68話 計画
毎月行われる定例報告では各方面から人間が集まる。俺は当然として、次兄もいる。次兄は忙しいことも多いので代理が来ることも多いが、今日はいる。相談役も連れてきている。
会場は長机が一つ。いつもはここに俺と次兄が上座付近に適当に座り、下座側の壁に報告者が立ち並ぶ。特に上も下もないんだが、部屋の奥を勝手に上座と呼んでいる。
うさ耳、犬耳、委員長も確実にいる。こいつらは俺の背後に控えている。
砦からは全体統括の頭、戦闘部門の猫耳、諜報部門の細身の男。生産部門の男。労働部門の責任者。そして民生部門の女性が、参加している。いずれはここに歓楽町の面々も入れてもいいかもしれない。
そして、今日は特別な客がいる。姉ちゃん、王子、王女だ。
いつもと違いフレッシュなメンバーがいることで、若干やり辛そうではある。というか、かなりやり辛そうだ。自己紹介もさせてないが、させるわけにもいかない。あと、申し訳ないが俺より下座にいるけど、これも我慢してもらう。
「あー、言い忘れたが、今日はこの三人が参加しているが、気にしなくて良い」
軽くフォローしたが効果はないようだ。頭と細身の男は恐らくこの二人が誰なのかがわかっているだろう。他は良く分かってなさそうだが、偉い貴族だと思ってるかもしれない。
「この人たちはウチと縁のある方々だ。身内みたいなもんだ。気にせず続けてくれ」
「なっ……!」
親戚の一人だから気にしないでと伝えたが、王女がお気に召さなかったらしい。だが、それ以上は言っちゃだめだ。ここに王家の人がいるわけがないのだ。きっと彼らは北方に逃げたはずだ。
こちらの意図を理解した王子が王女を制止した。馬鹿ではないのだ。
「よし、じゃあ、いつも通り始めようか」
いつも通り、和やかに宜しくお願いします。
「そ、それでは、私の方からまずは全体の報告をさせて頂きます。まず、砦ですが、北町の技術を取り入れたことで上下水の整備は格段に良くなりました。ですが、清灰が少々不足しております」
「せいかい……?」
王女が首をかしげる。失敗した。ここで話すのは王都の事だけじゃないのだ。
「ええ、まあ、石鹸のことです」
「石鹸は灰塊ではないのですか?」
「んんっ……他には?」
咳を一つして、話題を無理やり変えてみた。
「あ、はい。えーっと、あ、そうです。温泉の拡大も完了した為、多くの人間が利用しています。清灰の消費が激しくなっております」
「……温泉?」
「ああ、東方の公国で盛んだと聞く。我が領内にあるとは聞かないが………」
王女が眉をひそめ、王子は興味深そうに頷きながら顔を寄せ合っている。
あかん。これ話が進まない感じだな。もうどんどん行くしかない。その後も錬金術の話とか、森の話とかで怪訝な顔をされたが、良い感じに誤魔化せたと思う。
「次は私からですね」
細身の男が一歩前に出る。
「王都の状況ですが……あまり宜しくありませんな」
王子と王女が顔を顰めるのが見えた。
「王都もですが、侯国側もです」
「どういうことだ?」
王子が身を乗り出す。
「侯爵は、勇者様の御機嫌取りに苦労されているようです」
自意識過剰な奴の制御は面倒だろうな。頑張って承認欲求を叶えてやるしかない。
「それから、伯爵家側も不満が募っているようです。伯爵家ご長男が不満を漏らしているそうです」
舞踏会で姉ちゃんに絡んだ奴だ。ああいう性格なら当然、勇者とぶつかるだろうな。
「北方の状況ですが……」
細身の男が、ちらりと王子と王女を見た。「現状、目立った動きはありません。戦の準備をしている様子も見られません」
王子の顔には困惑の表情が浮かんだ。今すぐとは言わないが、いつでも動けるようにするぐらいの事はしていてもいいはずだ。だが、その気配もない。王子は前に自分が動けば北方貴族も動くと言っていた。残念だがその期待はするだけ無駄だろう。
報告が終わった後も誰も言葉を発しない。問題はここからだ。情報を得た上でどうするのかを検討する必要がある。王子はどう考えたかな? と、王子を見ると同時に次兄が声を上げる。
「お前ならどうする? 仮にだが、王都を護ろうと思った場合はどうする?」
おいぃ。最近、お兄ちゃん「お前はどうする?」しか言ってなくないか?
「王都ね……」
全員の視線が突き刺さる。とりあえず言葉を紡いでおくことにした。具体的な案はまだ無い。喋っているうちにいい案が出るかもしれん。勿論、俺だけが考える必要はないのよ?
「まず、はっきりさせておくが、俺は北町は絶対に護る。それが絶対条件だ」
これは誰が何と言おうと異論は認めない。王都からも娼館が移転してきて、これからなのだ。手放すわけにはいかない。どうしてもというなら王都の娼館街を譲ってくれ。
「現状、侯国の奴らは王都に夢中だ。ここでこちらから侯国にちょっかいを出すのは下策だ」
若干、王子への皮肉になってしまった。
「だからと言って、放置すればいつかはこちらにも目を向けることになる」
「そうだな。どうする?」
ちょっとはお前の考えも言えよ。と、苛つき次兄を睨んでしまった。
「現状では侯国を退けるのは無理だ。だからまず、勝てる状況を作らねばならない。整理するとやることは二つだ。時間を稼ぐこと。そして、その間に勝てるよう準備を整えることだ」
頭の中で整理しながら言葉を絞りだす。全員を見回すが誰も何も言ってくれない。不安になるから屈託のない意見を言って欲しい。
「まず、時間を稼ぐ方法だ。さっきも言ったようにこちらから動くのは良くない。あいつら……特に侯爵の目的は王都、王家だろう。それらが片付くまではこちらを見ないはずだ」
「つまり、王都が抵抗し続ければこちらを見ないという事ですな?」
相談役が口を開いた。
「いや、必ずしも王都が落ちなければいいわけじゃない。むしろさっさと降伏したほうがいい。そうすれば少なくとも民は死なない」
「なるほど。ですが、王都が落ちれば侯国はこちらを見るのでは?」
「さっきも言ったろう。侯爵が欲しいのは王都。そして……王家だ」
王子を見る。王女はこちらを睨み返してきた。怒っても事実は事実だろう。
「王家の方々を引き渡すのですか……?」
姉が心配そうにこちらを伺う。
「いや……それは逆に悪手だ。侯爵の目的を達成させるわけにはいかない。なので、噂を流す」
細身の男がにやりと笑う。だから、怖いって。
「どうやら王子は北方侯爵の元に身を寄せて再起の機会を伺っていると」
北方侯爵からすれば良い迷惑かもしれないが、仕方がない。なんなら、帝国に逃げたとかいっておくか?
「なるほど。つまり王子の行方を探すために時間を稼ぐという事ですな」
「そうだ」
「時間を稼いで……どうやって勝つ?」
次兄が低い声で問う。そこが問題だ。
「侯国に勝つ絶対条件は勇者の排除だ。これが出来なければ例え帝国、公国、なんなら南の連合国の助けを得ても勝てない」




