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第1話 スローライフ、カンストにつき終了のお知らせ

コケコッコー!

 ……とは鳴かない。我が家の朝を告げるのは、庭で飼っているファイアバードの『やきとり』だ。彼は毎朝きっかり、夜明けと共に太陽みたいな光を放ってくれる。目覚まし時計としては眩しすぎるのが玉に瑕だけど。


「んん……朝かぁ……」


 私はリリアンヌ・フォン・クライフォルト。……というのは15年も昔の話。実は前世でOLをしていた記憶を持つ転生者であり、堅苦しい貴族社会に嫌気がさして家を飛び出した、ただの令嬢。

 今では『曰く付きの森』なんて物騒な名前で呼ばれるこの場所で、気ままなスローライフを送っている。


 森での名前は、リリ。

 こっちの方がずっとしっくりくる。


 ぐーっと伸びをすると、ふかふかのベッドが心地よく軋んだ。このベッド、土のゴーレムに作ってもらった特注品だ。

 最初はゴツゴツして寝心地最悪だったけど、改良に改良を重ねた結果、今では雲の上のような寝心地を実現している。我ながら傑作である。


「リリ様、おはようございます」


 ベッドのそばには、いつの間にかモーニングティーが用意されていた。湯気を立てるカップを運んできたのは、リビングアーマーの『アーマーさん』。

 私が森の奥で見つけたポンコツ鎧に、暇つぶしで魔力を込めたら自律して動くようになった、我が家No.1の働き者さんだ。


「おはよう、アーマーさん。今日もいい天気ね」


「はい。森は本日も平和そのものです」


 アーマーさんの言葉に頷きながら、私はティーカップを傾ける。茶葉は昨日そのへんで摘んできたやつだけど、不思議とアップルパイみたいな味がして美味しい。


 そう、私の日常はこんな感じ。平和で、穏やかで、最高のスローライフ。


……だったんだけど。


 最近、一つだけ、どうにも看過できない悩みがあった。


――私、どうやら暇を持て余している。


 15年も森で暮らしていれば、生活は完全にルーティン化する。朝起きて、畑の世話をして、森の魔物たちと戯れて、美味しいご飯を食べて、寝る。


 最初の頃は、巨大な猪に追いかけられたり、毒キノコを食べて三日三晩踊り狂ったりと、それなりにスリリングな毎日だった。

 でも、今となっては森の魔物たちはみんな顔なじみだ。森の主であるはずのエンシェントドラゴンですら、最近では「リリちん、今日の晩飯なにー?」なんて訊いてくる始末。

 威厳はどこへやったんだ、威厳は。


 その原因は、はっきりと分かっている。

 ふと、意識を集中させると、目の前に半透明のウィンドウが浮かび上がった。


__________________

名前:リリ

LV:999 (MAX)

HP: 99999/99999

MP: 99999/99999

スキル:生活魔法(神級)、剣術(神級)、魔法全般(神級)、身体強化(神級)、魔物調教(神級)、鍛冶(神級)、錬金術(神級)……etc

__________________


 そう、これだ。いわゆる『ステータス』というやつ。

 いつから見れるようになったのかは忘れたけど、気づいた時には全部の項目がカンストしていた。レベルなんて、もはや上がる気配すらない。


「……レベル、カンストしちゃったんだよなぁ」


 暇な原因は、間違いなくこれだ。

 何をやってもすぐに終わってしまう。薪割りしようと思えば、斧を一振りしただけで裏山が更地になって10年分の薪が確保できるし、水を汲もうとすれば、生活魔法の『ウォーター』で巨大な湖が一つ出来上がってしまう。


 さすがに、これはやりすぎだ。

 スローライフとは、もっとこう、手間にこそ喜びを見出すものじゃなかったっけ?


「……そうだ」


 ティーカップをソーサーに置く。カチャリ、と小さな音が静かな部屋に響いた。


「冒険に出よう」


 ぽつりと、そんな言葉が口からこぼれた。


 そうだ、冒険だ!

 貴族の令嬢だった頃、物語で読んだ冒険譚。未知なるダンジョン、伝説の魔物、仲間との絆。考えただけでワクワクしてくるじゃない。


 15年間、この森から一歩も出ていない。外の世界がどうなっているのか、まったく知らない。私が家出したクライフォルト家はどうなっただろう? まあ、どうでもいいか。


「よし、決めた! 私、冒険者になる!」


 そうと決まれば善は急げだ。ベッドから飛び起きると、早速準備に取り掛かる。


「アーマーさん、紙とペンをお願い!」


「かしこまりました」


 すぐにアーマーさんが持ってきてくれた羊皮紙に、羽ペンを走らせる。


「まずは情報収集よね。今の王都はどんな感じなのかしら。流行りのファッションとか、美味しいレストランとか!」


「リリ様、目的が観光になっておりますが」


「いいのいいの! 冒険も観光も楽しんだもの勝ちよ! それから、冒険者になるにはギルドに登録が必要よね? 登録料はいくらくらいかしら……というか、私、一文無しじゃない?」


 森での生活は物々交換ならぬ、自給自足。お金なんてここ15年、見たこともない。


「うーん、金策から始めないと……。森の薬草でも売ればお金になるかしら。このへんに生えてる『光る苔』とか、高く売れないかな? 暗いところで本が読めて便利なんだけど」


「リリ様、それは伝説の『月光苔』です。万病を癒し、死者すら蘇らせると言われる国宝級のアイテムかと」


「え、そうなの? だってそこら中に生えてるわよ?」


「この森の異常性に、リリ様はそろそろお気づきになるべきです」


 冷静なアーマーさんのツッコミを右から左へ受け流し、私はリストアップを続ける。

 服も必要だ。今着ているのは、魔物の皮で適当に作った貫頭衣みたいな服だし。街に行くなら、ちゃんとした服じゃないと。

 昔着ていたドレスは……さすがにもう入らないか。


「武器と防具も新調しないとね! 今使ってる斧、薪割りには便利だけど、ちょっと重いし」


 私が愛用している薪割り斧は、森に落ちていた謎の鉱石『オリハルコン』を、ドラゴンの炎を借りて鍛えた一品だ。

 切れ味は抜群だけど、いかんせん重すぎる。おかげで私の腕力はとんでもないことになった。


「よし、なんだか楽しくなってきたわ!」


 リストはどんどん長くなっていく。やるべきことがたくさんある。

 暇を持て余していた日々に、光が差したみたいだ。


「まずは手始めに、近所の街まで行ってみましょう! 街で情報収集と、お金稼ぎね!」


 私が高らかに宣言した、その時だった。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!


 突如、家全体が、いや、森そのものが激しく揺れた。ティーカップが音を立てて倒れ、アーマーさんが慌てて受け止める。


「な、何事ですか!?」


「地震? いや、この揺れ方は……」


 私は窓の外に目を向けた。森の木々が、まるで強風に煽られたかのようにざわめいている。鳥たちが一斉に飛び立っていくのが見えた。


グオオオオオオオオォォォォッ!!


 地鳴りのような咆哮が、森中に響き渡る。

あー……この声、聞き覚えがある。確か、3年に一度くらいのペースで山から下りてきては、私の畑を荒らそうとする巨大な魔物……なんだっけ。


「オーク……キング、だったかしら」


「森の西側です! あれは厄介ですよ!」


 アーマーさんが慌てたように言う。

 確かに厄介だ。あいつが暴れると、地面がめちゃくちゃに掘り返されて、希少な薬草がダメになってしまう。

 それに、なにより、うるさい。


「はぁ……」


 私は、出来上がったばかりの『冒険の準備リスト』をテーブルに置いた。

 せっかくやる気になったっていうのに。水を差された気分だ。


「仕方ないわね……」


 壁に立てかけてあった、愛用の薪割り斧を肩に担ぐ。ズシリとした重みが、妙にしっくりくる。


「ちょっと、ご近所トラブルを解決してくるわ」


「リリ様、お気をつけて!」


「大丈夫よ。朝飯前の運動だもの」


 まずはアレを片付けないと、準備なんて始められっこない。

 まったく、冒険の門出は、どうやら前途多難なようだ。


「今日の夕飯は、オークキングの生姜焼きにでもしましょうか」


 そんなことを呟きながら、私は面倒くさそうに玄関のドアを開けたのだった。

ようやく異世界ファンタジー描けました!!

時間がなかったので、最近はラブコメや現ファンに集中していたのですが、ようやくです。


今作も完結保証いたします。


皆様の応援がすごく力になります。

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