お前を愛することはないと結婚式の日に言われるのよ〜いきなり目の前に知らない女性〜
「お前を愛することはないと結婚式の日に言われるのよ。ふふ」
そのセリフは確かに舞台などで良く多用されている、擦り切れて味もしなくなるほど、私も知っている。
今、謎の女にそんなことを吐かれているクリスティーネはどういう顔をすればいいのか分からなかった。
自分が春先で結婚することは周知の事実。
なんせ、招待状を懇意にしている人達に送っているし、男爵と子爵。
ちょっと釣り合わない婚約は微かに話題に上った。
相手はとても気のいい男なのだが、少し気が弱く、意思を全く押し出さない人。
流されるタイプの典型といっても過言じゃない。
そんな結婚前の不安など微塵も感じさせない空気を意図的に切り裂く相手は子爵家を名乗る女だった。
会った時から何故か悪意と敵意を持っていて、対応に困っていた。
どこかで待ち伏せをしていたのだろう。
人気のお店に行こうと歩いていたのだが、前に立ち塞がると突然、冒頭のセリフを被せてきたわけだ。
突然なんですか、と声を掛けるべきか。
それとも警邏に教えるべきか。
この不審者としか思えない女を。
「私がそんな目に会うのなら、彼とは縁を切ります」
「エッ」
相手の令嬢が目を点にしている間に買い物を済ませて馬車に乗って、自宅へ。
そして、親に街中で起こったことを報告して、調査。
その結果、推定婚約者の愛人の言葉は当たっている可能性が高いことが判明。
まるで舞台シナリオのようだと言えば二番煎じだ。
端的に言えば確かに浮気をしていた婚約者と街で待ち伏せしていたご令嬢は付き合っているようで、不貞を働いていた。
その内容を令嬢の婚約者に送り、私も己の婚約者に手紙や親同士の話し合いを経て、結婚もなかったことになった。
愛することは出来そうにありませんと手紙に書いておいた。
返しの手紙には「わたしは愛せる」と長い文章の中で語っていたようだが、どうでも良い。
不貞の女の方と言えば、婚約者に不貞を突きつけられて契約を見直され、婚約続行とされたらしい。
だが、不実な行いに婚約者は相手の令嬢を汚れたものを見る目で「君を愛することは今後ないと思ってくれ」と宣言されたと、又聞きした。
令嬢は気を失ったらしい。
どうして倒れるほど衝撃を受けたくせに、こちらにはなんの罪悪感もなく告げられたのか、感性が不透明だわ。
相手に送った報告書にわたしに対する謂れなき暴言も添付しておいたからこそ、出てきた台詞なのだろう。
クリスティーネは、元婚約者に愛することが出来ると文面で言われているという、大きな違いを思い出す。
あら?
ということは、愛することはないと言われたのは私じゃなかったようね?