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EP8 2054年1月14日 異世界初討伐? 探すの!レイジー博士と私の婚姻届けはどこへ? ☆


______それは私とジョーが、まだ気を失っている時に起きていた。  


 ザ ズ ザ ズ

引き摺るような不揃いな音を出すそれは、レティキュラム号が森の中奥深くに着陸した事が発端となっていた。


 バサバサ

野鳥だけが危険をいち早く感じて、一目散に羽ばたいて逃げていく。


 突然、正体不明の巨大な物体が森に出現したのに、音と気配は感じても、それが光学迷彩に阻まれて何者達にも、その姿を見る事が出来なかった。


その何者達も未知の巨大な存在に野鳥同様、本能的に恐怖しパニック状態に陥入って、森を逃げ出したと言うのが真相であった。


 AI-myu96、AI-myu69を、それぞれ頭部に内蔵した守護者バニラ・アイスと桔梗は、将来の<正妻の座>を賭けたレイジー博士杯争奪戦に没頭、アンドロイドである事をすっかり忘れ、あろうことか<正妻の座>ゲットに100%の能力を向けていた。


 myuセンサーが、船外の異変に気づけなかったのは、そのせいだとしても、機械であるアンドロイドが何故と言う疑問が沸いてくる。


 これは超高性能なバニラ・アイスにしては、信じられない出来事であって、AI-myuシリーズにも欠点?がある事が証明されと言えよう。

この事は、後にレイジー博士にとって、興味深い解明すべき実りある戦いとなっていた。


 博士を想う愛の力が成せる技なのか、プログラム制御を越えてしまった事による特異な現象であって、どうしてAI-myuシリーズに限って、そんな現象が起きるのか......それは開発者のDr.立木陽介、妻のロイスでも予想していなかった事だろう。


 過去、偉大な発見や発明と言う物は、突然その姿を研究者の前に現して、未知を既知にしてくれた。


☆☆

 さて、この時唯一、船外の異常を察知していたのは、全く想定外のあの作業用アンドロイド48体のリーダー格だった。


______その48体のチーム名は<保毛坂48>。リーダー格の個体名には<Sashihara>の名が与えられていて、やはりAI-myuシリーズの初期ロットナンバー、<myu48>と謎のブラック・チップが搭載されている。


 但しAI-myu48もAIだけはコピーが出来ない。その為に両親の手で一つ一つ作られている為、48体に微妙な違いがあった。それが意味するものは......個性、性格として反映されている事を両親は知らないし、それはレイジー博士も同様である。


 桔梗と言い、Sashiharaと言い、日本名が使われているのは、レイジー博士の父親が日本人であるからだろう。

 バニラ・アイスだけは、レイジー博士が名付けた唯一のアンドロイドだ。

また父である立木陽介は、母ロイスとのコスプレプレイマニアだっただけではなく、武士道精神を尊く想う日本男児でもあった。


 さて、<保毛坂48>と桔梗に武士道精神プログラム<Akou47(アコウ・フォーティセブン)>をインストールしたのは、父のもう一つの趣味で、桔梗に可変バイブレーター<妖刀ムラムラ>を与えたのも、そうした理由からだ。


尤も、桔梗が武士もののふの出で立ちではなく、チャイナドレスを着用している理由は、父親が単にドスケベなだけであって、袴や道着では太腿とパンチーが見えないと言う、ジョーが言ったように何とも残念な理由からだ。


 そんな父親の趣味は別として、もともとレティキュラム号建造の為に、父Dr.立木陽介が設計し建造したアンドロイド達だったが、完成後の使い道として桔梗同様、息子レイジーの警護と、レティキュラム号の維持、管理、防衛、遊び相手を担う者達として存在させたのだった。


 しかし______その計画は、ライバル国の暗殺により叶う事がなかったのである。

無論、その為の特製コスチュームも48着用意されていたのだが、現在の姿は作業用ツナギ姿だ。


______リーダー格以外の46体はまだ起動していない。しかしそのリーダー格、Sashihara一体だけが、レティキュラム号の中枢コンピューターと連動してAIが半起動し、今まで船体周囲を警戒していたのである。


 Sashiharaは思った。

「先に桔梗が起動した......けど......今はマスターの警護を任せるとしても、警報で情報だけは知らせておくべきね。私達はまだ起動出来るまでプラズマ核エネルギー充填の時間が必要だから」


 <ポーン ポーン Attention してね♪ Attention してね♪>


 例の灰原哀の声で伝わった、警報の内容が分かった。

今活動可能な者は、バニラ・アイスと桔梗だけである。


「桔梗、船外に獣の集団が現れて、王城の町に向かっているよ。船内のご主人様に危険はないけど、桔梗はどうしたい?」

「あぁ、変態主様とかぶら足の生ゴミは、このまま寝かせておいて、外の事態は二人で確認すればいいだろう」


 「そうしよっか♪」


 バニラ・アイスが軽い返事で返し、桔梗と船外に出て見ると、小柄な人影の集団が、ギャ ギャと喚きながら手にした棍棒を振り回し、逃げるように町を目指していく所だった。 

 その数、ざっと50で、先導する一回り大きい個体が群れのボスだろうか。


       挿絵(By みてみん)


「糞ウサギ、訊くがアレは何だ?」

初めて見る異様な集団。目覚めたばかりの桔梗には、データが無く分からない。


 バニラ・アイスは、ご主人様の傍らで一年間、世話なのか何だか分からない程ベタベタくっ付いていたので、レイジー博士の趣味を理解して、アレの正体がラノベに出て来るモンスター、ゴブリンだと分かった。


「あれはね、ご主人様が良く読んでたラノベの雑魚モン。大した力も知能もないゴブリンだよ。だけどあれだけの数が、町に向かえば住人に犠牲者が出ると思うよ。住人達はアレにどう対処しているんだろうね」


 なんだって? それは本当か!

「義を見てせざるは勇なきなり!」

 桔梗は思わず叫んでいた。


 この言葉は今となっては失われているが、日本の武士道精神の根本であり、最も大切にされて来た日本人の心と言える。


 武士道を重んじる桔梗にとって、ここで知らんぷりは出来ないのだ。

「糞ウサギ、私は一人でも奴等を始末する。お前は好きにしろ」

 それを訊いたバニラ・アイスは直ちに、必勝演算シュミレーションを開始した。


『人助けをしたなら、きっとご主人様に褒められてポイントを稼げる! 焦らずに小さな事からコツコツとアプローチをするのが、ご主人様攻略の正攻法だと思うのよね。なにせご主人様は超が付く、バニラ・アイスちゃんの愛に鈍感な癖に、変態スケベなんだから』


「うん、わかったよ桔梗。私もまだ暴れ足りないから参戦するぅ」

バニラがそう宣言すると、二体はゴブリンの前に高い身体能力で跳躍。桔梗が<妖刀ムラムラ>を構えて立ち塞がった。

 ギャ ギャ?


 ふと見ると、バニラの姿が見えなくなった。

「フン、糞ウサギは臆病風に吹かれたか。まぁ私一人でも問題は無い。私は主様の最強守護者だ!」


「では参る! 卑猥なツルッパゲ共!」

 ゲゲ ゲゲ


 次の桔梗が繰り出す抜刀術は、複数の敵を相手に出来る、亀頭流48手抜刀術<参の型>。

<妖刀ムラムラ>を、鞘滑りを最大効果で利用した居合で一振りすれば、あたかも刀身が伸びたかのように群がる敵を切り刻むのだ。

 せい!

 ズバァァ

 ギャァァ


 抜き放った<妖刀ムラムラ>の刀身が、目の前のゴブリン2体と、間合いの外の3体のゴブリンまで届き、緑色をした血しぶきを上げ、地に沈めたのだ。

 ゴア?

突然配下のゴブリン5体が沈んだ事に、何事か理解出来ないボスが首を捻った。



 更に今度は、背後からゴォ~ン ガゴォ~ン ガ~ンと聞き覚えのある音が鳴っている。


桔梗が見ると、金ダライを振り回した糞ウサギが、次々とゴブリンの頭をド突いて跳び回っているのだ。それも楽しそうに軽やかに。


 正にウサギだな。

「おい、訊くがお前の武器は......もしかしてその金ダライなのか?」


「そう、これとってもいい音がするから、私の超お気に入りなんだよねぇ~。ええとさぁ、桔梗あんたはさぁ、いい加減私の事はバニラ・アイスと呼んでよね」

 まぁ、お前次第だがな、糞ウサギ。


 バニラ・アイスはゴブリンの頭をド突きながら、メロディを楽しんでいるような、絶妙な金ダライ使いだった。

 ガン ギン グン ゲン ゴォ~ン

「またまた5名様 冥途へ無料ご案内ぃ~♪」


どうやらバニラ・アイスの戦法は、自由な遊撃スタイル。

これはジョーに様々な排除方法を考えている内に編み出した、<金ダライド突き戦法>であった。


 このゴブリン戦で、桔梗は前衛、バニラは自由な遊撃と言うチームスタイルがほぼ確立していた。


 二体の見事な連携は、雑魚ゴブの数を減らし続けた。

 ゴア ゴア ゴア!

堪り兼ねたボスが撤退命令を出したのか、残ったゴブリン達は恐怖の森の中へと一目散に消えて行ったのだ。


「ほぉ、やるもんだな桔梗」

『むぅ、おのれ桔梗め! でもアイツ厄介そうだわ』


 実は、この状況を復活したレイジー博士とジョーが、モニターで見ていたのだが、もう一人冒険者のレンジャーも、不穏な気配を感じた森を偵察しに来ていたのだ。


「なんだ??あの妙な人間達は。あっと言う間にゴブリンの群れを減らしやがった。それに見た事もない武器を持ち、なんて奇妙な恰好をしていやがるんだ。怪し過ぎるぞ!これは冒険者組合に報告しておかないと拙いな」


 この男、冒険者組合<Heaven and Hell>に登録している冒険者チーム<Sekihin>のメンバーであった。


 その時、金ダライで作ったコブを摩りながら、レイジー博士とジョーが食い入るように見ていたモニター。しかしその目的は違っていた。


「ジョー、あの男だが......もしかして冒険者か?」

 そうみたい。

エージェントであるジョーには、男の物腰から戦闘の心得があると断言した。


『ボク、見れば分るよ。あの男は訓練された人間、もっと気になるのは男の左薬指に光るもの! この世界にもきっとアレが存在しているのよ』


「レイジー博士、私達(もちろん二人だけの為よ)この異世界をもっと調べる必要があるわね......アレを」

『婚姻届けはどこに出せばいいか。ボクにとって最重要調査項目になったのよさ』


「アレを調べる......ほぅ分かっているじゃないか、勿論そのつもりダジョー。目的が一緒で私は嬉しいよ」

レイジー博士は、初めてジョーと心が通じたと思った。


「レイジー博士、これを以心伝心と言うんだよね、ボク達二人だけにしか出来ない」

 う? そうかも知れない??


『ふふん、ここで土地と素敵な小さな家も買って......糞ウサギとチャイナドレスは、下女にして畑を耕させて扱き使ってやる』

 もんもん


 妄想に耽るジョーの背後に、ピンク色のオーラとドス黒いオーラが交互に現れては消えていった。



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