第1話
「……」
「……」
ここはとある警察署内にある一室。そこで刑事は「ある人物」と対面をしていた。
「……」
目の前にいる人物は一向に口を開く事はなく、それどころか俯いたまま何も反応を示さない。
ここは普段から事情聴取が行われている部屋として使用しているのだが、刑事の問いかけに対しその「人物」は無反応のままで刑事の声だけが部屋に響く。
しかし、昔のドラマなどで見るような威圧的な態度はなく、あくまで「状況の確認」に徹している。
ただの「確認」なのだから返事をしないまでも「首を振る」というだけでも「答え」になりそうなものなのだが、それすらしない。
「――今日もダメか」
「はい」
この人物が「今回の件について何かを知っている」というのは明白だ。
なにせその現場にいたのだから。
しかし、それだけでなく捜査を進めていく内にどうにも状況的に「この一件に大きく関わっている」と見た警察はこうしてこの人物を「被疑者」として今もこうして詳しい話を聞いているのだが……。
「何にも話さないどころか反応しない」
事情聴取は基本的に「任意」という形ではあるので拒否をする事も出来はする。
しかし、いくら任意とは言っても場合によっては逮捕状をとって身柄を拘束されてしまう可能性も存在しているので大体の人は応じる。
「黙秘権は誰にでもあるからなぁ」
「それは……そうですけど」
きっとこの人も「拒否したところで――」と思って警察に応じた口だろう。それに、この先輩刑事の言う通り誰にだって黙秘権はある。
それこそ「言いたくない」や「弁護士が来たら話す」と言う話はよく聞く。
「でも、あの様子だと誰にでもあの態度なんじゃないですかね? それこそ弁護士に対しても」
「……マジか。でも、あり得そうではあるよな」
確かにあれだけ口を閉ざしているところを見ると、後輩の言っている事もあながち嘘ではないのだろう。
「いや、でもなぁ。このままじゃあ拘留期間が延びるだけだぞ」
基本的にそう言った黙秘権を行使する人は自分が関わる事件を担当してくれる弁護士が現れたら話す事が多いと聞く。
だがしかし、もちろん話さないというのも個人の自由で尊重はされる。
「いや、分かりませんけど」
「分からないのかよ」
「弁護士と面会している時は俺たち警察は基本的に立ち入り不可なんで」
「いや知っているけどな? 今の口ぶりだと知っている様に聞こえるだろ」
なんて軽く愚痴を言い合いながら二人の刑事は今も俯いて汚れなんて見当たらないはずの新調したばかりの真新しい白い机の一点を眺めたまま微動だにしない被疑者の姿を見つめる。
「それにしても……本当にキレイな人ですよね。こう言っちゃなんですけど、あの見た目で男性なんですもんね」
若い刑事はどこか感心した様子で話すが、そこにはどことなく「憧れ」にも似た感情が見え隠れしていた。
「……俺にはそういった感覚はよく分からねぇけど、まぁ随分と可愛らしい見た目をしているなとは思った」
「へぇ? 先輩ああいった見た目の子がタイプっすか」
ニヤニヤとしながら尋ねる後輩刑事の姿は男子学生そのものだ。
「はっ! そうじゃねぇよ。俺のタイプはこうもっと……ってなんの話をしてんだ」
我に返って呆れた様子でため息をつくと、後輩刑事は「ハハハ」と笑う。
この「事情聴取」という本来であれば緊張感が高まる場のはずが、今のやり取りはあまりにも緊張感に欠ける。しかし……。
「でも、お前の言う通り俺も最初は女かと思ったけどな」
「あ、分かります? 長くてキレイな髪ですもんね」
実際のところ。後輩刑事に言う通り「長くてキレイな髪」もそうだったが、とにかくその見た目があまりにも中性的だった。
「でも、男性なんですよねぇ」
「ああ」
今一度その人を見つめるが、長く艶のある髪とその中世的な見た目からやはりぱっと見はどうしても女性に見えてしまう。
事の発端はとあるマンションの一室で殺人事件だ。
被害者は二十代の男性。部屋を荒らされた形跡はあったものの金品や所持品は何も盗まれておらず物取りによる犯行ではない事が鑑識により判明。
警察はすぐに男性の交友関係を洗い出し、事件当時男性が交際していたされると女性を「重要参考人」として事情聴取をしようと彼女の部屋を訪れた。
しかしそこは既にもぬけの殻だった……のだが、その後すぐ警察にある一報が入ったのである。
それは「朝。目が覚めたら友人の女性が首を吊って死んでいた」というもの。そしてそれを通報したのが……今も目の前で俯いている「彼」だった。




