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vi
当然ながら、アパートの自室に鍵はかかっていない。
エイリを招き入れて、扉を閉めようと背中を向けた。
「ナガシマさんが帰ってきているだろうから、物音を立てないようにな」
そう言いながら鍵をかけると、ふと肩に重圧を感じた。
危険を感じて、反射的に身をよじってみたが無駄だった。
エイリが僕の身体に押しかかってきている。
騙されたと一瞬で悟った。
しかし、その手に凶器は握られていなかった。
痛覚の代わりに甘美な匂いが神経を充満した。
信じられないが、エイリの唇が僕の唇に押し付けられていた。
彼女の短い毛髪が頬を撫でてくすぐったい。
吐息が感触として伝わり、舌を絡めとられる。
僕は正常な理性を手繰り寄せて、ようやく彼女を両手で突き飛ばした。
彼女の貧弱な身体は簡単に床に倒れた。
急いで僕が寄ってみると、彼女は両目を閉じてすうすうと寝息を立てて眠っているようだった。
まるで、あの時の再現のようだ。
「何なんだよ」
寂寥とした部屋に、僕の独り言のような質問が吸い込まれて消える。
突然、どういうつもりで彼女はキスなんてしただろうか?
彼女は僕のことを嫌っていたはずじゃないのか?
問い質すことはもうできなかった。




