22話 噂話
下り坂だった天気も今日は快晴だ。この世界で学んだことが一つある。急いではいけない、だ。情報も伝達も遅いし、技術もない。結果を焦ってもロクなことにならない。待っていれば勝手に噂も広がるし、情報も転がり込んでくる――たぶん。
そんなわけで今日は髭の息子と娘を連れて村の広場に出てきた。幽閉されてる身でこんなに外出していいのか? とは思うが、誰も何も言わないので良しとする。どうせ城からは見放されてるだろうしな。怒られたらその時に考えよう。
砦の件は順調だ。報告を聞く限り、皆それぞれ動き始めている。……ただ、一点だけ俺の痛恨のミスがある。彼女候補集めの件だ。
前回の指示では「兄の縁談の為」って形にしたせいで、対象は必然的に貴族の娘になった。よく考えたら、別に彼女なんて貴族である必要はない。俺は平民でも気にしない。身なりさえ整っていれば乞食だって候補でいい。可愛ければむしろ歓迎する。だが、集まってくるのは貴族の娘の情報だ。これじゃ情報としては片手落ちだ。非常に困る。いや、全部俺が悪いんだけど。
「三若様は何か考え事してるの?」
さっきまで髭息子とどっちの草が長いか勝負していた髭娘が話しかけてきた。
「んー。いや、思い通りにいかないなと思っただけだ」
「ふーん」
髭娘は興味が薄れるのが早すぎる気がするな。そっちが聞いたんだからもっと掘り下げるとかして興味を持ってほしい。
「あ、居た!」
髭息子が広場に向かって走りながら手を振る。顔なじみの子供を見つけたのだろう。
「お兄ちゃん、まってー」
髭娘も続く。お前ら髭親父からちゃんと俺の傍にいろと言われてたよな?
「あ、ゴブ……じゃなくて、三若様! おはようございます」
村の子供がこちらに気づき頭を下げる。挨拶できるのは偉いが今言いそうになったな?
「あのね! この前ね、城から来た人が言ってたんだよ! 二若様が森に行ったんだって!」
「でもね、いっぱい魔物が出て、けが人も出たんだって! 父ちゃんが言ってた!」
子供たちが興奮して口にする。
「おれなら簡単にたおしてやるのになー。こうやって」
一人の男の子が木の棒を振り回す。
「兵士になるのが夢か?」
子供のうちから城に仕えたいのだろうか。
「ううん。おれはしょうぐんになるんだ」
違った。しかも、もっとスケールがでかかった。
「こら! 三若様に失礼なことを言うんじゃない!」
親らしき男が子供たちを叱る。
「うまく行かなかったみたいだな」
親の方が詳しく知ってるだろうと水を向けてみた。
「最初は良かったみたいですがね……数が多かったとかで、さすがの二若様たちも引いたそうです」
「うまくやってもらえればいいんだけどねぇ」
近くにいた女性も会話に混ざってきたが、「あ、すいません」と、謝ってきた。俺も男爵の息子だからな。男爵家の失態を咎めてしまったと思ったんだろう。
「そ、そういえば北の男爵様が協力するとかって話もでてるねぇ」
女性が話を逸らす様に言う。
「どういうことだ?」
「俺が聞いた話じゃ、男爵様じゃなくて、男爵様に仕えてる家将様が勝手にやってるって話だぞ」
噂となると話が盛り上がってくる。更に数人の大人たちが交じって会話が進む。まとめると
北の男爵の家将は魔物討伐に前向きらしい。既に兄に手紙も出しているほどらしい。対して男爵はというと、やっぱりというか乗り気ではないらしい。他人の領地の話だから当然と言えば当然だ。本来であれば家将も出張る必要はない。だが、当主への反発と広まった噂で先走ってるらしい。当然、息子も乗り気だろう。
功績を焦ってるのか、男爵を見返したいのか。など、村人たちは好き勝手に言っている。
こうなると援軍の可能性も高いかもしれない。ただ、そうなると森に入る人の数も増えるので砦がバレる可能性も高くなる。困ったもんだ。
館に戻りしばらくすると砦からの報告も入ってきた。北の男爵の件は村で聞いた内容と一致する。間違いないようだ。後は手を組むかどうか次第だ。組んだ場合は砦の心配をする必要になる。組まなかった場合は兄の心配をする必要になる。どっちに転んでも心配事は尽きない。
金策に関しても動き始めているようだ。まずはうちの城壁改修の人足に応募するらしい。それと同時に他でも募集がないかの情報を仕入れるらしい。城で働くことでうちの情報も仕入れると息まいてる。無理すんなと伝えておいた。ただ、身内の情報もしっかりと仕入れておくのも重要だとは思うので止めてない。




