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王太子殿下の魔術師 ―氷と炎は相容れないと思います―  作者: 朝羽岬
第五章 宗祖の呪いと浄化の香
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あちこちで暴動が起き始めているようです。

 二人の杖は、あっという間に森を抜け、ライスウォークに至る。ちょうど城から、騎士団第二部隊を引き連れたサイと、彼の対であるクローネが出てくるところだった。


「兄上っ」


 レオが杖の高度を下げながら呼ぶと、サイが彼女を見上げた。


「戻ったか。無事に、香は貰えたようだな」


「はい。そちらも、会議が終わったのですね」


「ああ。王太子殿下は既に、第三舞台を率いてリベルグに向かわれた。俺達は今から、北へと向かう」


「北へ?」


 「ええ」と応じたのは、クローネだ。剣士である彼女は、魔術師であるレオやサイとは違い、金属製の鎧をまとっている。


「イートミール村にて、暴れ回っている者が複数人いるとの報告が入りました。彼等はすべて、疫病にかかった際に、件の医師の薬草を服用していたとのことです」


「村に行った時は、幻覚症状は現れていませんでしたけど。体内に残っていた、ということでしょうか?」


 首をかしげるレオに、クローネは神妙な面持ちで「おそらくは」と応じた。


「実験などではなく、はじめから狙った状態であったのかもしれません。他の地域でも、既に暴動が起こり始めています」


「父上は、マルエルへと向かわれた。シオリルクには、陛下自ら出陣されている。東にも不穏な動きありとして、エスト率いる第五部隊が様子を見に行っているんだ」


 レオは、ごくりと生唾を飲み込んだ。国のそこら中で、暴動が起こっている。脳裏に、シオリルクの信者達の言葉が蘇った。


――ミハル様は、親父を助けてくれた。それに比べて国は、何を助けてくれたっていうんだっ。


――そうよ。国は、搾取するだけじゃないのっ。


――俺達を見捨てておいて、今度はミハル様まで奪おうっていうのかっ。


 彼等は、国を憎んでいた。宗祖も同じか、それ以上に憎んでいるのだろうか。


(でも、宗祖のやり方は、信者以外の人達を傷つける)


 イートミール村では、死ななくて良い人達が疫病と称して毒殺されている。マルエルでは、本来ネズミに悩まされることなど無かったのだ。


(これ以上の暴動は、絶対に止めないと)


「兄上。こちらをお渡ししておきます」


 レオは一旦杖を降りると、香炉と香の一部をサイに手渡した。


「ありがとう。レオ達は、ひとまずリベルグに向かってくれ。今のところ、あそこが一番暴れている人間の数が多いらしい。殿下も、手を焼いておられるだろう」


「わかりました」


「では、俺達は先に行く。二人とも、健闘を祈る」


「はい。兄上達も、お気をつけて」


 サイとクローネは片手を上げると、第二部隊と共に城を後にした。剣士と弓兵を主に編成した部隊は、全員が馬に乗っている。彼等が走ると、砂ぼこりが舞った。


「リベルグに向かう前に、父上達にも香を送る必要がありますね」


「ああ。ここまで大事になるとはな」


 レオは、氷の蝶を三匹作りだす。ライカが持っていた香炉と香をそれぞれの蝶の足に括り付けると、空へと放した。蝶は、マルエル、シオリルク、エストの方へ、それぞれに別れて飛んでいく。


「レオ。魔力は大丈夫か?」


(心配して、くれるんだ)


 レオは目を丸くした後、満面の笑みをライカに返した。


「はい。これくらいなら、問題ありません」


「そうか。では、行くぞ」


 先に、ライカが空へと飛び立つ。ローブの裾から覗く青銀色のしっぽの毛が揺れて、かわいい。しかし、小さくても、猫の姿でも、なぜか彼の背中が格好良く見えた。


「変わったな、ライカさん」


 レオは杖にまたがると、宙に浮いた。


 リゼから紹介された当初は、レオの心配をしてくれるようになるとは思わなかった。それでも、最初の任務ではかばってくれたから、本質的には変わっていないのかもしれない。


(うーん。でも、あの助け方は無いと思う)


 首根っこを引っ張られたことを思い出して、レオは喉を擦った。振り向いたライカが、紫色の目を瞬かせる。


「どうした? 喉でも痛めたか?」


「いえ、大丈夫です。急ぎましょう」


 レオがライカに追いつくと、二人は杖の速度を上げた。いくつかの街や村、川に街道を飛び越えて、リベルグを目指す。


(リベルグの壁が、見えてきた)


 リベルグの南側には、巨大な長城が築かれている。地上からだと壁にも見えるため、『リベルグの壁』と人々は呼んでいた。遥か昔に幾度となく南国から攻められたことがあり、築かれたものだ。


 リベルグへと続く街道には、街を目指す一団がいた。騎士団と医師団だ。医師団の中にスイを見つけて、レオは杖の高度を下げる。


「スイさーん」


 馬に乗ったスイは列から外れると、歩を止めて顔を上げた。


「お疲れ様です。その荷物は、香と香炉でしょうか?」


 レオ達が浄化の香を取りに行っていたことは、既に医師団にも知らされていたようだ。もしかしたら彼女も、緊急会議に参加していたのかもしれない。


「はい。これで、呪いを解除することができるはずです。既に、イートミール村、マルエル、シオリルクに加え、エストさんが向かった東にも送りました」


 レオの報告に、スイは目を丸くする。


「城を離れていたにも関わらず、あちこちで暴動が起こっていることをご存知でしたか」


「はい。一旦城に戻った時に、兄上と会い、教えていただきました」


「そうですか。では、レオさん達がこちらにいらしたのも、サイ殿のご指示で?」


「はい。暴れている人間が一番多いのが、リベルグだと」


「では、先にリベルグに入ってください。既に王太子殿下の部隊が、入っているはずです」


 スイの言葉に、レオは目を丸くした。


「わかりました。先に行きます」


 レオは再び高度を上げると、速度を上げてライカに並んだ。


「殿下は、もうリベルグに入っているそうですよ。たまに表に出ると、無茶するんですからっ」


「いつもは俺達に任せきりだからな。不甲斐なく思われているんだろう」


「そうは言っても、一国の王太子なのにっ。何かあったら、どうするんですかっ」


 レオが息巻くと、ライカは目を見開いた。


「驚いた。まともなことを言うんだな」


「失礼すぎやしませんか?」


「いや。レオも先走りがちなところがあるからな。似た者同士、賛同するかと思ったが」


「もう、いいです。先に行きますっ」


 レオは頬を膨らませて、杖を更に加速させた。

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