EP 12
衝撃! ドリンクバーという名の無限水源
「ド、ドリンクバー……?」
リーザが首をかしげた。
キャルルとルナも、聞き慣れない単語にキョトンとしている。
「なんだいそれ? お酒の場ってこと?」
「朝から飲酒ですの? 陽太さん、教育上よろしくなくてよ」
「違う違う。お酒じゃなくてジュースやお茶だ」
俺は席を立ち、みんなをドリンクコーナーへと誘導した。
そこには、銀色に輝く巨大な箱――最新式のジュースディスペンサーが鎮座していた。
ボタンを押せば、ノズルから色とりどりの液体が注がれる魔法の箱だ。
「いいか、よく聞けよ。このコーナーにある飲み物は、定額料金を払えば『何杯でも』『好きなだけ』飲んでいいんだ」
俺の説明に、一瞬の沈黙が落ちた。
そして――。
「「「はぁぁぁぁ!?」」」
店内が揺れるほどの絶叫が響いた。
リーザが膝から崩れ落ちる。
「う、嘘です……! そんな夢のような魔法が……! 水だけじゃなくて、ジュースもですか!?」
「ああ。全部だ」
「神様……ここは天国ですかぁ……」
リーザがディスペンサーに向かって拝み始めた。
リベラも眼鏡の位置を直しながら、疑わしそうな目を向ける。
「ありえませんわ。貴重な果汁や茶葉を無限に提供するなんて、採算が取れるはずがありません。きっと中身は着色した水か何かでしてよ」
「まあまあ、飲んでみれば分かるさ。ほら、コップを持って」
俺は全員にグラスを持たせ、まずはリーザに一番のオススメを勧めた。
ファミレスといえばこれ。鮮やかな緑色の液体だ。
「ひぃっ! み、緑色!? ポーションですか!?」
「これは『メロンソーダ』だ。毒じゃないから飲んでみな」
リーザは恐る恐る、緑色に輝く液体を口に含んだ。
その瞬間。
シュワワワワッ……!
「んんっ!? い、痛いです! 舌がパチパチしますぅ!」
「それが炭酸だ。……どうだ?」
「あ……甘い……! 宝石みたいに甘くて、シュワシュワして……」
リーザの瞳孔が開いた。
彼女は一気にグラスを飲み干し、恍惚の表情を浮かべた。
「おいひぃ……! こんな美味しいお水、王宮の晩餐会でも出たことないですぅぅ!」
「よかったな。さあ、おかわり自由だぞ」
「おかわり……自由……」
その言葉は、貧乏王女にとって最強の呪文だった。
彼女の目に、狩人のような光が宿る。
一方、隣ではルナが『コーンスープ』のボタンを押していた。
ドロリと濃厚なスープがカップに注がれる。
「あら、温かいスープまで出るのですわね。……(ズズッ)。まあ! 濃厚なトウモロコシの甘み! これ、手間暇かけて煮込んだ味ですわよ!?」
「機械が一瞬で作ってるんだよ」
「信じられませんわ……。ねえ陽太さん、この機械ごと持って帰れませんこと? 私が解析して、錬金術でスープを無限増殖させれば、世界の食糧難が解決しますわ!」
「やめろ! 出禁になる!」
破壊神が危険な思想を抱き始めたので、慌てて止める。
キャルルはと言えば――。
「見て見てー! オレンジジュースとコーラを混ぜてみたよ! 毒々しい色になったー!」
「小学生かお前は」
「んぐっ……うわっ、微妙な味! でも楽しいっ!」
そして、最初は疑っていたリベラも、『挽きたてコーヒー』のボタンを押していた。
薫り高い湯気に、彼女の表情が和らぐ。
「……悔しいですけれど、本格的な香りですわね。私の屋敷の専属シェフが淹れるコーヒーと遜色ありませんわ」
「だろ?」
「ふふ、気に入りましたわ。……皆様、今日は私が奢りますから、遠慮なく飲みなさい」
リベラがポンと胸を叩いた瞬間、リーザが滑り込むような土下座を決めた。
「リベラ様ぁぁぁ! 一生ついていきますぅぅぅ!」
「ちょ、おやめなさいリーザさん! 床が汚れますわよ!」
「ドリンクバーの床は聖域ですから大丈夫です!」
「意味が分かりませんわ!」
◇
こうして、席に戻った俺たちのテーブルには、色とりどりのドリンクと、注文した料理(山盛りのポテトやハンバーグ)が並んだ。
「かんぱーい!」
女子会の始まりだ。
俺は荷物持ち兼聞き役として、端っこでコーヒーをすする。
「ねえねえリベラ、最近の依頼どうなの?」
「ええ、この前なんて酷い案件でしたのよ。被告人が裁判中に逃亡しようとして……合気道で投げて差し上げましたけど」
「さすがリベラちゃん! 物理弁護士!」
「ルナさんはどうなんですの? また森を燃やしたと聞きましたけど」
「人聞きが悪いですわね。寒がっている子羊のために暖房を設置しただけですわ」
「それが山火事になったんでしょーが!」
キャルルがツッコミを入れ、リベラが呆れ、ルナが天然ボケをかます。
そしてリーザは――。
「んふふふ……メロンソーダ……カルピス……オレンジ……」
会話に参加せず、ひたすらドリンクバーと席を往復していた。
一杯飲んでは「はぁ~幸せぇ……」と溜息をつき、すぐにおかわりに向かう。
その目は、すでに糖分という名の魔力に侵され、トロンと溶けていた。
「おいリーザちゃん、飲みすぎじゃないか? お腹壊すぞ」
「大丈夫れすぅ……。だって、タダなんですよぉ……? 元を取らないと、ご先祖様に申し訳ないれすぅ……」
呂律が回っていない。
まるで酔っ払いだ。炭酸と糖分で泥酔している。
俺は時計を見た。
入店してから、すでに2時間が経過していた。
だが、彼女たちのトーク(とリーザの往復)は終わる気配がない。
ファミレス『タロウキング』。
そこは、時間の概念を狂わせる「精神と時の部屋」だったのだ。




