EP55 混沌(カオス)すぎるよ異世界は☆
◇仕掛けられた罠?◇
______「随分と楽しくやっているようだけど?」
いらぬお世話とばかりに、顔をしかめているのを見れば、自分の来訪が迷惑だと分かる。
「私にいちいち口を出すにはまだ早くない? 仕上げどころか、今はまだ仕込み中なんです」
......。
「そう言うな。暇なんだよ。なかなか進展していないようだからつい。邪魔したな、また来る」
その存在は、また闇に消えていった。
「あんな風に言われるのも仕方がないか。偽聖母で金儲けだなんて。まったくぬるま湯にどっぷりと。そんな暇があるなら刺激もそろそろ必要かな......ならサプライズを用意しましょうか」
______誰が敵で味方なのか、人かモンスター? はたまた悪魔なのか。レイジー博士の未来は混沌に包まれていた。
◇疑惑の聖母様◇
______「ふむ、下痢って事は、人がどこかに隠れていて、マジックみたいに台座に現れていて演技をしている......としたら、これは金儲けのネタか」
オルガ隊長の予想は半分正解だった。
私は一応あれこれと聞かれたけれど、言葉が分からないふりをして、知らぬ存ぜぬで何とか切り抜けた。
見た目16-17歳の美少女の親......28歳でどうして娘が三人もと言う疑惑を持たれたけれど、皆が懐いている為に奴隷でも人攫ではないとは思ってくれたようだ。
もう一人、Kannaも美少女なのにドラッグストアの事務員で、どうしてこの薬屋に美少女ばかりが集まるのかは、緑の5人に大いに疑惑と興味を持たれた。
ましてや、その後にまたアデリア組合長とルチアまでがやって来て、揃いも揃ってまた美女と美少女なのだ。
これでジョーの顔を見られたらと思うと、冷や汗が止まらない私だ。
緑の5人が来てから数時間。身に着けた腕時計が、午後3時を示した頃。
◇GODZILLA◇
ダン ドスン ダン
ナイトメア亭の北、エスタリカ王国に連なる細い街道がある森の奥からだろうか、腹に響く振動が突然、体を伝わって来た。
アギャァ~アァン
音の方角を見ると、森の奥から聞こえるのは間違いない。すると一条の青い閃光が空に向かって伸びた。
私達も緑の5人も、アデリアもルチアも、バイソンもモーリンさんもデリーシャも外へと飛び出した。
ダン ドスン ダン
______森が燃えていた。
<レイジー通信チャンネル>
=父ちゃん、突然センサーに反応したよ=
=主様、私達が感知出来なかった=
=高さ10mはある巨体です下衆様=
=兄貴ぃ ボク怖いよぉ~=
=ジョーはそのまま隠れていろ=
=そ、そんなぁ=
やがて雄叫びを上げて、それは正体を現した。
「げぇ、あれは!」
私が声を上げると同時にポッターが叫んだ。
「GODZILLA(ガッジィ~ラ)!」
英語圏ではゴジラの事をそう呼ぶのだ。
ゴジラは青い光線を吐いて、森を焼きながら進んで来たのだ。
アギャァ~アァン
「こっちに来るぞ!」
二度目の咆哮で、オルガ隊長が叫んだ。
「レーザーガン構え! 全員、太陽電池パネルだけは死守しろ!」
「「「ラジャ」」」
流石は軍隊、どんな時でも冷静で統率がとれている。
私も気が動転していたが、オルガ隊長の意図は分かった。
異世界で太陽光電池パネルは、ローバーとレーザーガンなど、これから生活する上では無くてはならない物だ。
既に参拝客は悲鳴を上げて逃げまどい、緑の5人はハンドレーザーガンを標的に向ける。
全体像が露見すると、身長は3階建てのビルおよそ10mで一見すると、その姿はティラノサウルスであった。
ゴジラは私を見つけると咆哮して、歩みを進めて来た。
ダン ドスン ダン
=主様、ここは桔梗が抜刀術で=
=あれをか? 今は駄目だ。誰も手を出すな=
=下衆様、このままでは! Renoも参戦します=
=駄目だ=
唯一、桔梗の抜刀術なら効果があるかもしれない。ジョーの徒手空拳である南友千葉拳、バニラの超合金製金ダライ、Renoも武器を持っているようだけれど、アンドロイドだとバレるのは拙いのだ。どうやら私を狙っているのは分かった。
=皆、ゴジラの出方を待つ=
=下衆様、あの破壊光線が来たらどうするんです!=
その時、太陽電池パネルを破壊されてはと、オルガ隊長の命令が飛んだ。
Fire!
ビム ビム ビム ビム ビム
五条のオレンジ色のビームが、ゴジラの胸に命中......したのだが、明らかにパワー不足だと分かった。
レーザーガンは、見た目は充電式の電動ドリルそっくりで、底部はバッテリー脱着交換式になっていた。
『外観がmakidaそっくりだぞ』
ハメリア合衆国が作った試作みたいな武器では、ゴジラに傷を付ける事も出来なかったのだ。
「あなた、ここは私のAZDで」
「バカ止めろ、極冷凍魔法では被害が大きくなる。あれは深夜だったからまだ良かったものの、今は参拝客もいるんだ」
<アデリアの秘策>
______「なら、ここはあたしに任せて貰おう。ルチア、風魔法であたしを奴の前まで押し上げろ!」
「わ、分かりましたけど、一人で大丈夫なんですか?」
「あたしはSランクだぞ!」
でも......。
レーザーガンが効かなかった事で、無力だと悟った緑の5人も、翻訳したアデリアの言葉に驚いた。
「あの美女エルフ、何か手があるのでしょうか?」
「トーラス副長、ここは異世界で魔法がある。それに期待するしかない」
日頃、ハメリア合衆国情報部のエリートを自負して来た5人。相手が対人戦ならばエリートの誇りを保てた事だろう。
「我々は......こんな化け物には全く無力だ」
オルガ隊長の呟いた一言は、強大な力を持った相手には全く無力である事を、嫌でも思い知らされたのだ。
______「アデリア組合長、最大出力で行きます」
やれルチア!
「風魔法<ソアラ!> 更に<サーマル・ブースト>!」
ルチアが唱えたのは上昇気流魔法。それにブーストを上乗せしたのだ。
浮かんだ魔法陣<ソアラ>は、アデリア組合長の足元に出現すると、アデリアを軽々と舞い上げた。
はぁぁぁ
アデリアの右拳に、紅い闘気が纏った。
「あれは私が以前、冒険者組合の二階で見た......アデリア組合長のヒステリー技だ」
赤と黒の闘気が最高に溜まったのだろう。
ソアラの勢いで、ゴジラの顎を下からアッパーカットを叩き込んだ。
「MD!」
Sランク冒険者アデリアの最強技である。あれで冒険者組合の二階が吹っ飛んだのだけれど、あの時はまだヒステリー状態でセーブが掛かっていた。
「ゴジラの巨体が少し浮いた! やったか?」
ラノベならこれは禁句だ。
ダメージは通ったようだが、HPにすれば半分削った程度だった。
この時、姿が見えなかったバニラ・アイスも同時に<ソアラ>に乗って跳躍し、ゴジラの遥か頭上で位置エネルギーを溜めた。ここからは自由落下、運動エネルギーへと変換されるのだ。
「何をやっているんだ、バニラは!」
=父ちゃん、ウサギはねぇ、跳び跳ねるのが好きなんだよぉ~=
今度は超合金製の金ダライを持っていなかった。
=何をする気だバニラ!=
するとバニラ・アイスは自らの体を回転、キリのように踵を突き出していた。
狙ったのはゴジラの左目だ。
「激痛のハイヒール トルネードスピン!」
MDを食らい、意識が少し朦朧として、バニラ・アイスの攻撃に反応出来なかったゴジラ。気づいた時には、バニラ・アイスのヒールが左目を貫いていた。
アギャァ~アァン
これは左目を失った激痛から来る叫びで、私も初めて見たバニラ・アイスの技だった。
『あいつ、あんな技を隠していたのか』
バニラ・アイスを作った私でも知らないのは、日頃、跳ねまわってAI-myu96が会得した技なのだろう。本当にウサギだった。
シュタァン
バニラ・アイスが、10mの高さからハイヒールで飛び降りて来た。
「「「すげえ!」」」
形勢が不利だと思ったのか、ゴジラは森の中へと引き上げ姿を消してしまった。
「ガッジィーラが引き上げて行くぞ」
緑の5人も安堵し、役に立たなかったハンド・レーザーガンを収めた。
今のは、アデリア、ルチア、バニラ・アイスの合体技みたいなもので、何とか窮地は去ったのだった......けれど。
「あれは何んだったんだ?」
バイソンの大将もモーリンさんも首を傾げるしかなかった。
「あたしもまだまだか。MDで仕留められなかったとはな」
その本音とは。
『レイジー様にいい所を見せれなかった! 悔しいぃ~』
流石にSランク、ゴジラに勝てる自信はあったみたいだ。
◇一難去って◇
異世界人の魔法なら分かるが、バニラ・アイスのは物理的な攻撃である。
「体操ってわかります?」
私はジェスチャーで、バニラ・アイスがアクロバット体操をやっているからと説明を試みたけれど、そんなものは俄には信じられるものでは無いのだ。
「空中三回転ひねりとかは床運動でもあるが、体長10mのガッジーラを相手にして、咄嗟にあれを実行出来るものではない」
「そうですよねぇ~ボス」
◇疑惑のバニラ・アイス◇
______今度はバニラ・アイスに疑惑の目が向けられてしまった。
それに加えて攻撃の時に麦藁帽子が飛び、白衣が吹っ飛んでバニースーツが丸見えだったのも拙かった。
「ボス、バニーガールっすよね?」
「あぁ、間違いなくバニーガールだ」
「ウサ耳も付いてましたね」
「付いているじゃないか」
「レイジー、おめぇの娘、麦藁帽子を絶対に取らなかったが、何故だったんだ説明しろ」
バイソン大将にも不信の目で見られてしまった。
あらあら。
ぱぱ まま おねぇちゃん うさぎ さぁ~ん
私はどう言い訳したらいいのか、窮地に立たされてしまったのである。