表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/15

EP 14

タイムセール! 主婦戦争とウィンナー

 チリンチリンチリン!!

 店内に響き渡る鐘の音は、開戦の合図だった。

 店員のお兄さんが、ハンドマイクを片手に声を張り上げる。

『さあさあ、只今よりタイムセールを開催いたします! 本日の目玉商品は、高級Aランク・オーク肉の切り落とし! 通常価格の半額! さらに、タロウ・ポークウィンナーの詰め合わせも、なんと3割引でのご提供でーす!!』

 その瞬間、タローマートの空気が変わった。

 それまで穏やかに買い物をしていた客たちの目の色が変わり、殺気が店内に充満する。

「半額……!」

「どきな! 私が先だよ!」

「今夜は焼肉だぁぁ!」

 ドドドドドドド……!

 地響きと共に押し寄せてきたのは、近所の主婦おばちゃんたちの軍団だった。

 彼女たちはカートを戦車のように押し進め、獲物ワゴンに向かって突撃してくる。

「ひぃっ!? な、なんですのこの迫力は!?」

「魔物のスタンピード(暴走)より怖いですわ!?」

 リベラとルナが抱き合って震える。

 キャルルが勇敢にも前に出ようとした。

「任せて! 私が蹴散らして……」

「ダメだキャルル! 一般人に手出しは厳禁だ! 冒険者資格を剥奪されるぞ!」

「ええっ!? じゃあどうすればいいの!?」

 キャルルが躊躇した一瞬の隙に、おばちゃん軍団の波が彼女を飲み込んだ。

「邪魔だよお嬢ちゃん!」

「そこどいて!」

「あわわわわ……!」

 音速の脚力を持つキャルルが、物理的な質量と「安売りへの執念」の前に、木の葉のように弾き飛ばされた。

 強い。強すぎる。

 これが、家庭を守る戦士(主婦)の力か……!

「甘いです皆さん! ここは私が!」

 唯一、この戦場を知り尽くしているリーザが叫んだ。

 彼女は小柄な体を活かし、主婦たちの足の間をすり抜けようとする。

「見えました! あの隙間から……ああっ!?」

 しかし、熟練の主婦がカートで巧みにブロック。

 リーザの進路は阻まれ、ワゴンには「人の壁」が形成されてしまった。

「くっ……近づけない! これじゃあお肉が買えない!」

 ワゴンの中にあるオーク肉とウィンナーは、みるみる減っていく。

 このままでは、俺たちの晩飯(もとい遅い昼飯)は、またパンの耳になってしまう!

「……やるしかないか」

 俺は覚悟を決めた。

 力ずくでもなく、魔法でもなく、技術(DIY)で勝ち取るんだ。

「キャルル、リベラ、俺の周りをガードしてくれ! 誰にも押させるな!」

「ら、了解!」

「分かりましたわ!」

 二人が俺の左右を固める。

 俺は【雷霆】(今は浄水器モード)を構え直した。

(相棒、次は遠距離戦だ。……掴み取れ!)

『主よ、今度は何だ? まさか釣り竿か?』

(近いな! いくぞ!)

形状変化トランスフォーム!」

「【雷霆】――ウルトラ・マジックハンド・モード!!」

 ガシャン、シュルルルッ!

 雷霆が変形し、伸縮自在のアームと、先端にゴム製のグリッパー(掴む部分)がついた、巨大なマジックハンドへと姿を変えた。

 ホームセンターで高い所の陳列品を取る時に使うアレの、神話級バージョンだ。

「いけぇぇぇっ!」

 俺はトリガーを引いた。

 シュパッ!

 アームが勢いよく伸び、おばちゃんたちの頭上を飛び越えていく。

『我は神殺しの武具だぞ!? なぜ豚肉を掴まねばならんのだ!!』

 雷霆が脳内で絶叫するが、その動きは正確無比だ。

 先端のグリッパーが、ワゴンに残った最後の「オーク肉パック」と「ウィンナー袋」を、優しく、かつしっかりとキャッチした。

確保ゲットォォッ!!」

 シュルルルルッ!

 アームが巻き戻り、俺の手元に戦利品が舞い戻ってくる。

「や、やりましたわ陽太さん!」

「ナイスコントロール!」

「お肉ぅぅぅ! 確保ですぅぅぅ!」

 4人から歓声が上がる。

 俺はマジックハンドの先端から肉とウィンナーを外し、勝利のポーズを決めた。

「見たか! これがホームセンター店員の『棚卸しスキル』だ!」

(※違います)

 ◇

 激戦を制した俺たちは、レジで会計を済ませ(今回ばかりはリベラが出してくれた)、店の外にあるイートインスペースへと向かった。

 そこには、自由に使える電子レンジがある。

 チンッ!

 温められたオーク肉とウィンナーから、暴力的なまでに美味そうな脂の匂いが立ち昇る。

 俺たちは試食で貰ったパンにそれを挟み、即席の「豪華ホットドッグ」を作った。

「いただきまーす!!」

 ガブッ。

「んん~っ!!」

「おいしぃぃぃぃ!」

 全員が悶絶した。

 肉汁が口の中に溢れ、パンの甘みと混ざり合う。

 試食の一口とは比べ物にならない、圧倒的な満足感。

「やっぱり……ご飯は、お腹いっぱい食べるのが一番ですわね」

「うんうん! 戦った後のご飯は格別だよ!」

 リベラとキャルルが笑顔で頬張る。

 そして、リーザは。

「はぐっ、もぐもぐ……うぅ……」

 ホットドッグを両手で持ちながら、ポロポロと涙をこぼしていた。

「リーザちゃん、また泣いてるのか?」

「だってぇ……自分のお金(今回はリベラ持ちだが)で、こんなに美味しいお肉を食べられるなんて……。夢みたいで……」

 彼女は最後の一口を飲み込むと、俺をまっすぐに見つめた。

 その瞳には、今までのような「庇護欲をそそる弱さ」ではなく、何かもっと強い決意の光が宿っていた。

「陽太さん」

「ん?」

 リーザは口元のケチャップを拭うと、真剣な声で言った。

「私……もう、パンの耳は卒業したいです」

「おお、いい心がけだ」

「私、稼ぎたいです。皆さんに奢ってばかりじゃなくて、自分の力で、美味しいものをみんなに食べさせられるくらい……お金持ちになりたいです!」

 それは、貧乏王女からの脱却宣言だった。

 俺はニヤリと笑った。

「だったら、やることは一つだな」

「はい?」

「リーザちゃんの『本職』を、本気でやるんだよ」

 俺はポケットから、一枚の紙を取り出した。

 それは、昨日のファミレスでの12時間耐久トークの最中に、俺がこっそりとメモしていた「歌詞」と「構成案」だった。

「ミカン箱の上じゃなくて、最高のステージで歌うんだ。……俺がプロデュースしてやるよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ