EP96 敵か味方か 亜細亜周国 レイジーは更なる騒動へ
______バニラ・アイスとRenoが全速力で到着した早々、アデリアとレイランに密着介抱中のレイジーを問い詰めようとしたのだが、そのご主様はヒヨコを飛ばしている真最中だった。
「レイジー、しっかりするんだ。あたしが分かるか?」
「ふん! なまぬるい! こうなればレイラン直々の熱いタコの吸盤キッスで」
「ドアホウ! それは妻のアタシの役目だ! すっこんでいろレイラン!」
「何を言う、私のキッスは死人さへも立ち上がるんだ」
「貴様のは闇エロ魔法だろうが! 死人のPだけ起こしてどうするんだこのタコ女!」
piyo
piyo
「むむ、これじゃ怒っても無駄かバニラ」
「Reno、父ちゃんが起きてから、体育館の裏でじっくりお話しましょ」
「無自覚な御主人様だ。果たしてそれで効果があるのやら」
視線を移せば、桔梗が任務を遂行中で、それは我が主の命を忠実にこなしている姿だった。
「「桔梗ばっかりいいかっこして! ほんとに悔しい!」」
桔梗のAi-myu69による亜細亜周国語は完璧だ。もちろんバニラ・アイスとRenoも通訳が出来る。しかし主様が桔梗に命令したのだから、ここはぐっと我慢するしかないのだ。
「チャイナドレスのせいよね。なんともセンスの無い事」
「バニーガールの良さが分からないなんて!」
「でもさバニラ・アイスって殆ど裸なのよね。ま、いいかぁアンドロイドだし」
「ワテの心は恋する乙女だす!」
「Renoだって!」
「ま、お互いアンドロイドだけどね」
チャイナドレスと母国語から来る安心感からだろう。訊き取りは案外順調で、まず八人の名前は次の通りだった。
隊長 陳 偉
副隊長 張 明
兵士 呉 建国
趙 星
王 志明
李 飛
黄 軍
通信 楊 華 紅一点
隊長の陳が言う通り、八人は戦闘が出来ない程に負傷していた。
「我々は抵抗しない。だから命だけは助けて貰いたい」
「あぁその前に」
桔梗が軽く生体スキャンをした結果、骨折や内臓を損傷している者ばかりだ。
「ここは儀を見てせざるは.....武士道精神の出番だな」
そこで桔梗が口を開いた。
「かなり重症だ。今は早急に八人の怪我の治療をした方がいい。彼等に敵意は無い。後は将軍達の判断に委ねたいが、どうする?」
チラリと桔梗が、目覚めたばかりの私を見たのは、私に同意を求めたか違う判断を仰いだからだろう。
そこはレイジー通信でも良かったのだけれど、これは桔梗なりの私への愛と忠誠のアピールだ。
事態をすぐ把握した私は、人命を優先して進言した。
「バーモン・カットラー将軍、私も桔梗と同意見です。取り合えずテントを張って、治療を優先するのはどうでしょう」
「それはそうだな」
私はレイジー印の薬屋なのだが、今回の遠征では持ち合わせていなかったのだ。
『せめて抗生物質は必要だったか』
私が彼等を庇っているように感じたのか、八人の表情は少し安堵したように見えた。
しかし私は、彼等がAi-myuを追って来たターゲット本人だとは知る筈も無い。
ふ~む
私のやり取りを見ていたアデリアが、確かめるように私を問い詰めた。
「レイジー、こいつ等がお前が助けた貴族の娘達を追って来たのだろう? このままでいいのか?」
おっと!
「何が夫なんだ? 今更だろレイジー。あたし達は夫婦だと自覚してないのか!」
カンバッチ型翻訳装置が、まだ亜細亜周国用に調整していなかったのが良かった。バレたとしても、今の彼等にはどうする事も出来ないのだが。
______「糞!」
呪詛を吐いたのは、異空間から様子を伺っていた観察者βの計画が狂ったからだろう。
=ハメリア合衆国は既にレイジー側。亜細亜周国をルルシアと組ませて事を運ぼうとしたが......この役立たず共が=
観察者βは、新たな選択を模索するしかなくなったのである______
その頃、エスタリカ王国で戦闘準備をしていた者達は。
ルルシア帝国の活動拠点は、森の中のシャトルや王国から離れた田舎の廃墟にある。
ズウゥン
ドシャァァァ
!
たまたまシャトルに戻ろうとしたセルゲイが、大きな衝撃音と地響きを感じた。
「あの方向は、我々のシャトルのある方向! 発見されたら拙いぞ」
早速確認の為、セルゲイがシャトルを隠してある森に入ると、最初に潰そうとしていたバーモン・カットラー将軍の部隊章を付けた兵士達を目撃、これを尾行すると目を疑う光景に出くわした。
その物体は損傷しており、エンジンから煙を吐き続けていた。
『地球のシャトルが何故こんな所に? 転がっている八人は......亜細亜周国の隊服に酷似しているが? これはいったいどういう事だ?』
ルルシア帝国隊員が持っている翻訳装置はタブレット型で、レイジーが作った翻訳機の劣化版である。
「むぅ、ここでは遠すぎて会話が訊き取れない。まずアレクサイ・ケツノアナコフ隊長に無線連絡を」
ビビ
ザァァ
無線出力が1W程度でも、何も障害物のない異世界ではよく飛んだ。
無線の周波数が違えど、電波の発信はすぐさまハメリア合衆国にも、聖母マリア様村で留守番中のKanna、Nikoも気づいたが、当然としてバニラ・アイスや桔梗とRenoも気づいていた。
「オルガ・スミス隊長、何者かが無線を使用しています!」
「この異世界でか? オートサーチ、ポッター、直ちに受信しろ」
はッ
しかし、セルゲイとウラワジミーナ副長との無線通信は、オートサーチに手間取り傍受する事は出来なかった。
______しかしそこは高性能なバニラ・アイスなら問題はない。
「とうちゃん、ルルシア帝国が亜細亜周国のシャトルを発見、遭遇したと言っていた」
「なんて事だ! 亜細亜周国までが......これは面倒な事になったぞ」
「セルゲイがルルシア帝国のシャトルに戻るって。それで通信終了したよ」
『今は、亜細亜周国の八人の処遇が優先するが、ルルシア帝国がすぐに攻めて来る事はないだろう』
体を動かす事が出来ない八人は野営テントに寝かせて、すぐに女性ヒーラー<ミランダ>が呼ばれた。
彼女はバーモン将軍のヒーラーで、これまた目を奪われる程の美女だ。
「ミランダ、取り合えず回復魔法を」
はい、直ちに。将軍。
「マス・ヒール」
ミランダのランクはB級らしい。それでも完治手前くらいまでは回復する事が出来た。
「あたいが出来るのは、ここまで」
「あぁ、完治させるよりはいい。上出来だミランダ」
はっ。有難きお言葉。
『でも......あの白衣の青年様......素敵です。ぽっ』
「なんと素晴らしい!」
それを見ていた私は、魔法を科学で究明出来ないかと、ミランダのヒールを凝視していると、なにか悍ましいオーラが背後から漂って来た。
ゴゴゴゴ
ズズズズ
「おいレイジー。アタシと言う超絶美女の妻(偽装)を前にして、よくそんな態度がとれるな! なにがミランダだ! あんな女のどこがいいんだ?!」
え? 私はただ魔法を......。
「いい訳無用! アデリアの戯言は無視してよいが、このレイランを無下に扱うとは、大した度胸よのうレイジー」
ほっ? レイラン将軍まで?
身に覚えの無いウエット・クロス(濡れ衣)に、私は状況が理解出来なかった。
しかし、回復した陳 偉隊長により、この修羅場を脱したかに思われた。
「こ、これはどうした事だ! その女性がやったのか? ならその女性は神、仏なのか?」
魔法を初めて見た彼等なら、当然の反応と言えるだろう。
だが、紅一点の通信隊員、華だけは最初からレイジーを見つめ続けていたのだ。
好!我 愛.....
ポッ
「お館様!」
「下衆様!」
「とうちゃん!」
「おのれレイジー、貴様と言う奴は! アタシの新婚MDを腹一杯食べさせてやろうか!」
「ならばこの私レイランは、強力洗脳チャームで虜にしてやろう!」
ザン
「貴様等何をしている! やめろ!」
到着した第一軍団将軍メビウス・フォン・ブラッケンの一喝で、その場は急速に収まってしまった。
『流石は第一軍団将軍メビウス・フォン・ブラッケン!』
私は心の中で、男の器というものを感じたのだ。
『女が惚れる男とは、正にメビウス・フォン・ブラッケン将軍の事だろう。私なんて将軍の足元にも及ばないぞ!」
と
私はそう思ったのだが、将軍は案外モテていなかった。惚れるのはもっぱら兵士の男ばかりだったのである。
早い話が、ここにいる女性全てがレイジーに惚れているのだ。アンドロイドだろうと人間であろうと。
一番厄介な事は、レイジー本人がその事実に全く気づいていない点である。
第一軍団将軍メビウス・フォン・ブラッケンは、少し安堵していた。
『ふ、レイランにもやっと春が来たか......レイラン俺はな.....』
漢の哀愁を漂よせながら、何故か将軍は溜息をついた。
______さてkanna、niko、farz達に起動を命じた残りの<保毛坂48>44体は、今はどうしているのだろう。
なんだか、そちらも胸騒ぎを感じるレイジーだった。




