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辺境三若記  作者: 芳美澪
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9話 水道

禁忌という名のポッと出の奴が俺のスローライフを邪魔します。許せない。


これを何をアホなと軽視するのは得策ではない。禁忌が本当かどうかが重要ではなく、それを人がどう受け止めているかが重要なのだ。


仮にこれを俺が破るとどうなるか。変人扱いされるだけならまだいい。むしろ禁忌を犯す手伝いをさせられたと気に病み、下手したら自ら命を落とすとかそういう選択肢にも繋ぎかねない。信仰は信じて、その教えをよりどころとすること。人やものごとを信用・信頼することを言う。禁忌を破るとはそれを踏みにじる行為なのだ。俺は良くても、他の人にそれを強要することはできない。


結論、一旦、石鹸作りは保留で。


諦めるつもりはない。あの臭い石鹸とはいつか決着を付けてやる。


うさ耳との話を終えた俺は消失感と共に再び外へとやってきた。ここで立ち止まることはできない。石鹸がダメなら次はなんだ。


「三若様」


声がする方を振り返ると髭親父が額に汗を光らせながら声をかけてきた。


「暑そうだな」


「草と格闘しています。中々手ごわい」


庭の草刈りをしてくれているようだ。雑草はマジで手ごわいのだ。どこにでも生えてくる。ましてやこれだけ放置していたのだから数も大きさもすごい。


「数日にわけて無理のない程度にやれ」


「ありがとうございます。ですが、手前と畑一帯は今日中には終わらせます。三若様が住まわれる御屋敷が雑草まみれでは示しがつきませんしな」


わははと笑う髭親父。ありがたい話だが、示しがつかないからここに幽閉されたんだけどな。


「そうそう、ここの畑ですがこのままではちょっと使えなさそうです。放置されていて土が死んでますな」


畑に目を向ける。よくわからないが死んでいるの表現がしっくりきた。


「生き返らせるには骨が折れそうだな」


「なーに、任せてください。すぐにでも生き返らせてやります」


自信満々だ。農業経験者なのか。


「何を作るんだ?」


「芋、豆類ですかねぇ」


芋と豆か。基本的な料理はこれらでスープを作り、パンを食べる。正直、もうちょっと贅沢をしたい。


「麦類は早いかと。あとは根菜もいいですね」


蕪や人参か。蕪の漬物とかカレーが食べたくなってきたな。難しそうだ。赤ワイン煮なら作れそうだな。ワインそのものはないが、似たような物があったはずだ。


「妻が香草が欲しいって言ってたんでそっちもですかね。やることが沢山ありますな」


香草は良いな。まてよ。石鹸に香草混ぜたら良い匂いがしていいんじゃないだろうか。ミントとかハーブがあるならの話だが。


畑で作物を育てるとなれば水だ。井戸の水を桶で運ぶのか?  一日に何往復もしなきゃならんぞ。俺みたいな小太り体形じゃ途中でぶっ倒れる未来しか見えない。


(やっぱり、上下水道だよな。なんとかならんか……)


「父さん! あっちは終わった」


髭の息子が走ってきた。


「おう。ご苦労さん。次はあっちだ」


えー、っという顔しながら渋々と髭親父の指さす方向へと歩く髭息子の背中にエールを送っておいた。


髭親父と息子と別れ、家の裏手へと歩く。井戸問題だが、現状では何もいい方法が思いつかない。今の井戸は滑車が取り付けられ桶で水を汲み上げる方法だ。これを手押しポンプにするという方法が思いつく。が、通販で買うわけには行かない。自分で作らなければならない。


村にある鍛冶屋があれば頼むという方法もある。だが設計図もないのだ。どう頼めばいいかわからない。身振り手振りでこういう感じでとか言って作れる物なのだろうか? サイフォン式というんだったか。とかはわかるが。説明しろと言われると困る。学者じゃないのだ。現状では不可能に近いと考えたほうがいい。


ここでスマフォを使って通販が使える能力とかあれば神になれるんだが。と、いうことで上水道は保留だ。さっきから保留ばっかだな。


もう一つの悩みの種の前へと辿り着く。そう、トイレ問題だ。掘っ立て小屋に穴の空いた板。以上。これが我が家のトイレである。泣きたい。


まず臭い。灰と藁で多少の臭い消しを行っているが夏の仮設トイレ並みに臭い。ある程度、溜まったらこれは肥料にしたりするらしい。これをどうにかできないものか。水洗にしたいが、上水道を解決できてないのにできるわけがない。で、あれば真下にぼっとんしない形にするのはどうだろうか? ちょっとした下水道を作って、桶で水を流して離れた汲み取り式汚水場まで流す。


できそうだが無理だな。インフラ整備を行う形になるので人手がいる。


あとは紙問題もある。ウォシュレットも紙もないのでどうするかというと、布で拭くのだ。当然、布は使いまわしだ。使用人が洗ってくれる。つまり、うさ耳やあの一家が俺の布を洗うのだ。もう死にたい。紙問題は早急に何とかしなければいけない。解決案がないから保留だが。


(石鹸も水もトイレも全部保留。解決できてない問題ばっかりだな……)


でもまあ、スローライフってのは最初から完成してるわけじゃない。積み重ねて快適にしていくもんだ。


そうやって自分を納得させることが今の俺にできる精一杯さ。

本日、三話投稿予定です。

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