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辺境三若記  作者: 芳美澪
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17話 顛末

翌朝、館と周辺はいつもの日常を取り戻していた。重症を追っていた男は深夜に熱が出たらしいが今は引いて症状も安定していると報告があった。革の鎧を来ていたおかげで背中の傷も深くはなかったらしい。なかったら逆に即死だったかもしれないと。


俺はというと髭親父、それから頭と負傷の少なかった数名を連れて森の砦に向かっている。事前に辺りの調査はしており安全だが、油断はできない。昨日の今日で急ぎすぎかとも思ったが、それ以上に「知ること」の方が重要な気がした。無理を言って砦の案内を頼んだ。


村を経由して東の森に入るのかと思いきや、北の街道に一度出てから東に経由する形で行くらしい。遠回りなのでは? と、思ったが、「人目につかないし、こちらの方が安全」と、言われたので素直に従った。


北に向かうと道を遮るように小川が流れている。小川というか小さめな川だな。皆が小川というのでそこは同調しておいた。


橋を越えると男爵家の領地外となる。橋を渡らずに小川沿いに東へと進む。しばらく進むと森へと入り左手には切り立った崖。獣道があるのですぐわかると言われたがさっぱりわからんかった。しばらく左手の小川と崖にそって移動すると開けた場所へと出た。そこに砦はあった。


崖と小川が途中で分かれ、その隙間に三角形の土地ができている。そこに砦は建っていた。中州と呼ぶには大げさだが、天然の囲い込みのような場所だった。


なるほど、小川と崖で囲うようにできたあの位置なら多少なりとも安全か。小川はさほど深くはなく俺のくるぶしがちょうど埋まる程度だ。流れはあるが急ではない。さほどの障害にはならずに渡れる。それでも動きは鈍るので良い壁にはなってくれているのだろう。盗賊どもがなぜここを拠点に選んだのか、実際に目で見て納得した。


目の前に現れた砦らしきものは、丸太を組んだ柵は半ば崩れ、杭の一部は地面に刺さりきらずに傾いていた。急ごしらえという事もあったんだろうが、それ以上に「誰かに壊された後」と言ったほうがしっくりくる。


崩れた柵の根元にはなにかの爪後が深々と残っているのが遠目でも見て取れる。確かにここで魔物が暴れたのだ。


「入口はこちらです」


頭たちの先導で小川を渡った先へと向かう。正直、どこからでも入れそうなものだが、やはり正規の入口からの訪問がマナーだろう。


小川を渡る途中で数名の遺体を横目に見た。逃げようとして背後から魔物に襲われたのか、詳しくはわからない。ただ、五体満足ではなかったのはわかった。ちゃんと見なくてよかった。見てたら卒倒してたかもしれない。


「後ほど遺体は片付けます」


誰かが言った。是非、そうして頂けるとありがたい。感謝しつつ、砦の正面らしき場所から内部へと入る。入った瞬間に顔を顰めてしまった。それほどまでに酷い有様だった。土の上には折れた槍や矢羽根が散乱し、壁際には血が飛び散った跡が黒く染み付いている。獣臭さと血の匂いが鼻を突き、胃がむかむかして吐き気をこらえる。


「ひどいな」


思わず声に出た。正直、ここまで匂いが酷いとは思わなかった。一晩経ってるのだから、もう少し匂いが散ってくれててもいいのに。


「あれほどの大きな魔物であれば、むしろこの程度で済んでいる方が奇跡かもしれません」


「そんなにデカかったのか」


男の言葉に一体どれぐらいの巨躯だったのか聞き返す。


「俺の数倍は大きかったですね」


答えた男も結構デカい。俺の倍はあるだろう。その数倍となるともうデカいでは済まない。超デカい。


「頭! こいつが名の通った盗賊です!」


先行していた男が声を上げる。


「全員、死んだようですね。見に行きますか?」


頭がこちらを見てくる。好き好んで死体なんて見たくないので首を振って答えておいた。


声のあった方向を見る。入口付近は広場になっており、平坦だが崖に向かって少し高さがある。一番まともな小屋が見えるので盗賊頭の小屋だったのだろうか。もはや家主はこの世に存在しないが。


広間を見回すと折れた槍や矢が散乱している。血や変な肉片も散乱しているがそれはなるべく見ないようにした。戦いは一方的ではなく必死に抵抗したのだろう。だからこそ痕跡が散らばっている。ふと、ある一角に目が止まった。数人の死体があるが、恐らく女だ。遠目からも粗末な布を身にまとっているので恐らくは連れてこられた女たちなのだろうか。胸のあたりがざわりとした。彼女たちがここでどんな暮らしを強いられていたのか想像してしまう。それ以上視線を向けられず、俺は無理やり目を逸らした。


「魔物はどうなった?」


黒い想像を振り払うように話題を出す。安全とは聞いているが、魔物がいるなら危険だろう。


「どうも巣から居なくなっているようです。痕跡を見つけましたが奥へと行ったのではないかと」


「戻ってくる可能性もありそうだな」


「そうですね。注意は必要かと」


頭の説明では今は安全のようだが、安全が確証されたわけではない。


「何が起きたのかは理解した。もうここには用はないだろう。帰るか」


正直な話、できれば一刻も早くここから離れたい気持ちで溢れてる。入口へと顔を向けるが微妙な空気にふと頭たちの方を見る。何か言いたそうな、それでいて言いづらそうな様子で互いに顔を見合わせている。


「三若様」


髭親父が切り出した。


「なんだ」


「皆と相談したのですが、ここを利用するのはどうだろうかと」


それか。なんとなくそんな気がした。


「ここを?」


再度、砦内を見渡す。血や死体が散らばっている。事故物件どころの話ではない。ここを使うの? 本当に?


「はい。盗賊たちが見つけた場所ですが、ここは立地的にもかなり良い場所です。村からも離れていて、森の奥からも距離がある。ちょうど中継地点と言った場所です。人目につかず、危険も比較的ありません」


「館の裏の奴らをここに移すつもりか」


「あそこでは目立ちます」


何がと言おうとして理解した。俺は幽閉の身なのだ。それなのにいきなり、団体を館の裏に住まわせたとなると色々と問題になる。


「でもここでいいのか? そのなんというか」


「むしろここ以外はあり得ないといった場所でしょう。広さも申し分ありません」


頭が割って入ってきた。確かにここは広い、盗賊たちは目いっぱい土地を利用していなかったようなので、広げようと思えばもう二回りぐらいは広げられもしよう。


「うーん」


とはいえ、こんな惨状を目の当たりにして大丈夫かと心配になってしまう。


「まずは先行部隊に片付けと基礎作りをさせます。安定してきたら徐々に移動すれば問題ないと思います」


髭親父と頭が揃って推してくる。髭親父の懸念はわかる。城の人間にバレる前に隠すというのは賛成だ。場所が東の森の惨殺現場でなければなのだが。


「わかった。だが、十分に気をつけろよ。魔物がまた来るとも限らん」


「勿論です。常に周りの状況は確認させます。危険な場合はすぐに全員を避難させます」


ほっとしたような口調で頭が頷いた。こうして奇しくも俺たちは秘密基地を手に入れることとなった。

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