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辺境三若記  作者: 芳美澪
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26話 協力

「やめろ。これは俺と弟の決定だ」


兵士たちの一部が俺と次兄の決定に不服の声を上げた。次兄がそれを抑えようとする。見たところ、若い兵士ほど納得できないというような顔をしている。ここは次兄頼みだ。せっかく話が纏まりそうだったのだ。ビシっと言ってやって欲しい。


「納得できません!  我らは男爵家の兵です。城に隠し事をするなど許されません。それに、こんな乞食や難民同然の者どもと並び立つなど! 見れば手足もない者もいます。協力などしなくても我々で対処可能です!」


その言葉を聞いた時、気が付けばその兵士の前まで詰め寄っていた。突然の俺の行動に兵士がギョッと目を見開く。


「ここにいる連中の大半は、手足が欠けている。だが、それはお前も変わらんだろう」


目の前の兵士は五体満足だ。当然、俺が言っている事は理解できない。


「お前のおつむが足りてないって言ってるんだよ」


自分の頭を指さし吐き捨てる。頭に血が上るというのはこういう事だろう。交渉とか協力とかどうでもよくなった。


「なっ!?」


「誰が、誰に対して口聞いてんだ。舐めてんのか?」


魔法や剣と言ったチートな力は持ち合わせていない。だが、それ以上にわかりやすいチートが存在する。それが権力だ。男爵家三男の権力なんて大したものではない。だが、目の前の兵士にとっては絶対的なチート能力となる。情けないと言われるかもしれないが知るか。ここぞとばかりに使わせてもらう。


「わ、私は、三若様に言ったのではなく……」


目が泳ぎ、周りの兵士に助けを求めている。だが、当然、他の兵士も助けようがない。ここでの力関係で言えば次兄、俺、その他大勢となる。次兄は俺的にはお兄ちゃんなので上という認識だが、実際にはそこにあまり差はない。


「ここにいる奴らは俺の仲間だ。俺の仲間に喧嘩売ったって事は、俺に売ったってことだろうが、良い身分だな。俺様に喧嘩売るとはな。買ってやるよ」


「あ、いえ……」


「俺がなんて呼ばれてるか知ってるか? そうだ、ゴブリンの子だ。森の魔物らしいな。お前のそのご自慢の体にその意味を教えてやるよ。そうすりゃお前も同じだなぁ?」


「三若様」


次兄の後ろにいた兵士が声を上げる。他の兵士とは違い、こいつだけ軽装だ。足を引きずる様に歩いているのが見えた。


「私も傷痍兵でお役に立てない者でございます。ここに居る方たちの気持ちも、また、その方たちへの配慮を欠いた我が兵へのお怒りはごもっともかと思われます。ですが、この者も若くして男爵家の為にと、身を粉にして日々鍛錬に励んでおります。男爵家への忠誠心が行き過ぎたところもありご無礼な発言をしてしまったこと。私からも深くお詫び致します。何卒、未来ある若者へ寛大なご対処を頂けませぬでしょうか」


男は痛々しく片膝をつき、頭を深く垂れた。


ここまでだろうな。と冷静になる。実際問題、手を出すわけにはいかない。それにこのまま続けて次兄にまで頭を下げさせるわけにはいかない。そんなことさせたら、「俺たち」と「次兄たち」の間で決定的な上下関係が発生してしまう。あくまでも対等なのだ。それがわかっているからこそ、この男は自分の責任として謝罪し、場を収めようとしている。


とはいえ、こちらとしても腹が立ったのは事実だし、振り上げた拳を「はい、わかりました」と下げるわけにもいかない。


「申し訳ありません!」


と、思ったら若い兵士も勢いよくその場で片膝をついてきた。こうなったら拳を引っ込める以外の選択肢はない。仕方ないので兵士の横でしゃがみ込み手を置く。


「お前たちに譲れない誇りがあるように、こいつらにも譲れない想いがある。それを踏みにじるようなら、次は戦争だ」


これ以上、追い詰めるわけにもいかないのでその場を離れる。「良い上司をもって助かったな。次はないぞ」と、捨て台詞だけ吐いといた。負け犬な感じもするけど仕方ない。


「部下の配慮が足りずに不快な思いをさせてしまったな」


「謝罪は受け取った。ひとまずは水に流す」


「そうか、助かる」


次兄が面目なさそうに言う。とりあえずこっちにも釘指しておくか。


「おい、今、この瞬間から協力することになった。そうである以上、こいつらも俺たちの仲間だ。仲間を乏しめるような奴には容赦しねえぞ」


その場にいる全員が頭を深く下げる。これで表面的には相互摩擦はないだろう。実際にはあるかもしれないが我慢するはずだ。俺っていう癇癪持ちがいるからな。酷い解決方法だが仕方がない。もっと良い解決方法があったかもしれない。頼むからトラブル起こすなよ。


ちょっとしたトラブルはあったが協力体制を約束しあったので現状のお互いの手の内を明かす事になった。次兄からは城の状況や兵士の装備、前回の討伐に関して詳しく話があった。


ほとんどが俺にとっては答え合わせ程度なのだが、やはり内部の込み入った話となると初めて聞くことも多い。こういうところは浮浪者ネットワークの弱みだな。


姉の縁談の話が進んでいるそうだ。といっても姉が乗り気ではないらしい。それをどうにかするために南方侯爵に連なる子爵の息子に会わせてはどうかという話が上がってる。お見合いと言う名の社交パーティってわけだ。


執事の提案らしい。次兄的にはそんなに焦らなくてもいいのではないかと思っているそうだが、執事が熱心にパパとママを説得していたそうだ。行き遅れになると困るからな。ちなみに執事からの報告では、俺は相変わらずとの事だそうだ。なにがどう相変わらずなのかじっくり聞かせてほしい。


次兄からの話の後はこちらの番だ。頭の先導で砦の紹介がされた。


「こちらでは土を使って焼き物を作っています。ただ、土の質が悪くあまり良い物は作れていません」


「土器は東が盛んだったな。ここではだめか」


「日常で使うという意味では問題はなさそうですな。それに東の物は高価です」


次兄と、俺に謝罪してきた壮年の男が意見を言い合う。壮年の男は相談役らしい。


「鉄が欲しい。設備も知識もないけど」


欲望を口にしてみた。知り合いの鍛冶屋とかいないだろうか。


「鉄か……」


皆が考え込む。


「たしか、家が鍛冶屋とか言ってなかったか?」


鎧に身を包んだ壮年の男が若い兵士を見る。この男が部隊のリーダー、つまり部隊長らしい。ちなみに若い兵士はさっき俺に怒られた奴だ。


「は、はい! たしかに実家は王都で鍛冶屋を営んでいます。ですが……」


声が尻すぼみになる。聞けば家を飛び出してきたらしい。鍛冶屋を継ぐのが嫌だったそうだ。それにさほど大きな鍛冶屋ではないのであまり助けにならないと言っていた。とはいえ、今はそこしか頼めそうなところはない。王都となると行くのも大変なのでどうにもならんが。


「あれは?」


次兄が窯の上を塞ぐように置かれた土くれを指さす。


「あそこに水を溜めて湯を沸かす仕組みを試しています。耐久と給水に課題があって実用化はできていません」


おお、やってくれているのか。お風呂も遠い未来ではないのかもしれない。と思ったがうまく行っていないらしい。まず重量の問題がある。次に水を入れる労力が尋常ではない。更にはひび割れも多いという事なので改良の余地が多い。というか改良しないと使えない。


「不思議なことをするんだな。湯に浸かるのは東の風習であったか?」


「ほう、そうでしたか。三若様はどちらでその事を?」


次兄たちがこちらを見てくる。適当に本で読んだと言っておいた。とりあえず、鍛冶で装備を新調とかの手助けはできないのがわかったので、木と骨を加工している工房に向かう。


「こちらでは木や草、骨などを加工しています」


次兄と相談役、部隊長が中に入る。狭いので全員は入れない。


「それは?」


次兄が女の作っている物を指さす。


「それは三若様からの依頼で作っている物です。こちらも試行錯誤していますが」


女が手にしていたのは、竹管を材料にした簡易弩だった。しなりで弾を飛ばす仕組みで、子供や老人でも扱える。弩というと大層なものに聞えるが、割り箸鉄砲みたいなものなので質は悪い。構造、耐久、取り回しを含めて改良の余地だらけの物だが、単発で使うならそれなりの威力がある。間違っても人に向けて使用してはいけない。


「なるほど。簡易的な弩のようなものですな。ううむ。このままでは使えそうにありませんが、興味深いですな」


相談役と部隊長が興味深そうに手に取っている。別に目立った発明でも何でもない。むしろこれより良い物がこの世界にはある。それの劣化版をわざわざ作ろうという発想がなかったそうだ。


「ひとまずは砦の防衛で使えれば良いと思ってる」


出来が悪いのでフォローしておく。


「獣を狩る際に数回使用しています。威力は問題ありません」


頭が付け足してくれた。もっと良い感じになればいいのだが。


「改めて考えると森に中継地点があるのは我らにとってかなり大きな助けになるな」


集会所に戻り落ち着いたところで次兄が言う。


「私もそのように思います。ここで準備を整える。城に戻らずにここに来れば補給できると考えれば行動範囲は広がります」


相談役の言葉に兵士たちが頷く。こちらとしても周りを次兄たちがうろついてくれれば魔物が砦を襲撃する可能性も下がる。


「さっきも言ったけど、見慣れないデカい蛇の魔物もいる。十分に注意したほうが良いとは思う」


俺の発言に次兄たちが顔を顰める。一度しか目撃されていないので習性も把握できていないので危険なのだ。


「弟の言う通りだ。とはいえ、新たな拠点ができた恩恵は大きい。やることは多いぞ」


次兄の言葉に兵たちは力強く頷いた。そう、やることは多い。

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