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EP 8

忍び寄る魔手! リーザを狙う悪徳プロデューサー

 檜風呂完成から数日後。

 シェアハウスには、平和で穏やかな時間が流れていた。

「♪ごえーん、ごえーん、ごえーん! ハイッ!」

 リーザが上機嫌で鼻歌(例のスパチャソング)を歌いながら、リビングの床を拭いている。

 以前のような悲壮感はない。今の彼女は、ご飯を食べて、温かい風呂に入り、仲間と笑い合っている。

 本来の16歳の少女らしい、屈託のない笑顔だ。

「管理人さーん、ここの棚のネジが緩んでますわよー」

「へいへい、今締めるよ」

 俺は電動ドライバー(雷霆)を手に、ルナが指差した棚を修理する。

 平和だ。

 この生活が、ずっと続けばいい。そう思っていた。

 ――コンコン、コンコン。

 不意に、1階の事務所のドアがノックされた。

 客か? リベラへの依頼人だろうか。

「はーい、今出ます!」

 近くにいたリーザが、パタパタと駆け寄ってドアを開けた。

「はい、どちらさま……ひっ!?」

 リーザの言葉が、悲鳴に変わった。

 彼女は弾かれたように後ずさり、顔面蒼白になってガタガタと震え出した。

「み、見つけたぞぉ……。俺の可愛い『金の卵』ちゃん」

 ドアの向こうに立っていたのは、脂ぎった小太りの男だった。

 派手なスーツに、ジャラジャラとした貴金属。目は爬虫類のようにねっとりとしている。

 男の後ろには、ガラの悪い護衛たちが数人控えていた。

「だ、誰だあんたは!」

 俺とキャルルがリーザを庇うように前に出る。

 男はニヤニヤと笑いながら、一枚の羊皮紙をヒラつかせた。

「誰とは失敬な。俺は『ゴルド芸能事務所(※ゴルド商会とは無関係のパクリ名)』の社長、ガメオツだ。そこのリーザの飼い主だよ」

「か、飼い主……?」

「ああ。リーザはまだウチとの契約期間中なんでね。勝手に逃げ出されちゃ困るんだよ」

 ガメオツと名乗った男は、土足でピカピカに磨き上げた床に踏み込んできた。

「いやぁ、探したよ。太郎国の片隅で野垂れ死んでるかと思ったら、こんないい所に住んでるとはなぁ」

「ち、違います! 社長は私のお金を持ち逃げして……!」

「人聞きが悪いなぁ。あれは『レッスン料』と『宣伝費』だ。契約書にも書いてあるだろう?」

 騒ぎを聞きつけたリベラが、2階から降りてきた。

「騒がしいですわね……あら、その契約書、見せていただけます?」

「なんだぁ? 女子供が出てくるところじゃ……」

「弁護士のリベラ・ゴルドです」

 リベラが名乗ると、ガメオツの顔が一瞬引きつったが、すぐに開き直って契約書を差し出した。

 リベラは素早い目つきで書類を読み込み……眉をひそめた。

「……汚いですわね。文字を魔法で極小にして、読めないように『法外な違約金』と『身体拘束権』が盛り込まれています」

「へへっ、サインがある以上、それは有効だ。違約金は金貨500枚(約500万円)。払えないなら、リーザの身柄は俺が預かる。売春宿に売ろうが、見世物小屋に入れようが、俺の勝手だ!」

「そ、そんな……」

 リーザがその場に崩れ落ちた。

 金貨500枚なんて、今の俺たちには逆立ちしても払えない。

「さあ来いリーザ! たっぷり教育し直してやる!」

 ガメオツがリーザの腕を掴もうとした瞬間。

 バシィッ!!

 キャルルがガメオツの手を叩き落とした。

「触んな! リーザは渡さないよ!」

「痛ってぇな! ……へぇ、なんだこのウサギ、上玉じゃねぇか。お前もアイドルデビューさせてやろうか?」

「ふざけんな。帰れ!」

 キャルルが殺気を放つ。

 しかし、ガメオツは余裕の笑みを崩さなかった。

「へっ、暴力で解決か? いい度胸だ。……おい、先生方! 出番だ!」

 ガメオツが指を鳴らすと、外からドスドスと重い足音が響いてきた。

 ビルの入り口を破壊して入ってきたのは、赤い肌をした巨体の集団。

 全身を鎧で固め、巨大な斧や鉄球を持ったオーガたちだ。

「グオオオオオッ!!」

「げっ……『赤鬼組レッド・オーガズ』!? 裏社会で有名な傭兵団だよ!?」

 キャルルが表情を強張らせた。

 オーガが一体だけでも脅威なのに、それが五体、六体……十体近くいる。

 しかも統率が取れており、武装している。

「こいつらは高いんだぜぇ? さあ、リーザを渡すか、このボロビルごとミンチになるか選べ!」

「建物を壊す気か……!」

 俺の言葉に、ガメオツは唾を吐いた。

 ペッ、と汚い唾が、俺が昨日ワックスがけをしたばかりの床に落ちる。

「はんっ、こんなゴミみたいな幽霊ビル、壊した方が世のためだろ? ほら、やっちまえ!」

 ズドン!!

 先頭のオーガが鉄球を振り回し、1階の壁を粉砕した。

 俺が直した壁が。

 俺たちが笑い合ったリビングが。

 土足で踏み荒らされ、壊されていく。

「あ……あぁ……」

 リーザが絶望の声を上げた。

 自分のせいで、大切な場所が壊される。

 彼女が「私が……行けば……」と言いかけた、その時だった。

「――ゴミ、だと?」

 俺の中で、何かがプツンと切れる音がした。

 この家は、ただの建物じゃない。

 キャルルが笑い、リベラが紅茶を飲み、ルナが壁を壊し(直し)、リーザが歌った場所だ。

 俺が初めて手に入れた、過労死せずに眠れる「我が家」だ。

 それを、ゴミ呼ばわりして、壊すだと?

「上等だ……」

 俺は【雷霆】を強く握りしめた。

 体の奥底から、怒りの感情がマグマのように湧き上がってくるのが分かる。

 それに呼応するように、雷霆がドクン、と脈動した。

『……主よ。いい怒りだ』

 雷霆の声が、今までになく低く、冷たく響く。

『我もムカついた。せっかくピカピカにした床を汚しおって。……掃除クリアリングの時間といこうか?』

「ああ、そうだな相棒」

 俺はガメオツとオーガたちを睨みつけた。

「リベラさん、一つ確認だ」

「は、はい?」

「こいつらは今、俺たちの家に不法侵入し、器物を損壊し、家族を脅迫している。……正当防衛、成立するよな?」

 リベラは一瞬驚いたが、すぐにニヤリと凶悪な笑みを浮かべた。

「ええ。住居侵入および強盗致傷未遂。過剰防衛上等ですわ。……徹底的にやりなさい!」

「許可は下りたぞ」

 俺は雷霆を前に突き出した。

 今までの「DIYモード」じゃない。

 こいつは本来、神を殺すための兵器なんだ。

「いくぞ雷霆! 出力最大解放フルパワー!」

工事バトル再開だ、オラァァァァァッ!!」

 俺の怒りに呼応し、雷霆が紅蓮の稲妻を放ちながら変形を開始した。

 この家を守るための、最強にして最凶の「工具」へと。

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