EP 10
ざまぁ&祝勝会! これが俺たちのスローライフ
空の彼方へ消えていったガメオツとオーガのリーダー。
残された手下のオーガたちは、圧倒的な戦力差(と謎のタヌキの歌)に戦意を喪失し、武器を捨ててガタガタと震えていた。
「ひぃぃ……許してくれぇ……」
そんな彼らの前に、コツ、コツ、とヒールの音を響かせてリベラが歩み出る。
眼鏡の奥の瞳は、零度以下に冷え切っていた。
「あら? 帰れるとでも思いまして?」
リベラは懐から魔導通信石を取り出すと、どこかへ連絡を入れた。
「はい、私です。ええ、現行犯逮捕ですわ。罪状は『住居侵入』『器物損壊』『強盗致傷未遂』……それに『王族への不敬罪』もオマケしておきましょうか」
彼女はチラリとリーザ(シーラン国王女)を見た。
確かに、一国の王女を誘拐しようとしたのだ。国際問題レベルの重罪である。
「ガメオツの全財産は没収。彼が経営する事務所は営業停止処分。……ああ、ちょうど父様が経営する鉱山で、人手が足りないと言っていましたわね」
リベラは手下たちにニッコリと微笑んだ。
それは聖母のように美しく、悪魔のように恐ろしい笑みだった。
「あなた達には、そこで一生、社会への奉仕活動(強制労働)をしていただきます。福利厚生はありませんけれど、衣食住は保証しますわよ? 牢屋という名の個室ですけれど」
「い、嫌だぁぁぁぁ!!」
駆けつけた警備兵(ゴルド商会私兵団)によって、手下たちは連行されていった。
こうして、リーザを縛り付けていた悪徳契約は、物理と法律の両面から完全粉砕されたのだった。
◇
敵がいなくなったリビングには、再び静寂が戻った。
ただ一つ、壁に空いた大穴(俺がパイルバンカーでぶち抜いた跡)を除いて。
「……さて、直すか」
俺はため息をつきつつ、【雷霆】を構えた。
「形状変化! 【雷霆】――魔導左官コテ・モード!」
『フン。戦いの後は補修か。主よ、貴様は本当に働き者だな』
雷霆が呆れつつも変形する。
俺は即席コンクリートを練り、手際よく穴を埋めていく。
ルナが「私も手伝いますわ!」と杖を振ろうとしたので、全員で「「「やめて!!」」」と止める一幕もありつつ、壁は夕日が沈む頃には元通りになっていた。
◇
その夜。
シェアハウスのリビングでは、盛大な祝勝会が開かれていた。
「かんぱーい!!」
テーブルの中央には、俺が作った特大の「タロウ式・寄せ鍋」が湯気を上げている。
白菜、ネギ、豆腐、そしてたっぷりの肉。
出汁は雷霆(万能出汁取りモード)で抽出した黄金スープだ。
「んん~っ! このお肉、柔らかくて最高!」
「お野菜も甘いですわ! これならいくらでも食べられます!」
「ハフハフ……陽太さん、おかわりありますかぁ?」
キャルル、ルナ、リーザが目を輝かせて鍋をつついている。
リベラも「あら、意外と上品な味ですわね」と箸が進んでいるようだ。
俺はビール(タロウ・ドライ)を飲みながら、その光景を眺めていた。
過労死して、異世界に来て。
最初は焦ったけれど、今はこうして美味い飯を囲む仲間がいる。
「……悪くないな」
ボソッと呟くと、隣に座っていたリーザが、袖をクイッと引っ張ってきた。
「陽太さん」
「ん? どうしたリーザちゃん」
彼女は少し顔を赤くして、真剣な瞳で俺を見上げた。
「ありがとうございました。……陽太さんがいなかったら、私、どうなっていたか」
「俺だけじゃないよ。キャルルも、ルナも、リベラさんもいたからだ」
「はい。……でも、私にとってのヒーローは、陽太さんです!」
リーザはパッと花が咲くような笑顔を見せた。
純真なアイドルの破壊力に、俺は思わずドキッとして視線を逸らす。
「おっ、リーザだけズルいぞー! 私も陽太君に助けられたもん!」
キャルルが後ろから抱きついてくる。
「私だって! 壁を直してもらいましたわ!」
「私は家賃をタダにしてあげましたのよ?」
ルナとリベラも加わり、俺の周りは一気に騒がしくなった。
柔らかい感触と、いい匂いに囲まれて、俺は嬉しい悲鳴を上げる。
「わ、分かった! 分かったから引っ張るな! ビールこぼれる!」
『やれやれ。モテる男は辛いな、主よ』
テーブルの隅に置いた雷霆が、どこか楽しげに震えた気がした。
外からは、秋の虫の声が聞こえてくる。
俺たちのドタバタで騒がしい、けれど温かいシェアハウス生活は、まだ始まったばかりだ。
きっと明日も、何かが壊れ、誰かが騒ぎ、俺が直す。
そんな日々が続いていくのだろう。
俺は空になったグラスを掲げ、心の中で呟いた。
――異世界スローライフ(DIY付き)、悪くない!
◇
――同時刻。
ゴルド商会本店の最上階にて。
一人の男が、報告書を読んでいた。
机の上には「月田陽太」と「リベラ・ゴルド」の写真。そして、破壊されたオーガの鎧の破片が置かれている。
「ほう……『神殺しの武具』を持つ男か。リベラも面白いペットを飼ったものだ」
男――リベラの父であり、世界経済の支配者であるゴルド総帥は、不敵に口角を吊り上げた。
「だが、調子に乗られ過ぎても困る。……そろそろ『太郎国』も動き出す頃合いか」
総帥の視線の先には、隣国・太郎国から届いた一通の親書があった。
そこには達筆な文字で、こう記されていた。
『最近、面白いラーメンを作る新人がいるって聞いたんだけど? ――佐藤 太郎』
陽太たちの平穏が、真の意味で脅かされるのは、もう少し先の話である。




