EP35 紅いヘアピンはmade in japan
______デルモンド王国冒険者組合長アデリア。そのSランク冒険者は強化繊維網タイツに、ニーハイブーツを履いて、日焼けした肌にはノースリーブの革ジャケットを纏ったエルフの超美人。これが普段の服装で、スタイルも爆弾ボッキュンな見た目は抜群の女性である。
但し、喋らなければ。
恐怖のスキル、一度睨まれれば例え冒険者の猛者であろうと、タマキンが悲鳴を上げて縮み上がり、パンツの中のどこを探しても見つからなくなるのだ。
それは、神隠しならぬ<タマキン・エスケイプ>と呼ばれるアデリアの特殊なスキルだ。
アイドル受付嬢のルチア・アルデールやレイ、デリーシャなどがこれを食らうと......ここでは割愛しておこう。
その<アイス・アイ>の持ち主が、あろう事か爆弾発言をぶっ放したのがこの騒動の始まりだった______
「おいてめぇ、Fランクの糞薬師、お前でも今だけは居なくなるのは困る。しかしだ、謎の高熱病の薬はお前にしか作れん。そこでこのあたしが、また狙われないよう直々にお前の護衛をしてやる。当然、24時間完全体制で寝る時であろうと、あたしがピッタリと密着護衛してやるから、もう安心するがいい。しかしまだこれで驚くな。これが生涯無料でずっとだ。ほれ、これが固めの契約書だ。今すぐにサインすれば終わりだ!」
........。
『私の人生が終わりそうな気がして来た』
「そうか印が無いのだな。そこはあたしのボインで何とかする。心配は無用だ」
『キャァ~レイジー様ぁ、永久就職だって気がついてよねぇ~。これ婚姻届けなのぉ』
........。
........。
「何だその長い沈黙は! てめぇ糞薬師、あたしを無視とはいい度胸だ! ええいもう我慢ならん!食らえ、必殺<アイス(愛してる)・ア~イ(愛)>!」
ギラァ~
「「「出たぁ<タマキン・エスケイプ>! あの薬師のタマキンは今頃」」」
言ってやるな、アレはキツイぞ。
........。
とても強引なアデリア組合長だけど、恐らくあのナイトメア亭で、私達が暗殺されそうになった事を心配? してくれた発言なのだろう。
『サイン・コサイン・タンジェント』それは違うか。
サインとボインは今はナインとして、私の頭脳はまた別の事を考えていた。
これは今に始まった事ではなく、幼い頃から私は普通に出来ていたのだ。
こんな芸当が出来たから、私のIQは超高いのかも知れない。
私の目はアデリアに向いていても、アデリアの凍るような目を認識してはいなかった。
______「何だとぉ? 効いていない?! あたしの必殺、不敗の<アイス・アイ>、人呼んで<タマキン・エスケイプ>なんだぞ!」
私は恐怖を感じていたのだ。
私達が知らなかったとは言え、異世界に来たせいで持ち込んでしまったコローナ高熱病。それにナイトメア亭の家族にしても、死ななくてもいい人が死にそうになってしまった事だ。
そして次は、アデリア組合長まで巻き込んでしまいそうなのだ______あのエイプ子爵家と確執が出来たのも私のせい。私の頭脳は不吉な未来を描き出していた。
◇結像未来絵図◇
私の脳はある映像を結び出した_____この異世界で起こる筈のない魔法と現代兵器による近代戦。何故、地球の兵器が絡んで来たのか......それは私の能力が描き出した、極めて確率の高い近未来絵図だった。
「何て事だ。この異世界で存在しない核が使われる!」
これは天才レイジー博士の脳が、あらゆる今まで経験した出来事を、並列思考で予測した未来だった。
そこには当然として、ハメリア合衆国とルルシア帝国も情報の一つとして絡み合っている。
『未来視とは......ラノベに登場するスキルとして、よく耳にする能力だとは知っているけれど』
<積層並列思考>とは、魔法スキル<未来視>とは違うレイジー博士だけが持つ脳のアーツと言えた。
キュン キュン......惚れた。
『益々惚れた。レイジー様ぁ、もうあたしをメチャメチャにして欲しいの!』
冒険者組合の二階を、メチャメチャにしたアデリアは、また暴発一歩手前に陥っていた。
◇判決は◇
冒険者組合フロアに、ヤイヤイ ワイワイ ピーピーと拡声器やら笛と太鼓が鳴っている。
アデリアは、私との契約の件に夢中で気づいていなかったが、アデリアの周囲にはルチア・アルデール、レイ、デリーシャと私の娘達四人が、<悪霊退散><アデリア引っ込め><横暴断固阻止>と書かれたプラカードや横断幕を掲げて、シュプレヒコールを続けていたのである。
「何の騒ぎだ? 祭りか?」
「あのアデリア組合長が、血祭りになりそうな絵ずらだが?」
組合の冒険者達も、初めて見る異様な光景に安酒を飲みながら、どうなるんだとばかりに、血祭り(なりゆき)を楽しんでいた。
アデリアは、その中の桔梗の姿を見て思い出したのだ。
「ふ、ふん、お前は 確か......デブーラ男爵家の秘宝を守ったんだったな。何となくだが分るぞ。お前は強い。いいだろう、契約書の件は、い、い、一端、置いておこう。ルチアの受付デスクの上にな」
その途端、バニラ・アイスが白い布を上下に広げ、フロアに向かって宣言した。
「原告勝訴!」
私がサインなぞしていたら、当然「不当判決!」で血を見ていた事だろう。
そうなるのはレイジー薬師である。
「何の茶番だ? おめぇ分るか?」
「うんにゃ、アデリア様がすっ込んだからか?」
「とんだ三文芝居だったな」
◇茶番原告勝訴の後◇
今の騒動は、私が狙われた事を心配したアデリア組合長の心遣いだと、ルチア、レイ、デリーシャに説明したところで、一件落着を見た。
最後にアデリア組合長は言った。
「あたしはSランク冒険者<氷炎のザフォース>を再結成するつもりだ。ナイトメア亭のバイソンとモーリンとな。とても嫌な何かが起こりそうな予感がするのだ」
と
確かに私が見た未来とも一致する。バイソンの大将が言ったように、私達チームに足りないヒーラーの補充は、正しく早急に対処する問題となったのだ。
取り合えず、何でも相談出来るのはルチア・アルデールだ。
「ルチアちゃん、訊いた通り私は命を狙われたんだ。それで.......<ドラッグ・ファイブスターズ>には居ない......」
私が言い終える前に、ルチアの弾丸のようなワードが耳に突き刺さって来た。
「了解しましたレイジー様、この不肖ルチア・アルデール17歳が、ヒーラーとして加わります! 賊に襲われようと、私のBランク聖魔法と風魔法で、蘇生でも何でもやっちゃいますから!」
どやぁ!
まだ小さい胸を突き出していたが、BランクでもAランクでも、最上級の蘇生魔法は使えない。
「いやいやルチアちゃん、私はなにもルチアちゃんに頼んではいない訳だし、心当たりがないかと思って訊いたんだけど?」
「いいえ! レイジー様をしっかりお守りするのは、<アデリア>なんかじゃありません!」
『いいのか? 組合長を呼び捨てたよ、この子』
確かにルチアは、<ウインド・クレイドル>という魔法で、私とアデリア組合長を落下から救ってくれた。正直、有難い申し出ではある。
______ルチア・アルデールをチームに加えるにしても、バニラ達のように無給とはいかない。拠点をナイトメア亭に移しても、アンドロイドの娘達が人間では無いとバレた時に、言い訳のしようがないのだ。
「すいませ~ん! 私も仲間に入れて下さい!」
ズイっとルチアの横に新しい顔が出て来た。
「私には何のスキルもありません。便所掃除から肩もみ、お風呂に添い寝とお役に立てるよう頑張ります! ですから是非、レイジー様の仲間に。紅一点でチームにも華が必要だと思いますから」
「おい、便所の鼻くそデリーシャ、放課後に鍛錬場裏な!」
ひッ
ルチア・アルデールの目は笑っていなかった。
怖ぇぇ
『ウチにはジョーが居るんだし、ルチアが加わればヒューマン紅三点になるんだけど』
ルチアとデリーシャの頭二つが、並んで私は気づいた。この二人の髪には、同じ紅いヘアピンが付いていたのだ。それも赤い丸から放射状の赤い線......例えると海上自衛隊の旭日旗に似ていた。
考えるまでも無く、二人は顔見知りでデリーシャはよく冒険者組合に出入りしている。それに紅いヘアピンは、露店で買えるような品かもしれない。
<レイジー通信チャンネルOpen>
=バニラ、二人のヘアピンを詳細スキャン=
=あいあいぃ~父ちゃん=
......。
=チーン 出たよ父ちゃん。made in japanですなアレは=
そんな馬鹿な!
※<タマキン・エスケイプ> 一時的にいなくなる結果、男であって男でなくなる恐ろしいスキル。
およそ1週間効果が持続する間は、内股歩きになる。
そして......更に謎の効果があった。




