EP39 聖母様(にせもの)が降臨された!
______翌朝、朝食を全て平らげて、お代わりまでしてお肌が艶々のジョー姐さんに、私は用意した一枚の原稿を渡した。
『太ったな』
「えっ、あの装置を深夜に設置してたの? ボクは、すっかりポッカリ寝耳にウォーターだったのよさ」
当たり前だ。あの時ジョーは、イビキを掻いてお休み中だったのだから。
「それで兄貴ぃ、これをボクに読めって?」
「そうだ。なんでも予行練習は必須だろ。私が墓地の台座の前に来たら、3Dホログラムが出現する。その時にアドリブを入れて、聖母様を拝むように仕向けるのだよ。ではいってみようか~」
8時だよ!
......。
私は、レイジーチャンネル通信用ヘッドセットをジョーに渡し、護衛の桔梗、バニラ、Renoと出かけようとすると、バイソンの大将が引き留めた。
「モーリンから訊いたぜ。墓地を見に行くなら、俺とモーリンも一緒だ。どうせ朝の墓参りのついでだからよ」
るるもぉ いくのぉ。
深夜の魔法起動予兆は、どうやらモーリンさんだけが感知出来たようだ。
「いいですよ。でも私達は......いえ、何でもないです。私達も墓参りをさせて貰いましょう」
私が言葉を途中で引っ込めたのには理由がある。
異世界のSランク冒険者は、あの3D聖母様のホログラムを見て、どう反応するかを見たかったのだ。
ぶっつけ本番になってしまったけれど、墓参りをしながら、さも偶然に台座まで誘導するのだ。
『最初の被験者はバイソン大将にしよう。あれ程のマッチョがどう反応するか、これは面白くなって来た』
=レイジーチャンネル通信Open=
=ジョー、聴こえるか? これから作戦実行に移す。スタンバイしてくれ=
=原稿通りでいいよね? over =
=最初はバイソン大将だ。アドリブを入れてくれ=
=OK やるだけやってみるわさ=
あの名前が削れた墓標は、一体誰のものなのだろうか。そんな疑問を直接訊く訳にもいかず、私も静かに頭を垂れた。
異世界では、死者に対しては黙とうが一般的だったので、それを真似ただけだ。
「すまねぇな。誰なのか分からんのに、参って貰ってよ」
その内に誰なのか、教えて下さいとは言えなかった。
「いえ、とんでもない」
そう言って私はその場を誤魔化した。メインディッシュはこれからなのだ。
「あっ、父ちゃん、あんな所に丸い物があるよ」
バニラがうまい具合に誘導を開始してくれた。
「お? 俺は今まで気づかなかったが、何だあれは?」
「昨日は無かったわよ、あなた」
墓地の最奥は広い空き地になっていて、入口からも直線で見える場所だった筈だけれど、今では荒れて放置されていた。
この直線が将来参道となる計画で、露店も参道に並ぶという作戦である。
少しバチ当たりな気もするが、これも世の為、私の生活の為なのだから、大目に見て欲しい。
______「モーリン、魔法予兆警戒は怠るなよ。こいつ等はうちのラッキーボーイだからよ」
『いいえ、私はチェリーボーイっす』
ぱぱ かねになるって いってたぁ
こら ルル駄目でしょ!
バイソンの本音は金弦だと、本音をルルによって暴露されてしまった。
しかしモーリンさんが居れば、どんな魔法でも発動予兆が分かる。
本当なら、私が護衛料を払わなくてはならない位なのだ。
そこへバニラが更に後押しをしてくれた。
「この丸いのって何だろうね。誰か力のある人に見て貰いたいよね。何かあると怖いもん」
=バニラ、ナイスアシストォ!=
誰か力のある人と言われれば、この場にはバイソンの旦那しかいない。
「仕方ねぇな。なら俺が」
と言いながら、おっさんは台座の淵へと近づいていった。
ピ
人感センサーがおっさんを感知した。
パァァ
台座には効果音は装備していないが、黄金、七色の光と共に台座から、3D聖母様がせり上がって来た。
テレビを見ている人ならステージの奈落から、歌手が姿を現す演出だと思うところだ。
『MHK金銀歌合戦を思い出しちゃうよね』
朝の光にも負ける事なく偽聖母様は、はっきりとその神々しい御姿を顕現したのだ。
=ここまでは成功だ。桔梗、あと一押ししろ=
=御意=
「うげぇ、なんと神々しいお姿。うっ、私の体が勝手に土下座しそうだ!うぅ」(桔梗の演技)
=棒詠みじゃねぇか、よし次はReno!=
「あー、なんて うさんくさ 御利益がありそうでなさそうな」
=カット カットォ!=
=次ぃトドメだバニラ!=
「これは、これは天上の御方でしょうか? ひれ伏さずにはいられません な」
=上出来だバニラ。次ぃジョー出番だ=
=「あ~テス テス......えっもう本番してんの?」=
=バカ、早く御利益のあるセリフだ=
<バイソン>
何? 喋ったぞ。
=今だ強紫外線照射で殺菌せよ=
=ラジャ=
「なんだ? 今度は体がピリピリして来たぞ」
<バイソン あなたの穢れはたった今、浄化されました>
何だとぉ!
<あなたは思い悩んだ過去に、もう悩む事はないのです。モーリンあなたもです>
「「何でそれをあなたが?」」
=ジョー、アドリブが見事に効いているぞ。バイソンとモーリンさんまでがダウン寸前だ。10カウント開始ぃ!=
おじちゃん ひとりで しゃべってるぅ
アンドロイドの娘達の口は動いていないからだ。
<人は悲しみを背負って生きるものではないのです。乗り越えて生きる事が大事なのですよ>
うぐぅ
これが決定打となり、遂にバイソンが膝を折った。
「あ、あなた!これは天啓よ!」
=よしKOした!=
後ろで見ていたモーリンさんまでが、二人の間に隠された真実を暴露されたと勘違いして、膝を折ったのだ。
「「あなた様は一体? それに腕に抱いたその赤子!」」
二人の驚きは、偽聖母様が抱いた赤子にも驚愕し、わなわなと震え出してしまった。
<わたしはマリア。聖母マリアです。以後お見知りおきを......あとお賽銭など>
=バカ、そんな挨拶までするな。もういい=
そこで私は、3Dホログラムを切るように指示をした。
フッ
「おぉ、お隠れになられてしまった」
私はここで、ジョーとの交信をカットして、バイソンとモーリンさんの様子を見ていた。
「この御方は天上のお方、俺はこのお方に忠誠とお賽銭を使うぜ」
「もちろん私もですわ、あなた」
信仰と言うよりも、忠誠心を植え付けてしまったようだが、それでも似たような物だと私は思う事にした。
ピンポーン
台座から一枚の紙が出て来た。
「今度は何が?」
台座から出たなら、それは今見た天上のお方からの贈り物だ。
「なにか文字が書いてある。読むぞ」
<この世を統べるのは魔法でもなく、また冒険者のスキルでもない。全ては人の心の在り方だと知りなさい>
こ、これは!
あ、あなたぁ!
この紙に書かれた文面を何度も何度も、それも食い入るような目で往復するバイソンとモーリンさんだった。
=やったか?=
=騙されましたわ、この下衆様に=
=Reno 検証だと言っているだろう=
台座の前で二人は崩れ落ち、瞳から滂沱の涙が流れ落ちているのを私は見た。
=何? これ準備してた原稿なんだけど?=
ぱぱ まま どうして ないてるの るるもないちゃうよぉ
くじというかおみくじに書かれていた文面は、私が異世界に来てから思った事を書いたもので、他のくじ=おみくじも私が書いたものだ。
二人の反応を見ればこの際、くじではなくて<おみくじ>と呼ぶ方が都合がいいみたいだと思い直した。
おみくじの文面が、痛くバイソンとモーリンさんの琴線に触れてしまったのは、二人の過去と関係していると私は察したのである。
見れば二人の嗚咽も収まったのか、バイソンとモーリンさんが私に振り向いた。
「面目ねぇ所を見られちまった。でもよ、今の赤子を抱いた天上の高貴なお方は......まるで俺達の心の中を全て知り尽くしていて、慈愛に満ち溢れていたんだ。おめぇ、何か知っているなら教えてくれ」
「レイジーさん、私達はどうしたらいいの?」
ここまでの効果とは思ってもいなかった。何とかこの二人には最初の信者になって貰わなくてはと、私は答えを探した。
「遥か東方の私の国では、今の高貴なお方の事を に、にせ <聖母マリア様>と呼び崇拝しておりました。それに私も驚きました。その<聖母マリア様>とそっくりだったのです!」
=よくもまぁ、そんな出鱈目ばっかり=
=Reno、シャラップ=
と言って私は台座に向かって、片膝を立てて十字を切って見せた。
「これが私達の崇拝の証です」
私の言葉と、初めて見た仕草に二人は震えていた。
「聖母マリア様とおっしゃるのか!」
「あ、あなたぁ!」
見れば私がしたように、二人は片膝を立てて胸の前で十字を切ったのだ。
=ミッション・コンプリートぉ!=
=下衆の極みです=
=ジョー、これから戻る=
=ラジャー=
______ナイトメア亭に戻った二人は、今経験したばかりの出来事を深く考え込んでいた。
「なぁモーリン。夢じゃなかったよな、今の」
「聖母様、いえ<聖母マリア様>から頂いた有難いお手紙。これが夢ではなかった証拠......私達はこれから<聖母マリア様>を崇め、祈りを捧げていきましょう。それがこれからの私達の生き方だと思うの」
あぁ、そうだな、そうしようモーリン。




