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上の巻 天地開闢の章 序文 第一段

青空文庫より


稗田の阿禮、太の安萬侶

武田祐吉訳、御名方リント再訳

 ―――この物語が編まれるよりずっと前、人々は文字を持たず、親から子へと口伝にて物語を語った。

 幾世代もの時を経て、口伝は文字へと置き換わり書となった。

 645年、蘇我蝦夷(そがのえみし)によって「天皇記」などの多くの書物は失われたが、天皇の権力を皆に知らしめる為にも伝記は必要だった。


 この物語は歴代の天皇がこれを(かがみ)とし、自身の振る舞いを改め、正しい徳を身につけることで、他者の良い手本となるように努めた、所謂(いわゆる)日本の聖書である。

 そして、これからお話するのは西暦712年、古き賢人のひとりである太の安萬侶(おおのやすまろ)が、口伝である「古事記」の内容を再編纂し、第38代 天智(てんじ)天皇へと奏上した書である。―――



「わたくし太の安萬侶(おおのやすまろ)が申しあげます。」


 宇宙のはじめに()つては、すべてのはじめの物がまず出来ましたが、その様子はまだ十分でございませんでしたので、名前もなく動きもなく、誰もその形を知るものはございません。


 それからして天と地とがはじめて別になつて、天之御中主(アメノミナカヌシ)の神、高皇産霊(タカミムスビ)の神、神産巣日(カムムスビ)の神が、すべてを作り出す造化三神(ぞうけのさんしん)となりました。


 そこで男女の兩性(男女)がはつきりして、伊邪那岐(イザナギ)の神、伊邪那美(イザナミ)の神が、萬物(よろずもの)を生み出す親となりました。


 そこで伊邪那岐(イザナギ)の命は、地下の世界を訪れ、またこの國に帰つて、(みそぎ)をし、日の神(天照大神(あまてらすおおみかみ))と月の神(月読(つくよみ))が現れ、海に浮き沈みして身を洗ったことにより天の神(天津神(あまつかみ))、地の神(国津神(くにつかみ))が現れました。


ゆえに、起源ははるか昔でしたが、伝承によって大地ができ島ができたことを知りました。

そして、いにしえの聖なる方により、神を産み人が現れたこの世が明らかになりました。


 神々が賢木(さかき)の枝に(ぎょく)をかける儀式を行い、須佐能乎(スサノヲ)の命が玉を噛み砕き、吐息をかけたことがあつてから、代々の天皇が続き、天照大神(アマテラスオオカミ)(ツルギ)をお噛みになり、須佐能乎(スサノヲ)の命が大蛇を斬つたことがあつてから、多くの神々が繁殖しました。


 神々が天安河原(あまのやすかわら)で会議をなされて、天下を平定し、建御雷神(タケミカヅチノヲ)の命が、出雲の國の伊耶佐(いざさ)の小濱で大國主の神に領土を讓るようにと談判されてから國内をしずかにされました。


 これによつて瓊瓊杵(ニニギ)の命が、はじめて高千穂(たかちほ)の峯にお下りになり、初代 神武(じんむ)天皇が大和(やまと)の國におでましになりました。


 この天皇のおでましに()つては、バケモノの熊が川から飛び出し、天は高倉下(タカクラジ)の命に(つるぎ)をお授けになりそれを初代 神武(じんむ)天皇に届ける際は、尾のある人が路をさえぎつたり、八咫烏(やたがらす)が吉野へ御案内したりしました。

 最後には人々が共に舞い、合図の唄を聞いて八岐(やまた)の大蛇を討ちました。


 そこで第10代 崇神(ずじん)天皇は、夢で御承知になつて神樣を御崇敬になつたので、賢明な天皇と申しあげますし、第16代 仁徳(にんとく)天皇は、民の家の煙の少いのを見て人民を愛撫されましたので、今でも道に達した天皇と申しあげます。


 第13代 成務(せいむ)天皇は近江(おうみ)の高穴穗の宮で、國や郡の境を定めることにより行政区画を決めて地方を開発され、第19代 允恭(いんぎょう)天皇は、大和の飛鳥の宮で、氏々の系統をお正しになりました。


 それぞれ保守的、進歩的、華やか、質素なのとの違いはありますけれども、いつの時代にあつても、古いことを調べて、現代を指導し、これによつて衰えた道徳を正し、絶えようとする徳教を補強しないということはありませんでした。

 歴史は火(戦火)によって簡単に失われるからこそ、大切にしなくてはいけないな。

 今のイスラエルとか、ウクライナとかの歴史も更地になってしまってるんだよね。。。

 同じ過ちを繰り返さないためにも賢者は歴史に学ばなくてはいけないです。

 そして移り行く世の中だからこそ、変わらないものに一度手を止めて向き合ってまるべきではないだろうか?


 登場人物、神もたくさん出てくるけど、それぞれにエピソードがあり、何度読み直しても面白い一大スペクタクルで、勉強として読むにはもったいないなと今更になって思うが、言葉遣いは古いからハードルが高くてちょっとやる気が必要という印象。

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