EP34 ハメリアとルルシアは異世界の地に降りた
______ここで私達が転移した異世界について、遅ればせながら触れて置くことに。
レティキュラム号が、最初に転移した軌道上から地上データを記録した時、日本がスッポリ入る程のマップが保存してある。
それはレティキュラム号が、軌道上に留まる事が出来たからだ。
こんな事を可能にしたのは、レティキュラム号にはGフィールドエンジンを搭載しているからで、このエンジンは惑星に重力が存在する限り、無限にパワーを供給出来るお陰なのだ。
これがもしロケットエンジンだったとしたら、レティキュラム号は異世界に飛び出した途端、引力に負けて船体は溶けながら地表に激突していた事も考えられた。
そんな事にはならないよう、脱出シャトルを搭載してはいるけれど、場合によっては私達は死んでいたかも知れない。
重力制御が出来るGフィールドエンジンによって、城下から離れた東の森奥深くに軟着陸出来たのは幸いで、そこは低級モンスターが跋扈する森。そして城下の人間なら踏み込む事がほぼない場所だった。
稀に初心冒険者が入口付近でスライムやゴブリンを相手にして、基礎練習をするような所だけれど、摂れる魔石が安すぎて今では殆ど敬遠されつつあった。
私も当初、ゴブリンの魔石を冒険者組合に持ち込んだ時、一個が10G(100円)と訊いて、周りの冒険者からもコケにされて笑われたものだ。
「来たばかりで知らないのは、仕方がない事だろ?」
ベテラン冒険者でも、森の奥深くまで入り込む事がない理由を私は知らないけれど、私達にはこれが幸いしていたのだった。
その北に少し足を延ばすと、初級レベルの空間魔法で移動出来るナイトメア亭のルルが、山菜や珍味なキノコを採った湖がある。
更に嬉しい事に我が女性陣達が泣いて喜んだ温泉、そう、大騒ぎしたあの温泉があった。それが存在しているのは確かだけれど、私はまだ彼女達を喜ばせてはいない。
「混浴、混浴って騒いだって、私だけが別に入れば混浴にはならないのに、あいつ等は浮かれて、妙な歌を歌っていたんだよな」
♪混浴 混浴スッポンポン♪
「何だそれは! 笑えるじゃないか。あいつ等って」
アンドロイド三姉妹までもが歌ったからだ。AI-myuシリーズとは、なんとも不思議な機能を持ち合わせているものだ。
デルモンド王国から南西は海。北に向かえばエスタリカ王国がある。真南も海に面していて、デルモンド王国は丁度ドラゴンの目のような位置にあった。日本の愛知県渥美半島のような感じだ。
北からは山の幸、南西と南からは海の幸を交易商人達が持ち込み、デルモンド王国は商人達にも人気の王国として栄えている。
温暖な気候と物流、望めば何でも揃うデルモンド王国。バイソンとモーリンが、オイスターの骨折りもあって、ここを選んで住み着いたのは、他にも理由はあるらしいけれど、一人娘のルルを育てる快適さを望んだからだそうだ。
◇漆黒の宇宙空間◇
emergency emergency
アラートの弱弱しい音と、電子音声だけが船内で鳴っている。
ロケットエンジンも生命維持装置も停止していて、ハメリア合衆国火星部隊は、全員が失神していてアラートに気づける者は居ない。
今、ハメリア合衆国のロケットは、やはりレイジー博士達と同様に異世界の軌道上にポツンと出現していた。
ただ違うのは、彼らのロケットはやがて惑星の引力に引かれて、落下を始めていた事だ。
引力に引かれた時点でセイフティ機能が回復し、オルガ隊長を含めた五人の隊員が集まっていたロケットの先端、これが自動で切り離された。
本来、これは火星着陸をする予定のシャトルだ。緊急事態と判断したシステムが、脱出シャトルとして地上に向かって切り離したのである。
シャトルのコンピューターにはマップデータは無く、ただシャトルは降下を続け、降りた先は南西の海岸近くだった______ハメリア合衆国火星部隊五人の生命は助かった。
______緊急脱出システムは、ルルシア帝国のロケットも同様で、やはり火星着陸はシャトルが兼ねていた。
彼等が無事着陸した場所は真南の海岸にある浜辺で、漁を生業とする漁民達を驚かせるには十分だった。
どちらの隊員も今は深い眠りについていて、目が覚めた時には、きっとここは地球かと間違える事だろう。
仮に火星に降り立ったとして、暫く活動をするにしても、水と食糧の積載には限りがある。更に四人乗りローバー、船外テントや環境生命維持装置なども積み込んでいても、火星一番乗りを証明さへすれば、それで任務は完了したのだ。
本火星ミッションは、それ程長居をする計画では無かった。
彼等に残された物はこれらの機材と食料で、私達と同じで当分シャトルの中で生活をする事になるだろう。
幸いにして彼等に海の幸は無料だ。食べる事には困らないだろうけれど、恐らく一番苦労するのは、原住民とのコミュニケーションになるだろう。
私は天才なので、カンバッチ型翻訳装置を作り対応出来ている。
条件は同じでも、ここで個人の自由を尊重出来る国と、他人を押さえつける国家主義とでは、それぞれ違う歩を辿っていく事になっていった。
______やがてレイジー博士とハメリア合衆国、ルルシア帝国が相対する日がやって来るのは間違いない。
その時私達は、どんな出会いになるのか。もう少しだけ先の話として舞台を戻す事にしよう。
◇レイジー印・新商品◇
私の疲れも回復して、いつものレイジーマイシンに、総合ビタミン剤を新たな商品として卸してみた。
ビタミン剤は即効性がある訳ではないけれど、異世界人の体には高い効果があると私は睨んでいる。
ルチアには、<錠剤で効果の緩いポーション>とだけ説明しただけだ。栄養不足の貧困層向け格安品なので、売れても薄利なのは仕方がない。
レイジーマイシンもビタミン剤も、もともと貧しい人用に作成していて、本当は金のある貴族向けではないので、商人として私は才能がないのだろう。
______「レイジーさんの新商品ですね、でも効果が分からないので、私も飲んでみてもいいですか?」
なるほど、ルチアの言う通りだと私は納得したのだ。
商品を勧めるなら、その効果を知らなければ嘘になってしまう。いわゆる試供品である。
「凄いなルチアちゃんは! それ一日一錠でいいから、試しに飲んでみて」
『ちゃんだってぇ』
ポォ~
時間は午前9時頃。本来なら二階から足音が聞こえる時間なのだけれど、今日の朝はルチアの背後にそれは既に居た。
ルゥ~チィア~
はひぃぃ!
冒険者組合二階の執務室は、まだ修復が終わっていない。自分で破壊し、居場所を無くしたアデリアは、受付背後の事務室に何気ない顔をして紅茶を飲んでいたのだ。
「おい糞薬師、しかも万年Fランクとは笑えん薬師。貴様、ルチアにだけ試供品を渡すとは、一体どういう料簡なんだぁ? ここの組合長が誰か、その呆けた頭蓋(いや~んハンサム)は忘れたとみえるな」
「別に忘れてなんかいませんけど」
<レイジーチャンネル通信オープン>
=会う度にイビリが酷くなっていくぞ。このエルフ、美人なのに本当に超苦手だよ=
=お屋形様、こういう手合いはガツンとイッパツ=
=そうだよ父ちゃん、やっちまいな=
=いけません二人共。相手はSランクなんですから=
=私が勝てる訳ないだろ=
=「「ご愁傷様」」=
マスターアデリアが暴れた後に、またこいつ等が暴れたら、間違いなく冒険者組合は音をたてて崩れるのだ。
止めたRenoは、流石に長女だ。
「その、なんだ、あたしも薬を試してやるから有難く思うがいい。さ、早く手渡しで、あたしの手をしっかりと握りながら直接渡すがいい。何なら腰を引き寄せてもいい」
?
このエルフを拗らせては碌な事がない。私は言われるまま、総合ビタミン剤を三日分、試供品として三錠を手渡ししたのだった。
『はあぁ~ん、レイジー様ったら! もうあたし貧血で倒れそう。ダメよアデリア、もっと言う事があるでしょ』
ギラッ
ひっ
「おい糞薬師、てめぇ、あたしが紹介したナイトメア亭で、やらかしたそうだな。い、一発二日の事だ、覚えがあろう!」
『いぃ??』
=ファイトォ イッパア~ッ=
=バニラ茶化すんじゃない。益々拗れるだろ=
=へぇ~い=
「※もといぃ! 一泊した深夜のアレだ!」
(※違ったの方言)
______アデリア組合長は、一つ間違えれば私達とバイソン家族も死んでいた。その事を言っているのだろう。
「はい、九死に一生を得たとは、あの事でした」
ほッ
「糞でも貴様に死なれては、高熱病の治療が出来なくなるんだ。精々用心しなくてはな」
あれ?私を心配している?
「そこで提案だ」
ニヤリ
=げぇ、悪い予感しかしないぞ、これは=
=父ちゃん、エルフが悪だくみの顔してる=
この後、美人エルフ組合長から出た言葉に、ルチアも私の娘達も偶然入って来たデリーシャまでが、猛烈なシュプレヒコールを始める事になってしまった。




