EP 6
冒険者登録と、Fランクの洗礼
翌朝。
シェアハウスの朝は、戦場のような騒がしさで始まった。
「陽太さーん! 朝ごはんまだですかー! 私、パンの耳じゃなくて白いパンが食べたいですぅ!」
「あら、私の分は紅茶だけで結構よ。……あ、でもその目玉焼きは美味しそうですわね。一口」
「あーっ! ルナ! それ私のベーコンエッグ!」
「管理人さーん、水道管の調子がまた悪いですわよー。早く直してくださいな」
リーザが泣きつき、ルナがキャルルの朝食をつまみ食いし、リベラが業務連絡をしてくる。
俺はフライパン(雷霆ではない、普通のやつ)を振りながら溜息をついた。
「へいへい、今焼くから! ……はぁ、食費がマッハで消えていくな」
現在、この家の家計は火の車だ。
キャルルの貯金はまだあるが、ヒモになるわけにはいかない。
俺は決意した。
「よし。俺、冒険者になるよ」
◇
キャルルの案内でやってきた『冒険者ギルド』は、想像通りの場所だった。
昼間から酒と汗の匂いが充満し、強面の男たちが怒号を飛ばしている。
俺のような、ポロシャツに作業ズボン(ホームセンターの制服)という出で立ちは、明らかに浮いていた。
「へぇ、ここが……」
「陽太君、離れないでね。私が睨みを利かせておくから!」
キャルルが頼もしく胸を張る。
彼女はこの辺りでは有名人(主に「音速の蹴りウサギ」として)らしく、周囲の男たちは彼女を見ると「ゲッ、月兎の姐さんだ」と道を空けた。
受付カウンターへ行き、登録用紙に記入する。
名前:月田陽太。
職業:……『細工師』と書いておこう。
スキル:【DIY】(嘘は言っていない)。
「はい、登録完了です。ランクは一番下の『Fランク』からになります」
受付のお姉さんから、銅色のプレートを受け取った時だった。
「おいおい、嬢ちゃん。そんなヒョロガリに冒険者が務まるのかぁ?」
ベタな展開がやってきた。
背後に立ったのは、革鎧を着た禿頭の大男。腰には大剣を下げている。
いかにも「新入りいびり」が好きそうなタイプだ。
「ああん? 誰に向かって口きいてんの?」
俺より先に、キャルルがキレた。
彼女の長い耳がピーンと立ち、殺気が漏れ出す。
やばい、このままだとキャルルがギルドごと男を粉砕しかねない。
「待ってキャルル。俺がやる」
「えっ? でも陽太君……」
「自分の身くらい守れないと、これからやっていけないからな」
俺はキャルルを手で制し、大男に向き直った。
男は俺を見下ろし、ゲラゲラと笑う。
「ハッ! なんだその木の棒(孫の手)は? それで背中でも掻いてママに泣きつくか?」
「いや、これは仕事道具だ」
俺は冷静に【雷霆】を構えた。
(いくぞ雷霆。殺さず、かつ動けなくする)
『……チッ。大砲で吹き飛ばせば早かろうに』
(ここはギルドだ! 修理費を払いたくない!)
「形状変化!」
「【雷霆】――魔導ネイルガン(釘打ち機)・モード!!」
カシャン!
孫の手が一瞬で、グリップと射出候を備えた赤い電動工具へと変わった。
男が目を丸くする。
「あ? なんだそのオモチャは――」
男が剣に手をかけた、その瞬間。
バスッ!!
乾いた発射音が響いた。
「あ?」
男が足元を見る。
革のブーツのつま先が、床に縫い付けられていた。
何かが、床を貫通してブーツを固定している。
「なっ……!?」
「動くなよ。次は膝の皿を砕く」
バスバスバスッ!!
俺はトリガーを連射した。
目にも止まらぬ速さで射出されたのは、魔力で強化された「五寸釘」。
それが、男の両足の周囲ギリギリ、股下の床、そして剣を抜こうとした右手の袖口を、正確無比に床とカウンターへ縫い付けた。
「ひぃっ!?」
男は磔にされたように動けなくなった。
1センチでもズレていれば、足や腕を貫通していたはずだ。
その神業的なコントロール(職人芸)に、男の顔から血の気が引いていく。
「お、俺は……プロの大工なんでね。釘を打つのは得意なんだ」
俺はネイルガンの銃口を、男の眉間にピタリと向けた。
「次は、ここだ。……まだやるか?」
「す、すいませんでしたぁぁぁ!!」
男の悲鳴がギルドに響き渡る。
周囲の冒険者たちは、ポカンと口を開けていた。
「お、おい見たか……?」
「あの道具、なんだ? 弓でもねえぞ……」
「釘で……Aランクの『暴れ牛』を封殺しやがった……」
静まり返るギルドの中で、キャルルだけが目をキラキラさせて飛びついてきた。
「すごーい! 陽太君、かっこいいー!! 今の何!? バシュッて!」
「あはは……ただの釘打ち機だよ」
『……主よ。我は情けないぞ。神殺しの力を、チンピラの靴止めに使うとは……』
雷霆の嘆きは聞こえないふりをした。
こうして、俺の冒険者デビューは(不本意ながら)「謎の武器を使うヤバい新人」として、華々しく飾られたのだった。




