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辺境三若記  作者: 芳美澪
32/65

32話 散策

王都に到着した俺たちは貴族区画へと辿り着き、旅程の半分を終えた。ここで冒険者たちとはお別れだ。帰りも雇う必要があるが、舞踏会が終わるまで雇い続けるのは金銭的に無理がある。


貴族区画の外れにある屋敷が俺たちの滞在先。いわゆる借り屋敷だ。王都に滞在するには当然、泊まる場所が必要になる。貴族が街の宿屋に泊まるわけにはいかないので、王都に構えた館に泊まるのが基本だ。


うちのような小貴族は、常時維持する王都屋敷は負担が大きすぎる。そこで今回みたいな場合は貴族区画の館を間借りするのだ。王国側が用意してくれている迎賓館をレンタルするってことだが、当然、館のグレードでも価格が変わる。呼ばれたんだからその分も払って欲しい所だが、まあ、仕方がない。立場が弱いからな。


塀の中に足を踏み入れると二階建ての小ぢんまりした屋敷が出迎えてくれた。一応、中庭もある。普段は管理人夫婦が留守番、維持をしてくれているそうだ。屋敷の中から夫婦が出てきて俺たちを出迎えてくれた。いくつかの注意事項やら説明を使用人たちと話し合っている。俺や姉は早々に屋敷の中へと案内され、それぞれの部屋へと連れていかれた。部屋はさすがというか、俺の館よりも質のいい家具が配置されている。おもむろにソファに座り旅の疲れを癒す。


「今、お茶の準備をしますのでお待ちください」


うさ耳の言葉を聞いて、いつの間にかいなくなった犬耳を思い出す。着いて早々、慣れない給仕をさせて申し訳ないが喉が渇いていたので正直助かる。しばらくすると犬耳がお茶を出してくれたので口に運ぶ。


「この後は?」


「ご夕食ですが、お嬢様とご一緒に取って頂きます」


えー。いや、嫌ではないんだが、使用人に睨まれて夕食を食べたくない。


「お嬢様が是非ご一緒にとのことです」


まあ、お姉ちゃんと二人で夕飯とかないからな。


「明日からは? 舞踏会まで日にちがあるだろう?」


「三若様はご自由にお過ごしして頂いて問題無いと聞いております」


うさ耳の言葉に頷く。そうなると鍛冶屋と商人の所に行っても良いし、ついでに街の様子を見に行くのも自由か。なるほど。


「まだ夕飯までは時間があるな。よし、街に行ってみるか」


俺の言葉に犬耳の目が輝き、うさ耳が今からですかと苦言を呈したが聞かなかったことにして屋敷を出る。こういう時はゴブリンの子としての立場が役に立つ。本来であれば貴族たるものが、ほいほい街に行っていいとは思えない。少なくとも護衛なしとかあり得ないだろう。俺だって護衛が欲しいがどこで雇えばいいのかがわからない。護衛雇う金ぐらいはあるんだがなぁ。


貴族区画から都民区画はさほど遠くはない。大通りに面していればの話だが。貴族区画の外れからはそれなりの距離があるので、良い運動になってしまった。まあ、これでポッコリお腹が凹めば良いのだが、残念ながら簡単にはいかなそうだ。


「主様! ここです! ここ!」


犬耳が屋台の前で手を振っている。後ろに立つ、うさ耳からため息が聞えた気がした。既にこの光景は三度目である。すっかり街の雰囲気に飲まれた犬耳は絶賛テンション爆上がり中だ。うさ耳に何度も俺の前に出るなと言われているのだが、目当ての店が見えると走り出してしまう。いいけど。


「これ、これです! 見たことありません」


「おや、お嬢ちゃん。買っていくかい?」


屋台のおっさんが声をかけてくれるが、犬耳は金を持っていない。持っているのは、うさ耳だ。そしてそれを使っていいかの判断が出せるのは俺なのだ。そんなわけで犬耳もじもじタイムである。


「これはなんだ」


パッと見、ケバブみたいな感じだ。小麦の生地に肉と野菜が挟まっている。うまそうだ。


「王都名物ですぜ! これを食べなきゃ王都に来たとは言えませんよ、坊ちゃん!」


そこまで言われたのなら食べないわけにはいかんだろう。夕飯も控えているので一人一つは多い。仕方なく一つを分けてもらうことにした。犬耳は嬉しそうに代金を払い、切り分けられたケバブらしきものを抱えて戻ってきた。


「うまそうだな。食うか」


「立って食べるのですか?」


「そういうもんだろう。他にも食ってるやついるぞ? まあ、貴族的にどうかは微妙だが、細かいこと気にしてもしょうがないだろう」


うさ耳の言葉も、もっともなのだが、持ち歩くわけにもいかないのでその場で食べる。ケバブと思って食べると微妙だが、これはこれで美味い気がする。食べ歩きってだけで味が三割増ししてるだけの可能性もある。


「おいふぃです」


犬耳も満足そうだ。うさ耳も食べて満足そうだが、こっちは何が使われているのか考えているようだ。早々に食べ終わった犬耳が辺りを見回している。そして一つの建物を指さした。


「あれが冒険者ギルドですね?」


冒険者ギルド。なんとロマンのある響きだろうか。冒険者にはなれないけど冒険者について知っておくのは良いことだと思う。ほら、情報って価値があるからね。


「入ってみるか」


流行る鼓動を抑えつつも気が付けば歩く速度が上がってしまう。慌ててうさ耳と犬耳がついてくるのがわかったが、すぐには止まれないのだ。期待と興奮が入り混じりながら冒険者ギルドの扉をくぐった。


なんというか、ハローワークの劣化版? 仕事の斡旋場だから、まあ間違いじゃない。違うのは全部がアナログで、受付にいるのが優しいお姉さんじゃなくて強面のおっさんだってことくらいか。お姉さんも少ないがいる。中は吹き抜けの二階建てだ。一階の壁には何やら紙が沢山張り出されていた。あれが噂の依頼書ではないだろうか。


「主様。上を見て口を開けていると……」


犬耳が耳元でささやいてくるので、ハッとして口を閉じた。お上りさんの犬耳に指摘されてしまった。悔しい。でも、見渡す限りが目新しいので自然とそうなってしまうのは仕方がないのではないだろうか。壁の近くに寄り、張り紙を見ると、「魔物退治。報酬銀貨一枚」とか書いてある。冒険者ランクとかあるのだろうか?


うさ耳は知ってるだろうか? と、振り返るがうさ耳たちがいない。ここに来て迷子かと想ったら、うさ耳たちが変な連中に囲まれているのが見えた。

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