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辺境三若記  作者: 芳美澪
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31話 王都

王都までの道のりは長い。徒歩で数週間、馬車で五日程度かかるらしい。遠いという事は金もかかる。我ら男爵家ご一行は総勢十六名にもなるので旅費だけでも銀貨が飛ぶ。そんな出費をしてでもこの舞踏会というのは出ないといけないのだろうか。


馬車は二台で姉と俺がそれぞれ乗っている。サスペンションがない馬車なので乗り心地は最悪だと思っていたのだが、案外そうでもない。聞けば錬金術による衝撃吸収材がついているらしい。なんじゃそりゃと思ったが、難しい話になりそうなのでスルーしておいた。車ほどではないが想像していたよりは乗り心地が良いので安心した。当然というか、結構な消耗品らしいので庶民には手が出せない。ちなみに今回の工程では行きと帰りで交換するらしい。貴族で良かったわ。


人員的には俺、うさ耳、犬耳。姉と姉の使用人が二人。次兄の兵士五名と雇った冒険者が五名になる。両親は来ないのかよ、とツッコミを入れたくなる。少ない気もするが、五日分の旅費、報酬もあるのでこれ以上はきついらしい。


うちから王都までは別の貴族の領内をいくつか通る必要がある。一つは北の男爵家、もう一つは子爵家の領地だ。事前に連絡もしてあるし、日頃の交流のおかげで泊まる場所も提供してもらえている。勿論、御心づけ的な金銭のやりとりもある。俺だけならまだしも、姉がいるのでケチって町の宿屋に泊まるような事はできない。おかげで快適な旅行を楽しめてはいる。


こういう旅になると魔物とか盗賊を心配してしまうが、今のところ大きなトラブルはない。魔物は森やら洞窟からはそうそう出てこないし、盗賊に関しても貴族が目を光らせている大通りではめったに出ない。子爵ぐらいの大きな貴族にもなれば、大通りを巡回している兵士もいるので尚の事、安心だ。というわけで旅は順風満帆に行われ、この先の大きな川を渡れば王都になるらしい。


「もう少し行かないと王都は見えてきませんよ」


そわそわしながら窓の外を見る犬耳にうさ耳が言うと、犬耳が恥ずかしそうに座り直す。うさ耳もさっきから窓の外を気にしているようだが、それは言わないでおこう。


「王都に行ったことあるのか」


先ほどの口ぶりから王都を知っているような感じがしたので、うさ耳に聞いてみる。


「小さい頃は王都にいました。十歳の頃に三若様の元で働くために王都を出ました」


そうだったのか、知らなかった。十歳で親元を離れて働きに行くとかよく考えるとすごいよな。親とかどうしているんだろう。と、気になったが野暮な事なのでやめておく。


「橋の関所のようですね」


うさ耳の言葉に外を除いてみると馬車の速度が落ちているのがわかった。犬耳も興味津々と身を捩らせて外を見ている。進行方向に対して背を向ける格好なので大変そうだが、本人は全く気にしてなさそうだ。しばらくすると外でいくつかのやり取りがされている声が聞えてくる。御者が関所の役人と話をしているようだ。御者と役人のやり取りが終わり、袋が渡されたのを見て通行料だと気づく。役人は胸を張り、まるで通らせてやると言った態度だ。何を傲慢なとも思うが、それだけこの橋に需要があるという意味でもある。王都に近づくとは、こういうことなんだろう。


人が多くて移動に需要があるのならこういった税が取れるので収入が潤いそうだ。残念ながらうちはむしろ払ってでも来てほしいので税が取れる状況ではない。


馬車が進みだし、橋を渡る。石造りの立派な橋だ。うちの木製の橋とは安心感が違うな。いちいち格の違いを見せつけてくるのが腹が立つ。


大きな橋を渡り切ると今度は広大な耕作地が見えてくる。王都は盆地にある。平らな土地が多いので、これだけ広大な畑が作れるのだ。うちは森を開拓すればそれなりには作れそうだが、丘やら山やら川やらで王都に比べれば利用できる土地はかなり少ない。羨ましい限りだ。


だが、俺は知っている。盆地というのは水が停滞しやすいのだ。高低差がないからな。水が停滞するという事は水が濁るのだ。つまり盆地の水は汚い。工業は発展してないみたいだから綺麗っぽいけどね。まあ、いいさ。遠い未来そうなる可能性があるという事だ。馬鹿め。


堂々たる橋を渡り、地平線まで続く畑を抜けると、今度は圧迫感のある城壁が姿を現した。なんでも大きければいいってもんじゃない……そう毒づきながらも、口の端が引きつりそうになる。どうやらそう考えていたのは俺だけじゃないようだ。さきほどから犬耳の口が開きっぱなしだ。


「都会の者と田舎の者をひと目で見分ける方法があるらしい」


俺の言葉にうさ耳と犬耳の視線が集まった。


「上ばかり見て口をぽかんと明けているのは田舎者だ」


「あ、あけてません! ……上は見てましたけど」


犬耳がもじもじしながら抗弁してきた。いや、ずっと開いてたから。


「王都は初めてか?」


「はい。男爵様の土地から出るのは初めてです。すごく楽しみです!」


楽しみらしい。俺も楽しみだ。色々見て回りたい。舞踏会はここからさらに五日後になるので、時間はたっぷりあるのだ。もっとサクサク話を進めてほしいが、連絡も移動手段も乏しいからな。仕方がない。そうこうしている内に王都の城壁を過ぎていたようだ。窓の外には人と建物がひしめき合っているのが見えた。


「うわぁ……」


犬耳の口から感嘆といったため息が漏れる。たしかにため息がつくほど人が多い。俺が想像する人混みとは比べ物にならないぐらい少ない。が、男爵家の領内に比べれば数倍多い。大きな道の脇にはいくつかの屋台もあり商売している人が見える。


「ここは都民区画ですね。この先に貴族区画があり、その先が城区画となります」


うさ耳が説明してくれる。城を中心に広がっている街はそれぞれ区画整理されているらしい。


「お姉さま! あれ、なんですか?」


犬耳は食い物に夢中だ。と、馬鹿にしていたが、確かに気になるな。なんだあれ。後で行ってみよう。

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