74話 防寒
イケメン救出作戦――とはいえ、表立ってこちらが動くことはできない。侯国を刺激すれば、たちまち「王国残党が蜂起した」と喧伝される。つまり、助けた瞬間にあいつらの目がこちらを向く。これは絶対に避けたい。
とはいえ、前回の戦での借りがあるのも事実なので放ってはおけない。なので、裏で動いて後は勝手に助かってもらおう。という事にした。やることは単純だ。秘密裏にイケメンを助け出し、後はイケメンと兵でクーデターを起こしてもらえばいいのだ。
問題になるとすれば、一つ。イケメンがそれを良しとしない可能性だ。どうもイケメンは、「自分が身を引けば丸く収まる」と本気で思っている節がある。なので、申し訳ないが、逃げ道を塞いでやる。世の中、そんなに甘くはないのだ。
砦衆から諜報部門と戦闘部門、合わせて五十名が救出作戦に参加する。彼らの手には、王子から預かった“継承承認状”がある。王家の封蝋が押された、正式なものだ。中身は単純――イケメンを正式な子爵家当主として認める。つまり、「王家の名で正式な継承を確定できる」書状だ。
これで、イケメンが何と言おうと次期当主はイケメンで決まりというわけだ。もはや水戸黄門の印籠状態だ。
これを覆すのであれば侯国側の“継承承認状”を貰ってくる必要があるが、今の侯国にそんなのを出している余裕はたぶんない。それに兵士たちにとっては正直、王国か侯国か、なんてどうでも良い。彼らの認める主を次期当主として認めてくれる大義名分が欲しいだけだ。
兵士たちの要望に、大義名分と本人をセットで渡す。後はもう好きにしてくれ。
継承承認状は王子がノリノリで書いてくれた。「私が直接持って行こう」なんて言ってたが、それはさすがに勘弁してもらった。
侯国側の動きも鈍い。王子の捜索もしているようだが、名目上の捜索な所があるらしい。正直、それどころではないのだろう。
まあ、それどころじゃないのはこっちも同じだ。新たな問題が発生している。
難民の流入が落ち着いてきたのだが、別の問題が浮上してきた。そう、寒さ問題だ。寒さで凍えて寝れないという声が多い。実際に苦情が来ているわけではないが、夜明け前の北町では、吐く息すら白く光っているという。薄い毛布に身を丸めている子どもも多いらしい。
冷暖房完備の快適な住まいなんてどこにもないので、これをどうにかしないといけない。
まず一つ目だが、単純に暖房器具を用意する、という方法もある。所謂、暖炉という物だ。ただし、これには燃料をどうするかという問題が発生する。木を切り、薪や木炭として売らせているが、こればかりに頼ると森がすぐに尽きる。いずれ“温暖化の原因は北町の森林伐採だ”とか言われるのも困る。植林もさせてはいるが別の方法も検討しないといけない。
次に防寒具の検討をしている。普段、一般人が着ているのは麻だ。貴族は同じ麻でも“亜麻”を使う。見た目は上品で肌触りも良いが、暖かいかと言われれば……まあ、暖かいかもしれない。気休め程度だ。そこで綿花を導入できないかと試行錯誤している。
商人に麻より暖かい服はないのか聞いたところ、北の方では綿花があると言われたので種と綿花製品を仕入れてみた。綿花自体は髭一家に渡したのでうまく行けば来年にでも収穫できるかもしれない。
最期に住環境だ。こっちはなかなか難しい。断熱材とかどう作ればいいのかがわからないからな。このあたりの家だと木枠の土壁が基本だ。ただの小屋よりは気密性はあるが、たかが知れているといった感じだ。
やれるとしたら、壁を厚くし、中を空洞にして断熱を図るという方法もある。貴族やら商人の家では一般的らしいが、一般家庭でとなると難しい。
広めの使っていない家屋を開放しつつ、簡易的な暖を施すように赤い月にも依頼した。即効性がなくて相変わらず役に立ててない感はあるが何もしないよりはマシだろうと自分に言い聞かせるしかない。
「軽いですけど、いつもの方が暖かさはありますねぇ」
寝室では犬耳が俺のベッドの中に手を突っ込んでいた。決してやましい話ではない。
「普段のは羊毛ですからね」
うさ耳も同じようにしている。何度も言うがやましい話ではない。
「羊毛ほどではありませんが、麻と藁に比べれば暖かいですね」
と、委員長。綿花製品を仕入れたのだが、その一つが布団だ。お試しという事で俺が使っているが、やはり普段の羊毛の方が厚みも暖かさも一段上だ。
「でも、こっちの方が少し軽い気がします」
犬耳曰く、暖かさは羊毛だが重い。綿花の方が軽いらしい。綿花も入れる量次第では羊毛並みに暖かいのではないだろうか。そう考えると綿花の方がいいのだろうか?
「先日、気づきましたが朝になると少し萎んでいる気がしました。湿度に弱いのかもしれませんね」
毎日、俺の布団はうさ耳に回収されるのだが、どうも湿ってるらしい。そういわれると嫌だな。変な事はしてないぞ。
「下に引いて寝るのと、上に掛けて寝るのとでも変わってきそうですね。主様。これは一般にも売るのでしょうか?」
と、委員長が質問してくる。
「残念だが、売れるほどには手に入らんな。屋敷で栽培しているが、うまく行けば来年には素材が揃う。そこから加工を開始だろう。遅くても一年から二年はかかる」
当分は今の麻と藁生活から脱却はできない。
「お前らの分もそろそろ届くんじゃないか?」
少し残念そうにしている三人だったが、俺の言葉にパッと目が輝いたのが分かった。
「ご主人様。私たちの分もあるのですか?」
と、うさ耳。
「使用感がわかる人間がいないと、実際に作るとなった時に意見が言えないだろう」
「高いのではないでしょうか?」
冷静を保とうとしているが委員長も嬉しそうだ。
「まあ、多少はな」
「主様のベッドで皆で寝れば一つで済みますねぇ」
犬耳の言葉に“その手があったか”と、衝撃を受けたが、もう注文済みだった。




