかも知れないが、負けが分かっている戦に出て勝てる程の実力がない事は自分でもよく分かっているつもりだ。


 だからわざわざ言う。たとえ相手が怒ったとしても……。


「随分と思いため息でしたね」


 ニコッと笑顔でそう尋ねる後輩の手には二つの紙コップが握られていた。


「ああ、まぁな」

「本当に……お疲れ様です。あの、これどうぞ」


 どうやら後輩の弁護士がここ最近珍しくずっとため息ばかりついている彼に気を遣って自販機から飲み物を買って来てくれたらしい。


「……」


 ここの自販機の飲み物を気に入っている訳ではないが、彼は日頃のルーティーンと言わんばかりにほぼ毎日ここの自販機を利用していた。


 後輩はそれを知っていたのだろう。それならばせっかくの心遣いを無下にする理由はない。


「ありがとう」


 お礼を忘れずに飲み物を受け取ると、ちょうど隣である自分のデスクに紙コップを置いてその後輩も座る。


「大変ですね」

「……ああ」


 海城が今どういった案件を扱っているかは後輩もそれとなく知っているはずだ。それでも詳しく聞こうとしない辺りはきっと後輩なりの配慮だろう。


 確かにコーヒー片手で話す話題でもない。しかし、このどうにもやりきれない気持ちを誰かに話したい気持ちもある。


「……」


 海城が弁護士になってそれなりに経ち、経験もそれなりにあると自負はしている。そうした経験の中で黙秘権を行使してだんまりを決め込む被疑者は相当な数がいる事も知っている。


 しかし、ここまで黙秘を続ける被疑者はかなり稀だと海城は思った。


 いや、先ほども言った通りいない事もない。


 だが、そうした時には「何か事情があって黙っている場合」と「捕まった理由が明確で不利にならないために黙っている場合」と様々な事情があって大体察しがつくものなのだが……どうにも今回は前者だろうとは思う。


「……」


 だからきっと彼にも何かしらの理由があるのだろう。それは海城にだって分かる。本来であればそこからどうにかして話を聞かないといけない。


 なぜなら理由が分からない限り弁護のしようがないからだ。


 しかし、どうにも海城は彼が自分に対して苦手意識を持っている様に感じる。


 ちなみに今回は被疑者と疑われている人物の家族からの依頼なのだが……どうやらその事も関係しているのかも知れない。


 普通。弁護士を雇ってまで息子を守ろうとするだけでもかなり家族思いだと思うのだが、最初にこの事を彼に伝えると、彼は「ああ、そうですか」とどこか呆れた様子でため息をついていた。


 その様子から「きっと家族間の仲はそこまで良くないのだろう」という察しはついていたのだが……ひょっとしたら警戒させてしまったのかも知れない。


「……よし、行くか」


 海城は一気に紙コップの中のコーヒーを飲み切ると急いで荷物をまとめ始める。


「今日もですか?」

「ああ、これ。サンキューな」


 後輩に再度お礼を言うと、後輩は「いえ、お気になさらず。行ってらっしゃい」と笑顔で声をかけ、海城はそれに「おう」と軽く答えて「彼」の元へと急ぐ。そう『小野寺おのでら和樹かずき』の元へ――。

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