表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

54/95

EP54 聖母マリア様が下痢ですとぉ~!


<推定午前11時の冒険者組合>

______青い空を背にして、綿菓子のような雲の下を白い鳩が飛んで行く。その足には、緑の5人が向かう事を知らせる通信筒が付いている。


 冒険者組合から墓地までは約10km。大空に障害物のない鳩は、ローバーより早く到着出来るけれど、その差は時間にして15分程度で、私達の時計では午前11時30分までには、伝書鳩(赤いリボン付お急ぎ便)が到着するだろう。


 バサバサァ~ 

 クックルゥ クルゥ

 冒険者組合の伝書鳩が飛び込んだのは、ナイトメア亭1階にある専用の小窓で、冒険者組合を通じて、たまにある宿泊客をルチアや、同じ受付嬢のレイが知らせてくれているのだ。

 動力のない異世界の通信手段と言えば、時間のかかる馬車便と伝書鳩便の二つが主流となっている。



「おッ? 首に紅いリボンを付けた白鳩.....こりゃぁ冒険者組合からのお急ぎ便だな」

 私は異世界でも伝書鳩が使われている事に、何となく懐かしさを感じていた。

「バイソンさん、あの鳩はお客の案内でしょうか?」

 だといいが。

バイソンが書簡を開くと、宛先は<糞薬師>になっていた。

「おい、こりゃぁ」



<緑の5人>

______「アデリアからだぞレイジー、あの森に居た緑の5人がもうすぐ来るそうだぜ。どうするつもりだ? それにあいつ等、どうやって来るってんだ? しかも馬がいねぇって、アデリアは何をとち狂っていやがる?」


 『恐らく軍の高機動車だ』

 そうと分かっていても、私は(とぼ)けるしかない。

「アデリア組合長の勘違いで、そりゃ馬車でしょう。あの時、敵意は無かったと思うので、ナイトメア亭で会ってみませんか? 手紙には宿泊したいと書いてありますからね、ほらここ」

 おぉ?!


 お客と訊いた途端、バイソンの態度が180度変わるのは早かった。

「なんだなんだ、お客様かよ。それなら丁重にお迎えしなくちゃな。おい、モーリン、デリーシャ、ルル、5名様をお迎えだ」

「あらあら、アデリアがねぇ」

「やったぁ やっぱりお客様、お客様、私のバイト代ぃい」

 ぱぱ まま でりねぇちゃん よかったでしゅ


 ナイトメア亭は、あれから宿泊客が少しづつ増えていて、閑古鳥までは鳴いていなかったけれど、今日はお客用の5部屋がまるまる空いていたのだ。


「俺の腕が鳴るぜ。緑の奴等は遠い異国の人間だろ? ならナイトメア亭自慢の美味い料理を食わせてやらにゃな!」


 ナイトメア亭のメニューは、肉料理と山菜が多い。私はハメリア人なら喜ばれるだろうとは思うが、敵になるのかどうか、それ次第で対応も変えなくてはならない。


 私はレイジー・ドラッグストアに取って返すと、全員を集めて<緊急口裏対策会議>を開いたが、残る時間は後5分程度しかない。


「ジョーは万一、店に来ても二階から顔を出すなよ。それと制御室や薬の作成機械は絶対に見られないように。後は前に話した通りにいく。バニラと桔梗、Renoは私の家族、Kannaは最近雇った店の事務員だ。それとレイジー通信チャンネルは常にオープン、不測の事態に備える。以上だ」

「「「了解!!!」」」


<初顔合わせ>

______5分以内で要点だけを取り決めると、電動モーターの唸りと駆動輪のグリップのいい大口径タイヤが、土や小石を噛む音が聞こえて来た。

 ズサァ~ォオオ

「父ちゃん、来たよ」

「kannaは初対面だから、そのように対処して」

「分かってますよ社長」


 ローバーは私の店ではなく、ナイトメア亭の前で停止してくれたので、少しほっとした気持ちだ。

 バタム バタム


「ここだな。発信ポイントは」

ぞろぞろと5人の緑達が、2台のローバーから下車し終わると、あまり奇麗とは言えない白い木製扉を開けて入って行く。それを見て私と娘達も、後を追うようについていった。


 カラコロ カラン

「「いらっしゃいませぇ~ ナイトメア亭へようこそぉ~」」


「ボス、よかったぁ~歓迎されてますよ」

 ふむ

 タブレット型翻訳装置のお陰で、ここが目的の宿で緑の5人は歓迎された事が分かった。


「あの~、5人 泊まりたいです」

 ポッターが得意なジェスチャーを交えてタブレットを向けると、バイソン、モーリンさん、デリーシャが驚いた。

「喋る魔法のまな板!」


 その他、腰のベルトには黒いホルダー、ナイフを持っている事は見て分かるが、手首にゴツくて丸い物を全員付けていた。

この後は、バイソンの大将が対応したのだけれど、あの森で会った巨漢の男が店長だと知って、ハメリア部隊は大いに驚いてしまった。

「店長は、あの筋肉ダルマか!」


 緑の彼等が持参した干物は、デルモンド王国では貴重で、干物ばかりだけれど思いの外大将が喜び、部屋は3部屋を物々交換で一泊出来る事になった。

 「私のバイト代がぁ......干物」

 ガッカリしたのはデリーシャだった。


「交渉成立ですな、隊長」

「このまま友好関係を保つぞ」

 了解です。


______交渉が成功すると、オルガ隊長と副長トーラスを残してポッター達三人は早速、動力源の太陽電池パネルの組み立て作業に入っていた。

「おい、本当に馬がいねぇぞ。どうなってやがるんだ? それに何んだあの妙な板はよ、屋根なのか?」


 何をしているかと言えば、高効率太陽電池パネルを広げて、プログレス・リチウム電池の充電を開始したのだ。

「明日の昼まで充電すれば、取り合えずローバーで帰還が出来る。この天気ならいけそうだ」


 独身組のビーノとハリーが、額の汗を拭いて休憩をとっていると、ナイトメア亭の前は、異様な物珍しさから大勢の参拝者が、どやどやと集まって来てしまった。


「鉄の箱に大きく太いゴツゴツ車輪、これが動くのか?」

「車輪が木じゃねぇ! なんだこりゃ?」

住民に敵意が無い事は分かった。特に盗まれて拙いものは積んでいないので、三人はそのまま好きなようにさせておいた。


 参拝者の中には、既に<偽聖母マリア様>ブローチを身に着けた人もいて、ポッター達の目にも留まる事になってしまったのだが。

「ジョニー、あれは......似てるよな聖母マリア様に」

「この異世界にか? よく似ているだけさ。デルモンド王国の有名人じゃないのか? ポッター」


 ナイトメア亭の片隅に、土産品コーナーがある事に気がついて、それをよく見ても<聖母マリア様>に似ている事に驚愕を隠せないようだった。

私はまさかバレるとは思ってもいないけれど、デリーシャのデザインはなかなか優秀だと思う。



<レイジー通信チャンネル>

=父ちゃん、バレてまんがな=

=ただの有名人にしておこう=

=下衆様、既に聖母マリア様と値札が付いております=

=げっ忘れてた!=

=主様、もう出たとこ勝負で良いのでは?=


 (まず)い______!

 それに参拝者の多くが、<あぁ、聖母マリア様>と口々に感動して言っているので、タブレット翻訳機もそう表示していたのだ。

オルガ隊長も外に出て見ると、墓地に開けた道が整備されていて、そこを行きかう住人の姿を目にしていた。



「あぁ、アレは有難い<聖母マリア様>のお告げを訊く為に来る参拝者だ。ほれここで土産も売ってるんだぜ」

口裏合わせをしていないバイソン大将が、ポロッとネタバレをしてくれた。

「凄いの。拝むとね、御姿を現されるのよ!」

 次のネタバレはデリーシャだ。


「そんな馬鹿な」

地球でも<姿を現す>そんな現象は聖母様降臨として、世界中に記録がある。涙を流すマリア像も話題にはなったけれど、原因は不明のまま。

「これは調査すべきだな副長」

「調べる必要はありますな」


 (まず)い______! 


=ジョー、3D聖母マリア様スイッチOFF=

=でも兄貴ぃ 参拝者がまだ並んでるけどぉ?=

=急な下痢だと言ってお隠れするんだ=

=そ、そんなの無茶振りなのよさ!=


 ジョーがスイッチを切ると、いつまでも出現しない<聖母マリア様>に参拝者達がパニックに陥り、ちょっとした騒ぎになってしまった。


「私には何故お告げを下さらないのですか?!」

「お前の行いが悪すぎるからだろ。この守銭奴(しゅせんど)

「私はそれを懺悔(ざんげ)に来たんだよ」


 この騒ぎのせいで、緑の5人は台座に向かったのだけれど、そこには右往左往する参拝者達が下痢のマリア様に不満を言っていた。


「ボス、マリア様が......」

「どうしたポッター? マリア様がどうしたって?」


「下痢だそうです!」

「なに! それは匂うな」


 『そっちかよ!』

 オルガ隊長も含めて5人が見た物は、丸い台座のみだ。

「それにしてもオカシイ。ここで集団幻覚でも見るのか? トーラス副長、君はどう思う?」

「やはり(くさ)いですね。そう言えば宿の隣が薬屋......もしや幻覚剤で一儲けしている......こんな辺鄙(へんぴ)な所で薬屋だなんて、全く妙な話ですな」


 騒ぎと事の真相を探る為に、緑の5人はレイジー博士を問い詰める事になってしまったのである。








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ