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「……は、ひゅ」
その細い首筋から、声になる前に死んだ空気が漏れる。
見目麗しい彼の断末魔はあまりにも滑稽で間抜けだった。
悪夢そのものの光景を、僕はなすすべもなく眺めていた。
その身体がゆっくりと膝から崩れ落ちていく。
お前がこれまで何回も見ていた光景だろ?
だったら、こうなる可能性を考えなかったわけじゃない。
一人の誰かの命を繋ぐために他の誰かの命を見殺しにしてきた。
他の誰かは良くて、自分の親しい人間になったら途端に手のひらを返すのか?
全部、行きずりの殺人鬼など信用したお前が悪いんじゃないか。
それに彼女自身、ちゃんと言っていただろう。
いつか、お前は絶対に自分の選択を後悔することになる、と。
自分の内側に潜む悪魔が滔々と囁く。
崩れ落ちた彼の背後から、見知った顔の少女が現れる。
「……エイリ。君は」
彼を刺した自らの手を信じられないという目つきで見つめながら、彼女は「いや、違う、私は」と壊れ
たラジオのように途切れ途切れ呟いた。
ただ一匹、その場にいた野良猫だけが場違いにも「にゃあ」と可愛らしい声で鳴き声を立てた。




