EP52 あたしをエロい目で見るな!
◇始まりの後章◇
______<魔の森>の異変調査に向かった私達7人の履いている靴は、それぞれバラバラだ。
ハメリア合衆国火星部隊が、ごついコンバット・ブーツで統一しているのに比べて、バイソン大将とモーリンさんは魔物革のブーツ。
私は黒い革靴、桔梗はカンフーみたいな平たい靴で、Renoはローヒール、バニラ・アイスとアデリア組合長はハイヒールと言う、どう考えても戦闘向きではない靴を履き、森の中を歩くのにこれでいいのかと首を傾げたくなる。
◇距離300◇
グッ
______足音を敏感に感じたオルガ隊長は、左拳を握って制止の合図を隊に送った。
「隊長、私も足音がバラバラな最低7人の気配がします。これは異世界の民間人のような気がしますな」
トーラス副長も、同じ気配を感じ取っていた。
ふむ。
「まさかこのような森の中で、ピクニックはないだろう。総員、コンバット・ナイフとレーザーガンはそのままにして様子を見る。先に仕掛けるなよ」
「「OKボス」」
◇距離250◇
=あ~あ~ レイジー通信チャンネルだよぉ~=
この声は遊撃のバニラ・アイスからだ。
=ターゲット5人に敵意はないよ。武器はコンバット・ナイフとレーザーガンを各自所持してるぅ~=
私はレーザーガンと訊いて少し驚いたけれど、これで確信した。
英語を話しているならハメリア合衆国の軍隊で、しかも私達を追って来たのだ。どうやって異世界までとは思うけれど、それは後回しでいい。
=皆、言葉は異世界語だけで、こちらも敵意は無い事をアピール。お前達もバイソン大将の後ろに隠れる振りをして=
=へ~い=
=了=
仕方がないとばかりに、バニラ・アイスと桔梗がバイソン大将の後ろに回った。
「ふん、おめぇ等やっとわかったのか? それが賢明と言うやつだぜ。あとは任せろ」
◇距離100◇
______遠目にもお互いが存在を視認出来る距離に近づいた。
「ボス、先頭はマッチョな大男が一人、その後ろには美少女が三人と、あとは......げぇぇ」
「何だポッター、いきなり大きな声を出して! 敵かも知れんのだぞ」
「エ、エルフです! 超美人でボッキュンで足が長ぇぇエルフが居るんですよボスぅ~ 他の三人は美少女メイドと白衣のお団子頭、麦藁白衣です!」
「おい、森の中でコスプレ大会じゃないんだ。流石にそれはないだろ」
この時のアデリアは、結構めかし込んで来ていた。
♪ルンルン♪
超ミニの革短パン、網タイツに紅いハイヒール、胸元がバックリ開いた革のノースリーブで、化粧もバッチリ濃かった。
それについて何か言うのは拙いと、バイソンの大将とモーリンさんは黙秘していたのだ。
『あらあらアデリアがあんなにメイクして。私ほどじゃないけれど少し美人になってるわ』
ポッターを含め、隊長と副長以外は独身で彼女無し。遠目でもアデリアのインパクトは、破壊力抜群だったのだ。
「おい、索敵専用電子双眼鏡を貸せ」
「俺が先だ」
高性能双眼鏡の奪い合いになって、私が見ても戦意が無いのは明白だった。
______「何だありゃ? お笑い芸人の集団だったのか?」
やる気満々のバイソン大将は拍子抜けと言う顔で、私にはまだ謎のスキルを解いていた。
「なんだあいつ等は! このあたしをエロい目で見やがって! 見ていいのは横の......糞ゴニョだけよ」
アデリア組合長は、目も耳もいいのだ。
「おっ、アデリアが......今何か言いかけたな」
あらあら、素直な事。
◇アデリアの必殺技◇
「あたしをエロい目で見るなぁ!」
ギラァ~
ヒィ~♡
距離100mでアデリア組合長が、必殺<タマキン・エスケイプ>を飛ばしたのだけれど、残念ながら余り効果がなく、独身隊員三人は更に魅了されてしまったのだった。
「今の視線に痺れた! 俺に気があるんじゃね?」
「バカポッター、俺だ」
「いや。俺を見ていたんだ」
チィ、遠かったか!
何ともあきれ果てた会話を訊いていて、私はある重大な欠点に気づいてしまったのだ。
「私の存在って......幽霊?お化け? 私もいるのにまさか見えてないの?」
◇距離50 30 20◇
______双方が警戒態勢を解くのは早かった。
隊長のオルガが敵意の無い事を身振りで示し、ポッターが撮影した衛星写真のデルモンド王国城下街を指差した事で、概ねこの集団の目的は知れたのだ。
しかし余りにも精度の高いマップに、バイソンの大将以下、異世界の住人達は驚いた。
「こりゃすげえぞ、またまたタマゲタ」
ほう、これは!
「あらあら、ほんとに凄い事」
驚いた顔は、ハメリア合衆国隊員にも分かった。
______「ふむ、文化レベルは南の住人よりは上だな」
「服装と反応から、そう思えますな」
ポッター以下三人の独身隊員の目は、そんな話とは無縁とばかりに、目を♡型にしてアデリア組合長の顔と肢体を、上から下へと舐めるように鑑賞していた。
「て、てめぇ等!」
「あらあら、私も美女なんだけど......」
異世界語の暴力的なアデリア組合長と、モーリンさんの言葉は通じてはいない。
しかし王国城下街に連れて行こうにも、私達が乗って来た馬車は一台で、彼等5人は乗れなかった。
ここは日を改める事で何とか合意して、最初のエンカウントは終わったのだった。
「うぅボスぅ......」
「もっとエルフ見ていたいです」
「美女ばかり.....エルフに惚れましたぁ」
分かれ際の名残惜しい若い隊員の目は、私にも分かるような気がする。
「下衆様!」
ひぃ~
ハメリア合衆国としても、全幅2.5mのローバーが森を抜けられるルートが分かったので、木々を伐採してまた会えばいいのだ。
後日彼らは、最新のローバーで王国城下に向かう事になると、何故かポッター以下三人の、独身隊員の伐採作業は早かった。
率先して邪魔な木々を伐採しまくり、ルートが開けたのは七日後の事である。
◇ハメリア合衆国が向かう先◇
______ルートが開拓出来れば、後は必要機材をローバーに積んで、またあのボッキュンエルフの元へと向かえばいい。
その為に、用意周到にアデリア組合長には、ハンディ無線機を渡していたのだった。
無線機のスイッチをスタンバイにしておいて、アデリア側にカタコトの音声が聞こえたら、我々が出発したと言う寸法だ。
私達にはそれが無線機だとは分かっているけれど、「ほぉ~とか、何ですかね? それは」
と言って誤魔化しておいた。
◇あ~テス テス◇
______そして出会ってから10日が経過した時点で、無線機から音が出た。
アデリアが嫌がって、冒険者組合のルチアが持っていたのだけれど、突然黒い小箱? からの声に腰を抜かしてしまったのだ。
=ピー ピー あ~テス テス=
アデリア組合長は何だかんだで、私の店に来ては新しい冒険者組合の建築について、社長秘書になったKannaと話し込む毎日だ。
私もそのやり取りを見ている訳だけれど、アデリア組合長は窓を背にした場所に変えると、私をずっと睨みつけて来るのだ。
ギラァギラァ
ヒィッ
『違うの、これは<タマキン・エスケイプ>じゃないの。<タマキン・モリモリ>って言う<愛の必殺技>に気が付いて』
基本的に、タマキンをどうにかするスキルに変わりはないのだけれど、どちらにしても私のタマキンは縮み上がるのだ。
そこへ久しぶりにルチア・アルデールが、血相を変えて飛び込んで来た。
「ア、アデ アデ」
「ルチアちゃん、とうとう頭がいかれたのかい?」
「バニラ、ルチアちゃんに、お水を差し上げなさい」
「父ちゃん、頭からぶっかけるんだよね」
コップだよ、コップで!
ルチアはあの無線機を持って、馬を走らせてここまで駆けつけて来たのだ。
「それは、あの時の黒い小箱?」
「この箱が=ア~テス テス=って喋るんですぅ。私もう恐ろしくって、それでぇ」
私は何気ない振りをして、アデリア組合長にヒントを出してやった。
「その箱が喋ると、確か向こうがこっちに来るとか来ないとか?」
あっ、そうだった!
「糞薬師、おめぇ案外やるじゃねぇか。よし、褒美にあたしの胸を揉むか?」
げぇ
アデリア組合長流の冗談だったらしいが、周囲はドン引き大セールとなってしまった。
______一方で、ハメリア合衆国部隊は出発準備を終わっていた。
異世界ではGPSが使えない。無線機を渡したのは、※<フォックス・ハンティング>みたいに、発信電波を辿ればエルフの居場所が特定出来る目的もあったからだ。
(※アマチュア無線愛好家のイベントの一つで、電波の発信源を探す通称キツネ狩り)
午前9時、ハメリア合衆国のローバー2台が、隊員5名と太陽電池パネルを積んで<魔の森>を出発したのだった。
「うへへ、ボッキュンエルフちゃんに会える!」
三人の若い隊員は浮かれていた。
「しかしですよ、電波の発信源は目的の城下街から大きく外れた、森の近くですが」
「分からんが、そこがエルフの家かもしれん。取り合えず行くしかないだろう。そこで交流を深める事が我々の目的だからな」
ハメリア合衆国は、どうやって異世界から帰還するかなど、とうに諦めていた。となれば異世界で住人と共存するしか道は無いと考えていたのである。
「しかし隊長、エージェンシトJoeはどうなったんでしょうなぁ?」
トーラス副長は、ずっと気になっていたのだろう。
Joeか......さぁな。
______へ、へクショイ ブシィ~
「あっ、ジョロジョロの生ゴミが風邪ひいてる」
「うるさいのよさ! 糞ウサギ!」




