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ぼやかと思いきや……新情報です!

「なぜ、偽医者だと?」


 珍しく、ライカが目を丸くした。こんな表情もできるのか、とレオまで目が丸くなってしまう。


「もっともらしいことを言っていましたし、私達でもできる応急手当くらいなら可能みたいですけど。あの部屋、消毒液の匂い一つしませんでした。爪も伸び、間にゴミがあって不衛生でした」


「なるほど。確かに、棚には埃が積もっていたな」


(棚を見ていたのは、そういう理由か)


 ライカの奇行にも、納得ができた。レオに話を任せている間に、他の場所も確認し、偽医者の証拠を探していたに違いない。


「ライカさんだって、端から疑っていたんじゃないですか」


「まあ。殿下の命もあるしな」


 ライカは、ため息を吐いた。


「偶然訪れた医者が、たまたま持っていた薬草を使って疫病を鎮める。できすぎた話だ。殿下でなくても、疑う者は出てくるだろう」


「確かに、そうでしょうね。でも、証拠がありません」


「正確には、消された、だがな」


 ライカの言葉に、レオは眉を寄せた。


「すべて故意だった、と?」


「ああ。まず、遺体だな。もっともらしい理由をつけて焼いているが、後から死因を特定するのが難しいとも言える」


 レオはあごに手を当て、宙を見ながら聞いたことを思い出す。


「たしか、呼吸困難に陥ると、死亡確率が上がるんでしたっけ?」


「そうだ。だが、呼吸困難は、本当に疫病が理由なのか?」


 そう問われても、レオは現場を見たわけではないため困ってしまう。


「ええと、少なくとも、私にはわかりません」


「そうだな。あと、薬草のこともある。いくら金を出され、レオが質問攻めにしていたとしても、俺を自由にさせておくくらいだ。あの部屋の中には、本当に薬草が無いんだろう。これでは、薬草の種類がわからない」


「聞いたところで、素直に教えてくれるはずもないですしね」


 レオは、ううん、と唸った。


「本当に薬草を使って疫病を治したのなら、証拠を隠滅する理由が無いですよね。偽医者の可能性が高い彼のものでは、まともな薬草だったとも思えませんが。ただ、一方で、呼吸困難で人が亡くなっているのも事実です。その理由を知るには、やっぱりご遺体を調べてみるしか」


 言いながら、徐々にレオの胃の辺りが重くなっていく。


「骨を掘り起こしてみますか? 気は進みませんけど」


「やってみないよりは、良いかもな。骨だけで、どこまでわかるかは不明だし、反感を買うかもしれんが」


「覚悟の上です。私は、殿下のために動くのみですから」


 レオは、両手でこぶしを握った。


「それは、忠義の人の言に聞こえるが。真のところは、どうだかな」


 ライカの言葉に、レオの眉が吊り上がる。


「それは、どういう意味でしょうか?」


「忠義の人のつもりになっているだけだ、と言えば良いか?」


「失礼すぎやしませんか? つもりって、なんですか? 私は」


 尚も言い募ろうとするレオを、ライカは片手を上げて制した。次いで、あさっての方向を指差す。


「あの煙は、何だ?」


 レオはライカを気にしつつも、彼が指差す先を見た。確かに、森の向こうに一筋の煙が上がっている。


「ぼやでしょうか?」


「山火事になると、厄介だな。念のため、見に行くぞ」


 場所が場所なだけに、今は細い煙でも、大火にならないとは限らない。火事となれば、得意魔法が水や氷であるレオの出番だ。ライカと揉めている場合ではない。


「わかりました」


 急ぎではあるが、杖で飛ぶことはしない。レオが魔術師だと知っているのは、今のところ村長だけだ。他に魔術師がいない集落では、空を飛んだだけで大騒ぎになってしまう。そうなると、村人達の心は再び閉じてしまいかねない。


 二人は煙の方向を確認しながら、森の中を走る。木々が邪魔をして見えにくいが、なんとか見失うことなく森を抜けることができた。


 森を抜けると、牧草地が広がっていた。その中に、家が一軒と小屋が建っている。小屋は、家畜用だろう。モウモウともメウメウともつかない鳴き声が、中から聞こえている。その時々で手に入る資材で補修しているのか、家の屋根や壁は継ぎ接ぎが目立つ。集落の家々と比べると、みすぼらしく見えた。


 しかし、家の前には井戸がある。集落の井戸は中央に一つだけだったから、こちらの方が贅沢(ぜいたく)とも言えた。


 家畜の世話をしていた青年が、レオ達に気付いて近付いてくる。砂埃が付いたままの服を着た、純朴そうな青年だ。他の村人のように警戒する様子も無ければ、近くで煙が立ち上っているにも関わらず慌てた様子も無い。


「何か、ご用ですか?」


「森の向こうから煙が見えたので。もし山火事になってしまったら大変なことになると思って、様子を見に来たんですけど」


 レオの言葉に、青年は笑った。


「ああ。それは、ご足労をお掛けしてしまいました。家の裏で、刈った草を燃やしていたんです」


 確かに煙は、家の裏から立ち上っている。


「燃え広がらないように時々見に行っていますから、ご心配なく」


「そうですか。火事でないのなら、良かったです」


 まったくの無駄足ではあったが、レオはほほ笑んだ。本当に山火事になり燃え広がってしまえば、損失は大きなものとなるだろう。森林を元に戻すには、長い年月が必要だ。リゼの悩みの種が、また増えてしまう。


 「それにしても」と言いながら、レオは牧草地を見渡した。上空から牧草地があることは把握していたが、予想よりも広い。草は寒さにも負けることなく、青々としている。


「森の奥に、このような牧草地があるだなんて驚きました。管理は、すべてあなたがされているのですか?」


「いえ。元々は親父と弟と、三人でやっていたんです。でも、親父は疫病で」


 青年の笑顔が、曇った。


「そうでしたか。それは、さぞお辛いことでしょうね」


「ええ、まあ。急なことでしたから」


 うつむいた青年に、レオは掛ける言葉が見つからない。だからと言って、すぐに立ち去ることもできない。


 どうしようかと考えかけたところで、青年は再びレオを見た。


「あの。あなた達は、どこからいらしたんですか? あの医者の仲間ですか? それとも、医師団の関係者でしょうか?」


 早口でまくし立てる青年に、レオは目を丸くした。


「い、いえ。お医者様とは今日、初めてお会いしました。医師団団長のスイさんとは知り合いですけど、医師団に所属しているわけではありません。私達は、さるお方からの命を受けて、この集落に派遣されてきたのです」


「ということは、あの医者の仲間ではないんですね?」


 念を押され、レオは何度も首を縦に振った。


 青年は、ほっと息を吐いた後、意を決したように両手を握りしめた。


「あなた方は、あれを本当に疫病だったとお思いでしょうか?」


 レオは、まじまじと青年の顔を見た。


「それは、どういうことですか?」


「親父は、喉を掻きむしるほど苦しみ、全身を痙攣(けいれん)させて、泡を吹いて死にました。家畜でではありますが、それに似た症状を、見たことがあります。あれは、毒の類ではないのでしょうか?」


「毒?」


 あまりのことに聞き返すと、青年は大きくうなずいた。


「だいぶ前に、家畜が誤って毒になる草を食べてしまったんです。その時も、苦しみ、体を痙攣させて、死んでしまったんです」


 当時のことを思い出したのか、青年の目に涙が浮かぶ。


「私達兄弟は、あの医者が毒を撒き、偶然を装って集落に現れたに違いないと思っています。でなければ、集落に現れ、ろくに症状も診ないうちから薬草を使って治すだなんて。そんなこと、できるはずがありません」


「ちょっと待ってください。ろくに症状も診なかったんですか?」


 聞き捨てならない言葉だ。レオが確認すると、青年ははっきりと「はい」と答えた。


「疫病で人が死にだすと、村長の家にたくさんの村人が押し寄せました。村長が困り果てていた時、あの医者が現れたというんです」


 新しい情報に、レオもライカも黙って耳を傾ける。


「医者は村長の話を聞いただけで『これを使えば、たちまち良くなる』と、薬草を鞄から出したそうです。村長の家に押し掛けた人々の中には弟もいて、見ていたんです。あいつが、毒を撒いたんです。信じてください」


「俺達も、医者のことは端から疑っている」


 言い募る青年に、ライカが溜息混じりに告げた。青年の表情が、喜びで明るいものとなった。


「本当ですか?」


「ああ。だが、証拠が無い。証言だけでは少ない」


 付け加えられた言葉に、青年の顔は一気に喜びの色を失ってしまう。レオも、眉尻を下げた。


「さっき、医者に会ったと言いましたよね? 彼は、薬草は手元に残っていないと言いました。実際にライカさんが室内を見て回りましたが、それらしきものはありませんでした。死体も燃やされていますし」


「燃やしてなんかいませんっ」

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