EP33 我、スペラーに宣戦布告する
______「バイソン、てめぇ知っている事は全部吐きやがれ!」
「ぐ、ぐるちいぃ」
鬼気迫るアデリアの気迫と暴力に負け、バイソンはアデリアに今までの事を、詳細に話さざるを得なかった。
「何だと! あの糞共が一発二日じゃねぇ、一泊したのは美少女の娘達に料理を見せている間に、年増とぉ 二人だけでぇ ムグぅぅ あの墓地に行ってぇ、ギリギリィ その深夜に襲われただとぉ!」
「......アデリア、おめぇ回りくどかったが、まぁそう言うこった」
『そっか、ではレイジー様は、あの墓石を見てしまったのね。だけど、あの年増と何も無かったとは言い切れないわ』
「それでアデリア、これからどうするんだ?」
ん?
「決まっている。忙しい中こんな所まで折角来たんだ。あたしはこれから久しぶりに墓参りに行く。バイソンとモーリン、お前達はどうする? お前達なら毎日でも墓に行っていると思うが?」
「一日に何回でもいいだろう。当然行くさ」
「そうよアデリア、昨夜も私達とってもいいところまで逝って......あらあら御免なさい、私ったらなんて事を」
ままぁ、ぱぱと どこへいってたのぉ~?
「ルルはもう少し寝ていなさい」
え~ つまんないの~
「ふん、娘の前だと言うのに相変わらずデレた事だ。それも冒険者を引退した理由の一つだったけれどな」
『まぁなんて羨ましい事!いつかあたしもレイジー様としっぽりと......あはぁん♡』
「アデリア、おめぇ少し変わったか?」
図星を指摘され、アデリアはモードを戻す。
「おい、早速だが墓地に向かうぞ」
「相変わらずだなアデリア、リーダーは俺だったんだぜ!」
三人がまだそれ程古びてはいない墓石の前まで来ると、道に咲いていた花を摘んで作った花束を置き、黙とうを捧げようとした時だ。
「ん? 墓石の名前が刻んであった所に、何か紙が貼ってある。何だこれは?」
「待て!それに触れるなバイソン!近くに寄ってそれを読んでみるがいい。何か書いてあるが絶対に触るなよ」
風に棚引く紙は、今にも風に飛ばされそうだった。
=<氷炎のザ・フォース>に告ぐ。薬師に関わるな。そうすればお前達には手をだす事はない=
何?
バイソンがそれを読んだ途端、紙はボロボロと崩れ風に舞って散っていった。
「バイソン、もしお前が触っていたらこれは読めなかった。読んでも読まなくても、証拠を残さないよう時限消滅マジックが掛けられていたんだ。いくらでも奴には手段があるのだろうよ」
「だが、狙いがあの糞薬師なら、襲った理由がわからんが」
てっきり元Sランク冒険者への憎悪と恨みだと思っていたのは、バイソンとモーリンだ。
「狙いは俺達じゃなかったってか?」
あらあら、そうだったの?
メラメラ
ズゴゴゴォ~
恋する乙女アデリア、大切なレイジー様を傷つけるどころか亡き者に。怒りを遥かに超えた滅殺のオーラが彼女から湧き出ていた。
「何だ何だアデリア? 糞なんだろ? アイツはよ」
『やっぱりレイジー様を襲ったのね。理由は分からないけど、断じて許してなるものか! 生まれて来た事を100万回後悔させてやるのよ!<我、ここに宣戦布告する!>』
この瞬間、得体の知れないスペラーは、恋するアデリアに抹殺される運命を負ったのだ。
アデリアはSランク。二つ名<アイス・アイ>に目を付けられて、逃げ延びた者など居ないのだ。
「必ず殺す!」
______そして話はもう少し進展があった。
「アデリア、あぁ今は冒険者組合ギルマスだったな。ナイトメア亭が襲われた以上、俺達も何か対策をしねぇと拙くねぇか? おめぇさんにはもう関係ねぇかもしれねぇが」
バイソンとモーリン。ナイトメア亭が俺達と一緒に消滅すれば、恐らくあの墓地はもっと荒れ放題になってしまったのだ。
未だに墓参りを欠かさないのは、デブーラ男爵家の執事オイスター・ケチャップとあと一人だけ。
「俺はまだ墓参りを続けてぇんだ。あいつには詫びて、詫びても足りねぇんだからよ」
「そうね、私達がここに移住出来たのは、オイスターの働きがあったから。そしてあの墓地に眠っているのは......」
「止めろ! もうその話はいいい」
三人には共通する過去があった。余りにも悲しく、そして余りにも激しい悔恨と共に。
「周りに敵がいる事は確かねぇアデリア。ルルに何かあったら困るし、そうねぇ、チームを再結成してリハビリするのもいいかも、ね、あなた」
「モーリン、その話は本気か? ならば三人でやり直すか? あの時のようにはいかんが。あたしは必ずスペラーを殺る。そして墓を守る為、バイソン、モーリン、あたしに力を貸せ!」
過去を断ちたい想い。今のアデリアにはそんな気迫があった。
「ふん、何を今更アデリア。俺達が断るとでも?」
『あらあら、どうもそれだけじゃないのよねぇ~、アデリアは』
クス
「いいわよ、私は喜んで。協力を惜しまないと誓うわ」
ふっ
「「これで決まりだ!!」」
______Sクラス冒険者<氷炎のザ・フォース>。ここデルモンド王国では、彼らの素性は全くと言っていい程に知られてはいない。彼らは噂でしか知られない伝説のスターなのだ。
◇音のない世界______サウンドレスワールド◇
漆黒の宇宙空間に居住リングを回転させ、一基の宇宙船が減速シーケンスに移行していた。
「エンジンリバース1sec」
______「ボス、そろそろ<マーズバニシング・ポイント>付近に到着しましたが」
ハメリア合衆国情報部エージェントJoeの発信電波を追って、火星部隊の五名はやっとその任務を達成しようとしていた。
「この辺りの筈だが、何かあったかポッター?」
ネガティブ
前方レーダーは、ずっと以前から何も捉えてはいなかった。
「ボス、これは空振りだ。宇宙船の残骸も何もありゃしない。プランB、火星着陸に移行した方がいい」
部隊副長トーラスが具申するまでもなく、プランAが消失したのならBに移行す事に隊員の異論は出ない。事も無かった。
「私はここからUターンしても構いませんがね」
「お前は気楽でいい。ポッター君」
ポッターの意見は誰でも思っていた事だが、軍人である以上、本国の命令には背けない。
「さて後続のルルシア帝国が、これからどう出るかだな。我々が火星を目指せば、途端に奴等は攻撃して来る筈だ」
お互いに攻撃ミサイルも装備しているだろう。ハメリア合衆国の宇宙船が減速した時点で、ルルシア帝国も減速を開始して、距離を保ちながら様子を伺っていた。
______「アレクサイ・ケツノアナコフ隊長、どう対処するつもりで?」
レーザー砲 最高出力でスタンバイだ。
冷酷で祖国の命令に忠実な男は、当然のように言い放った。軍人なら当然とも言える判断であっても、そこには一篇の情けも持ち合わせてはいない。
「うっ、本気ですかケツガクサイ隊長!」
「ロマノフ何故省略する。宇宙で何が起きてどうして消息不明になったのか、ハメリア合衆国の連中が知る事はないのだ。ここ等宙域には何もないのはもう分かった。ならば我らルルシア帝国は、火星着陸に切り替える。当然だと思わんか?」
アレクサイが欲しているのは地位と名声、そして金。祖国の為と嘘吹いていても奴の顔が物語っているのだ。
ロマノフ(本来、女性名はロマノア)=ナタリー・ダニーキは、ただ命令に従うしかない。戦場ならまだしも、ここは逃げ場のない閉鎖空間、それも漆黒の宇宙なのだ。
「......レーザー砲 Max Power スタンバイ」
副部隊長のウラワジミーナ、セルゲイ、ドミトリー隊員も無言で発射準備に取り掛かった。
「おいロマノフ、お前は頭脳だけで入隊したお嬢様だ。その虫も殺した事のないお嬢様に、トリガーを引く栄誉を与えてやろう。光栄に思うがいい」
『人を殺すのが栄誉? 一生苦しみを背負うだけじゃない』
レーザー砲の銃座にロマノフが移動、セイフティロックを解除し、トリガーに指が添えられた。
◇異次元の扉◇
「ボス!」
何だポッター、ルルシアに動きがあったのか?
「違うんです。動いているんですよ本船が」
おいおい頭は大丈夫か?
「減速し切れていない慣性だろうが。長旅でボケてちゃ困るぞポッター」
宇宙空間では宇宙船を完全停止する意味はない。それが減速する前の速度が出ていて、更に加速しているのだ。
異常はそれだけでは無かった。
船内のコントロールルームは、通常は無重力。その為に隊員はマグネットブーツを着用している。
「ボス、本船が向かっている筈の火星をロストぉ」
ぐわぁぁ!
ブーツの効果も無く、ポッターもオルガ隊長も、全員が天上に打ち付けられて動けないのだ。
「何だこれは!」
漆黒に漆黒が重なっても、そこにあるのは漆黒である。
火星をロストしたかのように見えたのは、全く違う現象が起きていたからだった。
「これは! ボス、我々の船が滝つぼに落ちていくような感覚です。更に加速して体が、天井にぃ あぐううう」
「この ミッション は 失敗 しっぱい し た 本国に 連絡 」
加速度で肺が押し付けられて、誰も声が出せないのだ。
やがてハメリア合衆国火星部隊は、ルルシア帝国宇宙船の前から消え去ったのだった。
◇追うルルシア帝国◇
______「ケツノアナガ ホゲタ隊長! 先行ハメリア宇宙船をロストォ!」
ロマノフに代わって、観測モニターについたセルゲイが叫んだ。
私は切れ痔 ダハァァッッ
キャァ~
おあぁっ
今度は、急な加速度が加わって、ロマノフが銃座から落ちて壁に押し付けられた。
「ちょっと待って下さい、我々の船が加速しています! 有り得ません。エンジンは停止しています」
馬 鹿 な!
この後、隊員五名を乗せたルルシア帝国宇宙船も、ハメリア宇宙船同様の事態に見舞われ、暗黒の宇宙へと消え去っていった。




