EP31 長女メイドRenoの秘密☆
______バニラと桔梗の両腕の交換作業が終わったのは、あれから三日が過ぎた早朝だった。
ジョー姐さんとRenoが作った薬<レイジーマイシン>を、卸しに行くにはまだ早い時間だ。
ふあぁぁ~眠いぃっス。
私にとって、腕の交換だけで終わったのは幸いで、もしモーリンさんの極冷凍魔法<アブソリュート・ゼロドライヴ(AZD)>が無かったとしたら、桔梗とバニラは自身が暴走させたプラズマ重核子エネルギーで、その体を焼失していたかもしれない。
「バニラ・アイスと桔梗の二体は、自分を犠牲にしてでも私を救おうとしてくれた。だから私は絶対に治したかった。口に出すまでも無く、もう私の家族だからだ。それもとても大切な、人と変わらない可愛い娘達」
交換作業に使った<保毛坂48>ナンバー47と48の個体は、可哀そうだけれど、いづれまた修復すればいい。
ちなみにRenoが個体ナンバー1である。
ところで修理が無事終わったとは言え、元はレティキュラム号建造用アンドロイド<保毛坂48>と、桔梗、バニラ・アイスはAIだけではなく、少しずつその仕様が異なっている。
桔梗とバニラの腕も、Renoと見比べれば分からない程度に、それぞれ微妙な差がある事が分かった。
ふぅ、やっとリペア終了。
殆ど不眠だった為、私はこの三日間で好きだとは言え、ドウシタモンジャロ・ブラックコーヒーを何杯飲んだ事だろうか。
「何杯目?」
「30杯です」
Reno、お前数えてたんかい?
「私がお出ししてましたので」
な~るほ
それにしても、カフェインの摂り過ぎは良くない。嗜好品は何でも程々がいいのだ。
______「バニラと桔梗、交換した腕の具合はどうかな?」
「これなら問題はありません。主様、しかしこれは?」
「違和感がちょっとね。でも大丈ブイ! でも父ちゃん博士ぇ、変なもんが付いてるぅ」
あぁ、それはですね。
Renoが何か言いかけたが、今はそれを気にする余裕が私にはなかった。
「また後でね」
両手を失なったとなると、人間ならメカニカル・アームを選択するか、拒絶反応がある危険な生体移植手術になる。アンドロイドならではの交換作業で済んだのだから、私の心は今までの疲れを忘れて、体中が喜びで溢れているのだった。
「あ、誰かドウシタモンジャロ・コーヒーを93℃でもう一杯。それと新製品のレイジー印ビタミン剤も飲んどくよ」
「主パパ、これ以上は......」
「では、全快祝いを兼ねてこの身が」
「私がやるぅ。昔は私が出してたんだからね、ずぅっと」
桔梗とバニラの腕の調子はいいようだけれど、ここはまたRenoに任せた。
「あの、主様パーパは飲みすぎです!」
「人間はね、嬉しい時も飲みたいものさ。酒じゃないんだからさ、ねッRenoちゃん許して」
もう私は知りません!!
何だかんだで、Renoも私を心配してくれているのが分かる。
「では主パッパラパー様、大変、大変疲れているのに、そこを無理に無理を重ねて薬を卸しに、あんなどうでも冒険者組合に、どうしても這いずってでも、血反吐を吐きながらでも、前に向かって出向かれますか? ここ三日の間、ドツンツンアデリア組合長の機嫌が最悪だったと、かぶらがほざいておりましたけど、またかぶらに行かせればいいとRenoは愚考の限りで御座いますですよ。アカンベェ~☠」
「珍しく長いセリフだなReno。お前、そんなに多弁だったのか?」
ジーィィィ ジーィィィ ジトォォ~
フゥ~シャーァ
Renoのヘッドドレスが、逆立っていた。
猫かい
Renoの瞳が私に行くなと言っている。
「ドツンツン組合長はいつもの事だろ?」
「今日の運勢は最悪と、キッパリはっきり出てますので」
「どこの異世界占いだよ。じゃあReno、私はそろそろ行くから」
ま、待って下さい!
ポロ
私が冒険者組合に出かけようとすると、偶然、私の白衣を掴んでいたRenoの肘から先の右腕が外れたのだ。
「ちょっと待てReno、どうして外れるんだ?」
「お屋形様、違和感があるけれど、桔梗のは外れないが」
「バニラちゃんのは.....」
ポロ
「あぁ外れちゃったよ、父ちゃん」
外れた腕をまた元に戻すと、Renoが自分の秘密を暴露し出した。
「実はですね」
考えてみれば、Renoは私の両親が設計し組み立てた個体で、詳細は私も知らない部分がある。
「Renoは仮にも主様のガーディアンです。その私が、なんの装備も持っていないなど、全く有りえ ません!」
あの控えめなRenoが言い切ったよ!
確かにメイド姿のRenoは、今までナイフ一本すら装備していなかった。
何か秘密があるのだろうけど、冒険者組合には早いお客なら、もうルチアの窓口に並んで待っているのだ。
「悪い、もう出かけるから。多分執事のオイスターさんが一番で待っているだろうし」
そう言い切ると、私は扉を開けて冒険者組合に向かって歩き出した。
「仕方がありません。ではRenoが同行します」
「あ、桔梗とバニラちゃんはお留守番。冒険者組合で腕ポロは拙いだろ。それとジョーは、そろそろ三馬鹿トリオの採血を頼むよ」
えぇ~嫌だなぁ~ボクぅ
「分かってます、分かってます。異世界の人の為に、ボクだって役に立って見せるのよさ。けれど三馬鹿は苦手なんだよぉ~わかるぅ?」
知らん!
______午前9時過ぎの冒険者組合執務室
『遅いのよ! 遅すぎるのレイジー様わ。今日こそお顔を見ない事には、あたしのリミッターが暴走して大変な事が起きるの』
冒険者組合長アデリア180歳は、超少ないSクラス元冒険者だ。
昔組んでいたチームでは前衛を務め、Aランクモンスターなら、一撃で沈める事が出来る程だ。
その拳にはイライラが凝縮したかのような闘気がどす黒く纏わりつき、レヴカウンターは、レッドゾーンに達していた。
必殺拳<マグナム・ドライヴ>は、アデリアの攻撃技の一つである。それが今にも火を吹こうとしていた。
「もう駄目だ。右手の制御がこれ以上出来ん。これでは執務室や二階が軽く吹っ飛んでしまう。くぅぅ、どうすれば」
ガチャ
「アデリア組合長、お約束した通り甘い菓子を持ってって、何してるんですかぁ!」
ドグァ ガガァ~ァン
おあぁ
アデリアが思った通り、執務室が破壊されて二階の半分が吹っ飛んだ。
ガラガラ
私は自由落下に身を任せ、破片と一緒にフロアへと落下していったのだ。
『私の人生はここまでだった』
人生のジ・エンドなど、いつどこで来るのか分からないのだ。
ただそれが異世界だったと言うだけの話。
「ウィンド・クレイドル!」
目を開けると、私より先にアデリア組合長が落下していて、私は組合長に覆い被さるように、ゆっくりと落ち葉の如く落ちていった。
ムニュゥ
これは不可抗力的緊急避難と言うもので、私には何の落ち度も無い筈である。刑法にも確かちゃんと書いてあった。
フロアに落ちた時、私の両手はアデリア組合長の双丘を揉んでいたのだ。
モミ
ご、誤解です。これは事故でしょ!
アデリア組合長の顔面は真っ赤、しかも私の唇が触れる程に接近していた。
幸運な事に? 突然の爆発に慌てたジョーがすっ転んで、私の頭蓋を上からプッシュしてくれたのだ。
ブチュゥゥ
柔らかくて、それでいてデリシャスなサクランボ。
私の唇とアデリア組合長の唇が......これ以上は言えない。
フロアの時間は停止し、周りの客と冒険者達は唖然として私達を見つめているだけだ。
『ウィンド・クレイドル!って魔法なのか? 一体誰が?』
チラリとマジック・ロッドを持った少女の姿が目に入って凝視すると、それはルチア・アルデールの姿だった。
「アデリア組合長、これで何回目ですか? 冒険者組合がボロいのは全部、組合長のせいですからね!」
アデリア組合長の暴走は、過去にもあったみたいだ。
「いつまでレイジー様とくっ付いているんですか!組合長!」
『おっとと、ボクもそれを言いたかったのよさ』
うっ
嫉妬したジョーより、ルチアが先に爆発していた。そしてマジックロッドを持っている所を見ると、今の魔法はルチアが発動したのだろう。
我に返ったアデリア組合長がやっと声を上げた。
あへぇ
「き、貴様ぁ、いつまでそうしてるんだ。あたしの胸を両手で揉みたくり、挙句にXXまで奪いおって! この責任をどう取るつもりだ。まぁこの件については、また日をだな......そうだ大安吉日がいいだろう。今回の爆発は事故だからな。決してあたしのイライラ暴発ではないぞ! 覚えておけ!」
私にはアデリア組合長が何を言っているのか、さっぱり理解できなかった。異世界に大安吉日があるのも❓ だけど。
幸い、お客や冒険者達とレイジーマイシンも無事だった。
手慣れているのか、組合員たちが手際よく修理を開始したが、これでは以前より酷い組合になる事だろう。
『......やってしまいました。これはレイジー様が全部悪いの。アデリアは悪くないの。でもどうしよう......この燃える想い、モーリンに相談してみよっか』
今日はRenoが言った通り、私の運勢は最悪だった。
「Reno、御免」
「だから私があれ程言ったのにぃ!」プンスコ プン
Renoは激オコだった。




