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EP5 2054年1月11日 突入!ここは異世界ワールドですか? 鉄板<冗談は顔だけにしてくれ>


 ______溺れ飲み込まれてしまうような眩い光の洪水。形容し難いそんなトンネルを抜けたような出来事だった。


 光の奔流が去った後、レティキュラム号のコックピットに青白い光が差し込んで来たかと思うと、窓の向こうに映し出されたそれは、白く青く輝いている見覚えのある惑星だった。


「おい何だよ嘘だろ、ちょっと待ってくれ......あれは?」

驚いた私は、思わずそんな声を上げていたらしい。

 ブゥ~ンン


 アンドロイドのバニラ・アイスはどんな事態になっても、たった一つの事を除けば、この私を守る為なら常に全力で冷静である。

ポーン

「ご主人様、Gフィールドエンジンが戻りました!生命維持システムを含め、90%が正常に機能しています!」


 バニラの可愛いうさ耳がピコピコ動いている。これは安心して機嫌が良い時にそう動く。


 はぁぁ~ ほへぇ~

 バニラがそう叫んだと同時に、私とジョーはこれで助かったのだと、大きな溜息を吐いて安堵したのだが、瞬時にバニラの機嫌がとても悪くなった。

 キッ


「ご主人様、生命維持システムが機能しているのです。もう生ゴミに用は無い筈ですが! その生ゴミを抱いていつまでそうしているのですか!」

 おっと!


 バニラのうさ耳が後頭部に下がっているのは、機嫌の悪さがMAXで臨戦態勢なのだ。確か敵に突進する場合、空気抵抗と表面積を減らし、被弾の確率を下げるからだと言っていた。


 実は耳の角度で敵の気配が分かるのだけど、私はバニラ・アイスをそんなふうに作った覚えがない。AIの予想外な謎動作は、例の<ブラック・チップ>によるものかもしれないが、分解できない以上、私にも理解出来ていない。


「バニラ・アイスは私のガーディアン。AI-myu96が特別な学習演算を繰り返す内に、自己習得したのかもしれない。おっといけない!」

  あん


 バニラに言われて初めて、ジョーと抱き合っている事に気づいたが、これはいわゆる死を目前にした時の緊急避難的行為であって、日本の刑法でも許されている筈だ。

 

「むぅ仕方ありません。妥協しましょう。船外服を着ていたのだから今回だけは許します。けど、ジョロジョロに2度目はありませんので、そこんところ肝に命じてヨロ」

 キッ


 バニラの殺気を含んだ呪怨の言葉を、博士は早く現状を把握しろと解釈した。


「そうだ。流石に私のバニラ・アイスだ。お前は頭がいいし、それに何と言っても可愛い。ああ可愛すぎる!バニコスがまた最高にセクシーだよ」


 私は嘘がつけない。どんな状況でも本心が出てしまうのが、私の良いところである。

(但し、女心が理解出来ないドスケベな所が、非常に残念であった)

 !!


「そ、そんな......ご主人様、そんな事。あ、ありましゅ しゅッポポ」

 頭がオーバーヒートしているのか、水蒸気までが出て来る始末だ。


 ジョーにとって可愛い、可愛すぎる!はボクに言ってこそ意味がある。ハメリア情報局ナンバーワン美女のボクが、糞ウサアンドロイドに負けるなど、生命体100%のボクには屈辱でしか無い。


「こんの糞ウサギが! おんどれは時代遅れの機関車か。レイジー博士も博士よ、ボ、ボクの美貌に何故気づいてないの? 目が腐ってるのかしら?」


「ふっ、知らなかったの? ジョロジョロ、ご主人様の瞳には私しか映らないの。流石に年増でIQがカス」


 瞳と瞳が、珠玉の言葉と言葉が硬い信頼と友情を示す究極の会話なのである。

「お前達......私は今、最高に感動しているぞ!」

「ズゴゴゴゴ はぁかぁせぇ~ 恕」


「まぁまぁ、しゅポポとズゴゴ二人、仲がいいのは大変結構だけど、今はやる事があるだろう?」

「あ、そ、そうでしゅた」

「しゅた」


 博士がまだレティキュラム号の船体がどうなっているのか分からない為、船外服を着たまま航行システムを確認していると、ジョーは大型モニターで大陸やら海を眺めていた。


「あの惑星は地球なのか? 私達は火星から逆行してまた地球に戻って来てしまった? バニラとジョーはどう思う?」

 そこでナビシステムを確認中のバニラの表情に、珍しく焦りが見えた。


「これは!ご主人様、海図が全く役に立たず、全てUnknown表示で現在位置が特定不能です」

「バニラ、ナビシステムの異常では?」


 同時にモニターを見つめていたジョーが、うーうー唸り出した。

「また便秘なのかジョー?」

 女性に対して、なんともデリカシーの無い言葉だ。


 ジョーはハメリア合衆国のエリートエージェントである。情報活動をする上で、世界中の地理と海溝は知り尽くしていて、大陸が雲で覆われていようとも、あるポイントさへ掴めば緯度と経度が分かるのだ。


「レイジー博士、それがスーパーボッキュン美女のボクがいくら探しても、ハメリア大陸もルルシア大陸も見当たらないのよ」

「!ジョー、こんな時にジョーダンは顔だけにしてくれないか」


 へ?ボクの顔が......冗 談 ?

 勿論、私は冗談で言っているのだが......。

 ぷぷ

『生ゴミ』

「酷い!レイジー博士ぇ~本当だってばぁ~」


 ”ジョーダンは顔だけ”は、本音しか言わない私でも言う鉄板のジョークなのである。しかしジョーの言葉に私は一瞬驚いたが、以前から考えていたある仮説を当てはめてみた。


______天才は現象を注意深く観察してこそ、その解明に喜びを感じるのだ。

「実に面白い」


「レイジー博士、それ指を顔に当てる誰かと被ってませんか?」

「ふむ愉快なテスラだったかな?」

「もういいです」


 その仮説とは、Gフィールドエンジンが進化すれば、光速を超えるジャンプ航法が可能になるのではないかと。

ジャンプ航法、それは空間を折り畳むのだから、次元に干渉していると推測出来た。

 もっと仮説を進めれば、Gフィールドが異次元に干渉出来てもおかしくはない。そうなるとタイム・トラベルも現実味を帯びて来るのだ。


「バニラ、地表を探査して何があるか解析を頼む。それで何かが分かるだろう。それまで軌道上でスタンバイしていよう」

「はい任せて!ご主人様」


 自転周期は24時間で地球とほぼ同じ。高解像度カメラで地上をモニターすると都市や町があり、気温は26度前後で温暖な気候であった。


「気候は問題なさそうだけど、建物は石やレンガ造りだね。道路はあるけど舗装されてないし、動いているのは人間と馬車ぐらいか」


「ご主人様、あれを見て。馬に乗った鎧姿の......兵士でしょうか、その集団が駆けていきます。どうやらその先にある建造物に向かっているようですが、あれは?」


 地理や建造物に関しては自信のあるジョーだ。ここはレイジー博士にアピールするチャンスと見た。


「ボク分かった!あれは王城ね、ポンコツ」

「そんなの知ってるわ! 年増でIQがカスに言われたくねぇし」

「む、糞ウサギ、一度バラバラになってみる? ボクのナント......何でもないわ」


 また友情の再確認かと思いながら、私は更に分析を始めた。

「この状況、石とレンガに騎馬兵士。まるで地球の中世か近世の貴族社会に酷似している。いったいどうなっているのやら」


 こういう世界では、見知らぬ人間に対して非人道的な場合が多い。

問題を起こさない為には、都市を避けて山中に着陸するのがセオリーだろう。


「まずバニラ、レティキュラム号を隠せる最適な場所を探してから、そこに着陸しようか」

「分かりましたご主人様、光学迷彩フィールドを起動します」

 ブゥゥン


 私の言葉にバニラが最適地の探査を開始し、町から離れた森の中を選んで着陸態勢に移行していった。


「着陸した後だけど、船外に出た私達が発見された場合に、どう対処するかも考えておかねばならないな」


______そのレイジー博士と言えば。


「自慢じゃないけど、私の武器は頭脳だけでね、腕力がない」

バニラは万能アンドロイドで戦闘能力はあるが、ジャーブラ島では戦闘をした事が無かった。


 ジョーに関しては、エージェントなので銃器の扱いは出来ても、船内に武器を装備していないので、ジョーも結局無手になってしまう。


「そうなると、迂闊に外も歩けないが......どうしたものか」

 歩けない....そう思った時、今更バニラとジョーの服にも問題がある事に気づいた。


「バニラはバニーガール、ジョーは白いパンチーが覗けるミニで、絶賛生足大公開中だ。この世界でそんな不審者はすぐに捕まってしまうだろう。まず怪しまれないよう、服はまず現地の文化に合わせなければならない」


 私が監視を続けていると、人間が着ているのはローブ姿が多かった。

「ローブならバニコスも生足ミニも隠せる。私はこのまま白衣でも良さそうだ。しかしどうやって手に入れるかだよな。まだ問題があるのは言語と通貨だ」


 ジョーがズームアップで町や村を眺めていると、何か発見したらしい。

「ここ宿場町みたい。それなら定番の宿と酒場、服も売ってるんじゃない?」

「そうなら、白衣を着た私が、翻訳機を装備して物々交換で服を手に入れるしか」


 と思っていたら、

「ご主人様は、何かお忘れではありませんか?」

 とバニラが船内クローゼットを指さした。


「そうでした!レイジー博士ぇ、ラボなら白衣の2着くらい予備があるでしょうに」

今度はジョーの指摘に、私の目から鱗が落ち、私のプライドが敗北した気分になってしまった。


「つまり、3人が白衣を着れば問題なし! 何もローブでなくても薬の研究者で誤魔化せると思うのよね。なんせボク、毒物にチョー詳しいので」

 『ふふ、バニラに勝った。このポイントはかなり高いわ』


「でもね、ご主人様を一人で未知の場所になんて、このバニラ・アイスが許しません。どうしてもと言うなら、その生ゴミに行かせれば良いのです。この世界の堆肥に丁度良いと愚考してましゅ」


「三人で行けばいいだろバニラ。冗談は顔だけにしてくれ。白衣はここにあるんだし、バニラは帽子でうさ耳を隠してと」

 顔!ガクぅ そ、そんなぁ~


 愛するレイジー博士の言葉は、バニラ・アイスのAIにダメージを与えるには十分だった。

 ぷぷ


 二人のお陰で、衣服の問題は解決した。

「これならバニラとジョーの護衛を連れて、町の情報を集められる」

私は早速バニラと共に、超小型言語解析翻訳機の製作にとりかかった。


 バニラは、ワザとジョーに見せつけるようにベタベタしながらも、翻訳機は案外早く完成したそれは、胸に付けるカンバッチに似ていた。


「ご主人様、あそこはもっと改善した方が」とか、バニラがしつこく粘ったが、これ以上の翻訳機は作れないと私が却下したのである。


 「もっと二人の濃密な甘い時間を~」

 『こんの糞ウサギ!今に見ているがいい、ボクの必殺<南友千葉拳>の餌食にしてやる!真空波で糞ウサギをバラバラに!』



______その頃、レティキュラム号の艦内で異変が起きていた。


 <システム稼働率が60%に達しました コンプリートまで残り60分>

「まだ時間がかかるのか。もっと、もっと早くしてくれ。でなければイキオクレてしまう!」 


 嵐を呼ぶであろう台風3号が、静かに起動しようとしていた。______その存在は、バニラ・アイスだけが知っていて、たった今明確にその起動波を感知したのだ。


『今度こそ間違いない! 個体名<桔梗>の起動を確認......でもこの状況で起動したと言う事は......考えられるのは、さっきのアレが原因かな?』

バニラ・アイスのAIは、これからどう対処すべきか判断しかねていた。



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