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辺境三若記  作者: 芳美澪
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38話 舞踏壱

この世で想像しうる贅が集結している。そんな印象を受けた。煌びやかな装飾、場を盛り上げる楽団の演奏に負けず劣らず、集まっている貴族たちは色とりどりの衣装を身に着けている。


城の大広間で舞踏会が開催され、姉と共に出席したのだが、今、俺は壁と友達だ。大広間へと案内されて早々に人混みに追いやられ、所在なさげに立ち尽くしている。対して姉の周りには多くの貴族たちが群がり、まるで姉を巡る競り市でも開かれているかのようだった。満を持して「辺境の百合」の社交界デビューである。一目見ようと多くの貴族たちが我先にと姉を取り囲んだのだ。


立食式のパーティーというのは正直好きではない。自分の居場所が定まらないからな。出来れば椅子に座って、用意されたこの豪華絢爛な食事を堪能したいところだ。立ったままでは食事もままならない。


食べるためではなく、背景の一部として用意された料理に目を向ける。さすがは王城での舞踏会とあって、用意されている食器も豪華だ。なんといってもガラス製品が見える。


うちの田舎ではガラス製品はあまり見ない。あるにはあるが透明ではなかったりもする。だが、ここにあるガラス製品はどうだ。光を通すほどの透き通ったガラスは中に注がれたワインをより一層美しく見せる。ちなみに俺のグラスには果実水が入っている。ここまで透明なグラスとなると相当な金額になるのではないだろうか。そんなグラスが溢れんばかりに用意されている。そんな中で俺という存在は完全に浮いている。いや、浮いているならまだいい。消えている。という方が正しいな。


そんな情けない主人から、少し離れた場所で立っている、うさ耳を見る。むしろ居心地が悪いのはこっちかもしれない。基本的に舞踏会での給仕は王城の使用人が行っている。時折、うさ耳も手伝っている節もあるが、出席した主人の世話を行うのがお仕事だ。中央に集まっている貴族たちの使用人も主人や声をかけてくる貴族たちの邪魔にならないように。その上で主人の要望に沿って、グラスを交換したり、ナプキンを渡したりと忙しそうにしている。つまり、主人の顔の広さイコール使用人の忙しさに直結するのだ。つまり、つまり、俺の様なぼっちの使用人はやることがほぼない。暇なのだ。まじですまん。


自分でぼっちと称したが、俺は俗にいう「陰キャ」ではない。若い頃は八方美人なところもあり、基本的には人に囲まれていた生活を送っていた。一人が嫌だ。とかではなかったので、キョロ充とまでは言わないはずだ。とはいえ、酒の場とかでは他人の視線や行動が気になり、想いが透けて見えてしまうので色々苦労した経験もある。その経験が今、役に立とうとしている気がする。


そう、今、俺は壁と友達で可哀想な子に見える。だが、自分はそうではないという強い想いにより、それは人間観察をしている不敵な少年に生まれ変わるのだ。少し斜に構えるぐらいでいいだろう。


そうなってくると、ちょっと楽しくなってきた。舞踏会を探るように視線を滑らせると、雰囲気が違う集団が目に入った。貴族とは一線を画した衣装に身を包んだ三人組だ。彼らの周りにもそれなりの貴族がいるのだが、明らかに他と違う点があった。貴族が一人ずつ話をしているのだ。まるでアイドルの出待ちをしているかのように貴族たちが列を作っている。どう考えても偉い人だろう。つまり、王様と侯爵だ。


王様を挟んで二人の男が立っている。あれが南派侯爵と北派の侯爵か。どっちがどっちかはわからない。精気みなぎる壮年のおっさんは、まるで鎧のような衣装で威厳がある。あれは北派っぽいな。一方の老人は衣装が厳かな印象だが、至る部分に宝石が散りばめられている。南派か? 二人が前に出て貴族の応対をしている。たしかにこう見ると王様はお飾りな感じがするな。王様は優しそうなおっさんで悪い印象はないが、頂点に立つにはそれだけじゃ不足なのかもしれない。大変そうだ。


もう一つの集団へと目を向ける。この舞踏会で一番大きな集団。そう、姉を囲う会の人たちだ。


時間が経ってきたせいもあってか、人もまばらにはなっている。所詮は男爵の娘だしな。一目見れば土産話になる程度で集まった貴族が大半だろう。姉の傍にも二人の男が立っている。一人はやけに尊大な立ち振る舞いをしていて、周囲の貴族を押しのけるように姉の横を陣取っている。これが南派伯爵家長男だろうか。もう一人は知的な印象を持った男で、南派伯爵長男よりは一歩引いた位置で姉や周囲の反応を観察している。こっちが北派伯爵の次男か? わからなんあ。頼むから名札を付けてほしい。


ふと、気になる男が目に留まった。姉の集団から一歩離れた位置に大柄な男がいる。どこか心配そうな面持ちで姉の集団を眺めている。大柄というか巨漢だな。あれはわかりやすい。北派伯爵長男だろう。巨漢って書いてあったしな。さらに少し離れた場所では女性を数人連れている男がいる。三人の令嬢たちと楽しそうにお喋りをしているのだが、距離が近くないか? 一人の女性の腰に手を回しているのは見間違いではないはずだ。なんと羨ましい。いや、俺の理想がそこにあった。是非お近づきになりたい。


声をかけるのは失礼になるのだろうか? いきなり声をかけるのは微妙な気がするな。さりげなく会話に混ざるような形に持っていきたい。そう思案して閃いた。あの北派伯爵長男は絶好の的だ。巨漢だが、見た感じ気の良さそうな顔をしている。なんというか熊さんみたいだ。あの人なら話しかけても応じてくれそうだ。そこから何とかして繋げてみよう。


そうと決まれば行動に移すだけだ。

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