62話 夜宴
夜の町計画。ここまでうまく行くとは思わなかった。赤い月、商人、砦衆――そして、ゴブリンの子改め“夜の帝王”になる俺。とんとん拍子に話が進んだ。むしろ怖いくらいだ。
それぞれの代表を呼んで会合も開いた。空気は最悪だった。睨み合い、沈黙、たまに舌打ち。だが、それでいい。馴れ合いより、互いの警戒心がある方が良い気がする。喧嘩になるほどでもないしな。その辺りの空気を読むのは得意だ。さりげないフォローもしたし、大きな問題にはならないと思う。
本格的な始動は、砦衆による上下水整備が終わってからだ。それまでの間は、各々が「必要だと思うこと」を進める形にしている。場所は砦衆区画。今後は“歓楽町”と呼ぶことにした。
俺の担当は、酒場や店舗など“遊ぶ場所”の基盤づくりと、全体の決定権。難しい仕組みはよくわからんが、上に立って丸投げできる位置に収まったと思う。想定通りだ。これ以上はうまくやれる自信がない。
家将の家はこちらで改修、確保することにした。そこに各代表の席を置き何かあれば対応してもらう。あの雰囲気ならお互いに監視し合って、不義理な事をしている様であればすぐに報告が上がってくるはずだ。諜報部門もその辺は監視してくれると言っていたので更に安心だ。
赤い月の連中は、歓楽町における“治安維持”を担当――つまり、縄張りづくりだ。表向きは「弱者救済」だが、裏では裏の流儀で動いてもらう。その辺りの加減はあいつらが一番よく分かってるはずだ。一応、「ルールに従うやつには親切に。ルールに従わない奴は容赦するな」と言っておいた。
夜は先んじて賭場を開けと命じた。さすがに基盤が整うまで待つのは先が長い。とはいえ、最初は銅貨のやり取り程度。体制も仕組みもできていないし、まずは遊びの延長でいい。必要なら俺がカンパする。夜の遊び場には、最初に火種を入れてやらなきゃならないのだ。
既に数人が夜に”春を売っている”件に関しても任せた。事情を聞き、内容次第で砦衆に任せるか、引き続きやらせてやるかを判断するように言っておいた。
商人たちは物資と流通の整備を請け負った。酒場に出す酒とつまみ、夜の町で売れそうな品、そして“人”。どうやら商人は他にも色々と儲かる流れを読み取っているようだ。儲けだけで言えばやはり商人が一人勝ちしそうな気もするが、それはそれでいい気もする。
次兄への説明も問題はない。最初に話をした際には変な顔をされたが、駄目とは言われてないから大丈夫だろう。
うまく行っていないこともある。――うさ耳たちだ。
今回、赤い月との会合、その後の代表者協議において、うさ耳たちを連れて行かなかった。そしてついに、うさ耳たちから“正式な通達”を受けることになった。
「出かける際は“必ず”、三名のうち一人を同行させること」
……はっきり言って、困る。色々と。
今はまだいい。だが、いずれ夜の町が完成した暁には――俺は酒池肉林の一夜を過ごす予定なのだ。その場に使用人がいたら、気まずくて楽しめるわけがない。護衛ならハゲ頭で十分だ。というか、ハゲ頭がいい。あいつは冒険者のノリを忘れていないし、きっと一緒に飲んでくれる。
なんとか誤魔化そうとしたのだが、残念ながらその願いは叶わなかった。
「三若様のお世話をするのが、私たちの使命です」と言われてしまっては、もう何も言い返せない。
いや、一回ならなんとかなるか? ダメか。
もう一つ、うまくいっていないことがある。俺たちの話じゃない。――王国の件だ。諜報部門からの報告によれば、ついに侯国が動き出すらしい。
助けてやりたい気持ちは山々だ。だが、今回は分が悪すぎる。侯国側は、侯爵家と伯爵家を合わせて数千の兵。そして――勇者がいる。こっちは、出せても百程度。援軍に駆けつけたところで、焼け石に水だ。
というか、勇者がいる時点で、もう人数の問題ですらない。あれは反則だ。チートという言葉の意味の通り不正行為だ。だが、それを誰も咎められないし、止めることができない。北方も沈黙を貫いている。気持ちはわかる。誰もが“動けない”のだ。
動けば滅亡する貴族が増えるだけなのだ。王家はこのままいけば座して死を待つだけになる。やれることと言えば逃げることだが……北方に逃げる形になるのだろうか? 北方侯爵からすれば四面楚歌の状態だな。
当然だが、北方侯爵は侯国を認めてはいない。だが、勇者がいるのであからさまな敵対行動はできない。そう言っていられうのも今のうちだ。王家が北方侯爵に庇護を求めてきたら追い返すわけにはいかない。
王家を受け入れれば次の攻撃対象が確定し、拒めば名誉も地に落ちる。――名誉ある死か、名誉なき死かの二択だ。
こちらも、ただ見ているわけにはいかない。熊様には恩がある。諜報部門に命じ、南方伯爵家へと噂を流した。狙いはあそこの馬鹿長男だ。あいつは自分の立場を守りたいはずだし、勇者の存在を認められるほど大人じゃないはずだ。勇者の快進撃が続けば、尚のことだ。そこを突けば、暴走してくれる……かもしれない。
――いや、期待はできないだろうな。




