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辺境三若記  作者: 芳美澪
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19話 魔物

引き攣った笑顔しかできない。こいつらは何を目指してるんだ。あれか、俺が情報を売れっていったから本気にしたのか。たしかにネット環境のないこの世界で情報は重要だ。だが、ここまで大きくなると若干引く。難民と浮浪者のネットワークを舐めていた。かなりの範囲の人間を巻き込んでやっているようだ。そのうち王都まで行くんじゃないのか?


「まあ、まずは自分達のことだな。魔物は大丈夫か?」


「それについては森の調査を担当している者から報告させます」


そういうと頭が猫耳に顔を向けた。森の猫耳男か。


「砦付近に魔物はいません。ですが、少し奥の村と城に近いほうでは小川付近にまで魔物が出没しています」


城に近いほうというと丘の方か。


「先日はそれなりな数の魔物が居ました。あの大熊も見ています」


「危なくないか? 無理はするなよ」


危ない事はやめてほしい。やっと血の匂いが取れたのに。


「問題ありません。森を調査しているのは猫人族が中心です」


猫って気配消すのうまいしな。と、妙に納得した。


「森の奥ですが……妙なものを発見しました」


「妙なもの?」


猫耳男が神妙な顔で頷く。


「大きな木の表面が削れており、いくつかの鱗がこびりついていました」


つまり? どういうこと? 周りを見渡すと全員が神妙な顔をしている。こいつらはわかっているのだろうか? 俺にはわからん。こういう時は周りに合わせるのが鉄則だ。空気を読むのは得意だ。


「恐らくは蛇の魔物かと。しかもかなりの巨大な蛇です」


やばいじゃん。


「ここからは憶測ですが、そいつの出現により魔物や動物が住処を追われているのではないかと」


「他の可能性は?」


猫耳男が首を横に振る。


「他の魔物と争っていた所を目撃した者もいます」


そういうと別の猫耳に目を向けた。


「蛙の魔物と争っていたのを見ました。その時に落としたのがこちらです」


テーブルの上に牙のようなものが置かれる。


「牙か?」


「いえ、表皮に生えている棘です。奴は相手に巻き付き、これを刺し、弱らせた後に丸のみしていました」


棘をみる。俺の腕ぐらいある。これが体に無数に生えてるってことか? 蛇というかハリネズミやん。


「そいつはどこに?」


「森の奥へと入っていきました」


「こっちにはこないか」


「はい、ですが……」


頭が難しそうな顔をしている。何か問題があるのだろうか。


「なんだ」


「男爵家では近々、森の一斉捜索と討伐を検討しているようです」


「捜索? その蛇の魔物のか?」


「蛇の魔物の存在を認知はしていないようです。ですが、魔物が活性化しているのでその原因の捜索と討伐かと」


「もし、蛇の魔物に出会って勝てるか?」


誰も答えない。沈黙が砦の集会所を満たす。やがて、小さな声が漏れた。


「……勝てないでしょう」


俺は無意識に喉を鳴らした。問題はそれだけではない。


「この砦も存在がバレるか?」


「多少の偽装はできますが、近くまで来られたら存在を知られることになると思います」


それはあまりよろしくない。討伐対象がこちらになったらやばい。


「常に二若様の行動は確認しています。最悪は全員を避難させる形にはしますが……」


避難といっても場所がない。その場合は俺の館の裏手になるのかな。


「森の状況はわかった。他にはあるか?」


良い考えも思い浮かばないので先送りにした。


「あとは隣の男爵家の話とかでしょうか」


うちの男爵家は西と南が深い森だ。その先には南の連合国があるのだが、森を横断するのは危険すぎる為、行き来はない。東は公国がある。こちらもそれなりな距離がある。つまりここでいう男爵家は北にある土地を言う。いわばお隣さんだ。更に奥には別の男爵と子爵の領地となっている。


となりの男爵家とはどういった関係なのかはよくわかっていない。


「悪くはないようです。ですが、北の男爵家内は冷え切っております」


「と、いうと?」


「三若様は北の男爵様についての噂をご存じでしょうか?」


「いや、知らんな」


頭が別の男に目を向けた。ひょろりとした感じの細身の男だ。


「北の男爵様はお金にうるさいみたいですね」


つまり、ケチということか。


「そのことで男爵家につかえる将にかなりの不満があるようです」


細身の男はにやりと目を細める。顔も目も細いからなんとも言えない不気味さを感じた。


話を纏めるとこうだ。俺のパパのパパ、つまりお爺ちゃんの時代にまで遡る。お爺ちゃんの代に大きな戦争が起きたらしい。東の公国との戦争だ。俺の男爵家と北の男爵家は領地を面しているので、当然戦地となった。うちと北の男爵家は協力し、公国軍先発隊を打ち破り、その後に王国軍本隊と協力し公国軍を押し返したという逸話がある。その際に王様はうちと北の男爵家を褒めちぎって少なくない恩賞をくれたそうだ。うちには不安定だった男爵家としての名誉と土地。北の男爵家には金だったそうだ。


当然、それらの功績は男爵家に仕えてくれた将や兵士の恩恵が大きい。なので、男爵はそれをねぎらうことで次の戦いに備える必要がある。


北の男爵はそれを良しとしなかったらしい。むしろその金を更に増やすために商人たちに投資したらしい。結果は今もこんな僻地でくすぶってるのをみれば御察しだ。将や兵たちにはなにもなし。当然、将や兵士からは抗議が起こり大騒ぎになったらしい。更にその後の北の男爵の行動も問題だった。基本的にお爺ちゃんと今の当主も軍備にお金をかけたくない方針らしい。軍備にかけてもお金は増えないしね。つまり、必要最低限の軍備しか用意できないのだ。将や兵は自分たちが冷遇されていると不満しかないだろう。


更に問題は起きる。今の代になってその関係を見直そうと北の男爵が歩み寄りを見せたそうだ。いいね。


北の男爵家の次女と将の息子との婚姻を結んだそうだ。家族になって仲良くやっていこうよ。って事らしい。だが、それを北の男爵が断った。提案した側から断るって中々すごい。北の将は面目まで潰された。


「北の将の息子は二若様にも敵愾心をお持ちのようです」


「敵愾心?」


「嫉妬ですなぁ。どちらもたいした兵は持ってませんが、二若様の評判は良い」


「おい」


細身の男の物言いに頭が叱責の声を上げた。まあまあ。


「それで?」


「妬ましいのでしょうな。俺の方が騎士としても上だと自負しているとか」


「そんなことより本題を話せ」


頭が苛立つように細身の男に言う。


「ああ、そうでしたな。なんでも北の男爵は錬金術に執心しているようで。商人たちにもそういった商品を持ち寄らせているようです」


そっちが本題か。なるほど、俺が石鹸の話を前にこぼしたからな。


「……っ若様?」


頭の声でハッとする。話しかけられていたらしい。


「なんだ?」


「いえ。どういった商品があるか探らせますか?」


「いや……それよりもその将と息子は使えるな」


沈黙が返ってきた。


「前回と一緒だ。俺たちには戦力がない。なら戦力があるとことから借りよう」


「北の男爵に頼むのですか?」


「いや、そうじゃない。そう仕向ける」


動いてくれるかはわからない。だが、やってみて動いてくれれば僥倖だろう。駄目なら駄目でもいい。


「北の男爵領地で噂を流せ。将や息子は頼りにならない。それに比べてこちらの次男殿は大層頼りになると」


「噂をですか?」


「できるか?」


頭と細身の男が顔を見合わせる。


「勿論、できます。北の男爵領地にいる物乞いたち全員に飯を振る舞って噂を流せば瞬く間に広がります」


「よし、その噂を流した後にもう一度噂を流せ。こちらの次男が東の森の魔物を討伐すれば、その武勇はより一層輝くだろうと。北の将とその息子はそれを見てるだけなのかと。残念でならない。うちの将と息子の方がより武勇に優れているはずなのに。と」


「わかりました」


「こちらの討伐は何時頃に行われる?」


「まだ具体的な日程は決まっていないようです」


頭が応える。「すぐに確認してみます」


そんなにすぐに確認できるものなの? と、疑問に思っていると頭はにやりとこちらを見てきた。できるのかい。このやり方が上手くいくならこの先も色々と選択肢が増える。実験させてもらうとしよう。

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