EP 7
湯けむりDIY! 檜風呂を作ろう
「――風呂に入りたい」
シェアハウスでの生活も一週間が過ぎたある日、俺はリビングの中心で愛を叫ぶように叫んだ。
このビルの設備はリフォームで完璧にした。水洗トイレも、システムキッチンも完備だ。
だが、風呂だけはシャワー(ジョウロ型)ですませていた。
湯船がないのだ。
社畜時代、唯一の癒やしが『スーパー銭湯』だった俺にとって、湯船に浸かれない生活は死活問題だ。
「お風呂ですか? 確かに、広いお風呂には憧れますけど……」
「銭湯なら商店街にありますわよ?」
リーザとリベラがキョトンとしている。
俺は力説した。
「違うんだ! 俺が欲しいのは、木の香りがする極上の『檜風呂』なんだ! それをこのビルの屋上に作って、星空を見ながら浸かりたいんだよ!」
「屋上露天風呂!? なにそれ、すっごく良さそう!」
キャルルが食いついた。さすが、快楽主義のウサギだ。
となれば、善は急げだ。
「よし、材料調達だ! キャルル、護衛を頼めるか?」
「任せて! 森の案内ならお手の物だよ!」
◇
俺たちは街を離れ、郊外の森へとやってきた。
ホームセンターの資材売り場には、さすがに高級木材は売っていなかったため、現地調達(伐採)することにしたのだ。
「うーん、どれがいいかなぁ」
俺は木肌を撫でながら品定めをする。
狙うは、この世界特有の『アロマ・サイプレス』という木だ。地球の檜に近い、素晴らしい香りと耐水性を持つらしい。
「あ、陽太君! あれ見て!」
キャルルが指差した先に、ひときわ巨木な一本があった。
樹齢数百年はありそうな、立派な巨木だ。
「おおっ、あれは極上品だぞ!」
「でも、なんか変だよ……?」
近づこうとした瞬間、巨木の幹にギョロリと「目」が開いた。
そして、太い枝が鞭のように襲いかかってきた!
「グオオオオオッ!」
「出たな、トレント(樹木モンスター)! しかもあんな高レベル個体!」
キャルルがトンファーを構えて飛び出そうとする。
「陽太君下がって! 私がへし折る!」
「待てキャルル! 蹴ったら木材が痛む!」
俺はキャルルを制止し、前に出た。
相手は木だ。
木ならば、こいつの出番しかない。
「いくぞ雷霆! 形状変化!」
「【雷霆】――魔導エンジン・チェーンソーモード!!」
『……貴様、我をなんだと思っている? 前回は釘打ち機、今回は木こり道具か?』
(文句を言うな! 最高の風呂のためだ!)
『チッ、風呂だと? ……悪くない響きだ』
雷霆も満更ではないらしい。
ブゥゥゥゥン!! と甲高いエンジン音が森に響き渡る。
俺の手には、刀身が赤熱し、高速回転する刃を持つ巨大なチェーンソーが握られていた。
「伐採の時間だぁぁぁッ!」
俺はトレントの懐に飛び込み、その幹へ刃を突き立てた。
ギャイイイイイイイイイン!!
凄まじい切断音と、木の焼ける香ばしい匂い。
魔力で強化された刃は、鋼鉄のように硬いトレントの表皮を豆腐のように切り裂いていく。
「グ、ギャァァ……!?」
トレントが断末魔を上げ、ズシンと倒れた。
一刀両断。
しかも、切断面はカンナをかけたようにツルツルだ。
「すごい……一瞬で!」
「よし、最高の木材ゲットだ! これを加工して持ち帰るぞ!」
◇
その日の夕方。
シェアハウスの屋上には、湯気が立ち上っていた。
「完成だ……!」
そこには、大人4人が余裕で入れるサイズの、立派な木製浴槽が鎮座していた。
表面は雷霆サンダーがけで滑らかに仕上げ、釘を使わない「組み木」工法で作った自信作だ。
湯沸かしはどうしているかというと――。
『熱い! 熱いぞ主よ! 我を投げ込みヒーターにするな!』
防水・耐熱モードになった雷霆を浴槽の底に沈め、魔力で湯を沸かしている。
神殺しの武器から出る遠赤外線効果で、お湯はまろやか、体の芯まで温まる仕様だ。
「さあ、まずは女性陣からどうぞ」
「わーい! 一番風呂いただきまーす!」
キャルル、リーザ、ルナ、そしてリベラが脱衣所(簡易テント)へと消えていく。
俺は屋上の隅で、湯加減の管理(雷霆の出力調整)をしていた。
チャポン、と水音がして、華やいだ声が聞こえてくる。
「はぁ~……極楽~♪ 人参畑にいる気分だよぉ」
「すごい……お肌がツルツルになりますわ! これ、私のエステサロンより効果あるんじゃなくて?」
「広いお風呂……夢みたいですぅ……」
「ふふ、世界樹の泉より温かいですわね」
湯気越しに聞こえる、彼女たちの幸せそうな声。
それだけで、苦労してトレントを切り倒した甲斐があったというものだ。
「……さて、俺もそろそろ下に行くか」
さすがに覗くわけにはいかない。
俺が立ち上がろうとした時だった。
「陽太くーん! ちょっと来てー!」
キャルルに呼ばれた。
トラブルか? 俺は慌てて浴槽の方へ近づいた。
「どうした!? 湯が熱すぎたか!?」
湯気をかき分けて進んだ先。
そこには――。
「えへへ、違うよ。お礼が言いたくて!」
月明かりの下、湯船に浸かった4人の美女が、俺を見上げていた。
濡れた髪。上気した頬。白い肌。
隠すべきところは白い湯煙で見えないが、その破壊力はS級モンスター以上だ。
「陽太さん、素敵なお風呂をありがとうございます!」
「家賃分以上の働きですわね。見直しましたわ」
「陽太さん、大好きですぅ!」
リーザが無邪気に手を振り、ルナが不思議そうに首を傾げ、リベラが顔を赤らめてそっぽを向く。
そしてキャルルが、バシャッと俺にイタズラっぽくお湯をかけた。
「陽太君のおかげで、毎日が天国みたいだよ! ……あとで、背中流してあげるからね?」
「――ッ!!」
俺は顔から火が出るほど赤くなり、慌てて背中を向けた。
「わ、分かったから! ごゆっくり!」
『フン、軟弱者め。……だがまあ、悪くない湯加減だ』
浴槽の底で、雷霆もまんざらでもなさそうに呟いた。
屋上の風が心地よい。
俺たちのシェアハウス生活は、確実に充実度を増していた。
だが、そんな幸せな湯けむりの裏で。
リーザを狙う黒い影が、すぐそこまで迫っていることを、俺たちはまだ知らなかった。




