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EP30 ナイトメア亭の秘密と恋する乙女


 傭兵B+スペラーがナイトメア亭を襲ったのは、やはり深夜の二時。人が一番警戒の緩む時間帯なのだろう。

______「お、おめぇ達、怪我はねぇか!」

「あらあら、丁度間に会って良かったわぁ、ねッ あなたぁ♡」

大将はパンツ一枚、モーリンさんは、肌が透けそうなネグリジェだけで飛び出したみたいだ。

 ままぁ~ おしっこぉ~


『ルルちゃんはまだ眠気眼。ひょっとして、バイソンさんとモーリンさんは、あの時間に......。いかんいかん、夫婦なんだから当然の事だし、私の妄想と百八の煩悩の出番はないよな』


「主......パパ、バイソンさん達は皆、ご覧の通り無事でした。襲われる前に、リズミカルかつ不規則な振動波が、10分程続きましたけれど」

『10分......Renoがさり気なく状況把握をしているから間違いないな、こりゃ。百八だろうが二百十六だろうが煩悩退散!』

 むん!

「何二ヤついてんだ? おめぇ」


「いやいや、そうでしたか良かったです。私も轟音と風で、今気づいたばかりでして。何がなんやらで理解が不能ですよ」

 ふむ?


 姐さんのジョーは何事も無かったように、グースカと寝息を立てていて、Renoも流石に『この年増、ドツイタロカ』って顔をしていた。

「流石にもう起こしてあげなさいReno」

「はい、ではこういう事もあろうかと、持参した1トンハンマーで。これは効きます」


 いつの間にか、Renoの右手には巨大なハンマーが握られ、仁王立ちのRenoの姿があった。

「Reno、お前はタウンハンターの香かい!それに軽く死ぬだろ」


「ほうこの年増、肝が据わっているんだか、大したアマだぜ。モーリン、取り合えず結末だけでも話してやれ。細けぇこたぁ、おいおいすりゃいい」

 そうねぇ、それが早いかも。

『えっ、ハンマーの事はスルーですか?』


 どうやらこの夫婦、何かを知っているのかも知れない。

「結論から言えば、あれは私のS級極冷凍魔法<AZD(アブソリュート・ゼロドライヴ)>ですわ。お恥ずかしい」

 その言葉で、リアクションをどうしたらいいのか、私は直立不動のままで、やっと口だけ開く事が出来た。


「って事はですよ、モーリンさんはエス、Sランクぅ!」

 あらあら、バレてしまいましたわぁ。どうしましょ、あなたぁ。

「しやねぇだろ」


 あんぐりポカーン。

今の私に相応しい言葉である。

私もルチアから、その最高峰ランク冒険者の存在は訊いて知っていた。しかし、そのSランクとこんなにあっさりとご対面するとは、まるで思ってもいなかったのだ。


「おい、いつまで腑抜けた顔してボーっとしてる。ところで、後二人の美少女の娘達はどうした? まさかあの魔法に巻き込まれてんじゃねぇのかモーリン?」

 あらあらえ~と。


「それがねぇ、私がネグリジェ一枚のほぼスッポンポンで飛び出した時は、気づきませんでしたのよ。無我夢中で<AZD(アブソリュート・ゼロドライヴ)>をぶっ放してましたから」


 あの爆炎魔法天地爆裂励起(アマゾン)が、ナイトメア亭を直撃する寸前に、モーリンさんでも詠唱中に二人の存在を確認する余裕は無かったのだ。

両腕が溶けかけたバニラ・アイスと桔梗を見られなかったのは、これは幸運と言うしかない。

もしモーリンさんに見られていたら、どう言い訳をしたらいいのか、私は分からないのだ。


 しかしバニラ・アイスと桔梗の両腕を、あのままにしておく訳にはいかない。私はこのドサクサの中、急いでレティキュラム(キャンプ)に戻ると言って、深夜にも関わらず美味しい朝食を食べそこなったナイトメア亭を後にした。



______私達を見送る姿の中に、バニラ・アイスと桔梗の後ろ姿を確認すると、バイソンは安心すると同時に、ある疑問も沸き上がっていた。

「モーリン、あの美少女二人は、あの時間にどこで何をしていたと思う? げぇ、まさか、俺達を覗いていたんじゃ?」

 いやぁ~んダメよダメダメ。あんな事やそんな事まで見られてたなんて。


 ままぁ おしっこぉしたい~。ぱぱとままは、なんのおはなしぃ してるでしゅかぁ?

はっとして顔を見合わせるパパとママ。幼い子に教育するにはまだ少し早いのだ。それで二人が言う事は同じであった。


「「ルル、もう寝なさい。パパとママはまだ忙しいの」」

 ふたりで なにするのぉ~?



______安宿ナイトメア亭の店主と妻のモーリン。その正体は引退した元冒険者、それも冒険者の最高峰Sランクだったとは、衝撃の告白でしかなかった。


 二人は、寒い北方の王国を活動拠点としていて、デルモンド王国では彼等Sクラス冒険者は伝説のような存在であり、素顔を見た者はいなかった。


「モーリン、俺達は昔いろいろあったな、ルルが生まれる前に冒険者を引退して、暖かいこのデルモンド王国にやって来たんだ」

「そうそう、宿屋を経営しながらのんびりと子育て......それが私達の夢だったわね。でもお客様はさっぱりなのよねぇ、それは誰のせいかしら? あ・な・た」

 うっ


 仮にも王国お抱えSランクの冒険者である。そこらの貴族よりも多額の報酬と住まいを与えられていたのだ。恐らく子爵以上と考えられる好待遇で、Sランクとは、それ程の存在なのだ。

 安宿ナイトメア亭は、G(ゲローナ)には困っていなかったから、商売抜きで客を選べたのである。


「しかし、ナイトメア亭が狙われた理由は何だろうな? 俺達がここに移住して六年経つが、こんな事は初めてだ。モーリン」

 そうねぇ、目立たないように静かに暮らして来たのに......思い当る事が。ねぇよなぁ~」


◇◇

 ナイトメア亭の視界から、私達が見えなくなったと確信すると、私とジョーはRenoと桔梗に背負われて、レティキュラム号を目指した。

 何しろアンドロイドの娘達は、最高時速80kmは出るのだ。多少揺れるけれど、私の心は焦っていたが深夜と言う事もあって、途中目撃される事もなく無事に帰還する事が出来たのだ。


 ウェップ

「うぇぇ~気持ちワルぅ~ボク吐きそう」

あんな事態でもグースカ寝ていられる姐さんより、今やるべき事はバニラ・アイスと桔梗の腕を修理する事だ。

生体アダマンタイト合金が融解する程の熱量。もはや腕を作り直すなんて事はしていられない。


「主様、私はこのままでも」

「駄目だ。桔梗の抜刀術が、それに妖刀ムラムラが握れないだろう?」

「パパぁ、私も金ダライが持てませ~ん。修理キボンヌ」

 そ、そう来るよな お前って奴は。

 でへ

 褒めてないよ。


  挿絵(By みてみん)


 今戦力ダウンとなるのは厳しい。ジョーとRenoだけでは、薬の製造を含めて支障が出るのだ。

良案はないものかと思案する私にRenoが囁いた。

「ありますよ。腕なら」


 Renoが何を言ったかと言えば、レティキュラム号に眠る<保毛坂48>未起動の47体の事だった。

まだ起動する時期では無いのか、47体はずっと格納庫の中で眠り続けているのだ。

「各パーツはRenoと同じですが、桔梗とバニラ・アイスには多少の修正が必要となるでしょう」


 私はその提案に飛び付いた。

「よし、応急だけどやろう、すぐ。ジョーとRenoには、レイジーマイシンとビタミン剤の製造を任せる。明日納品の薬も切らす事が出来ないからな。頼むぞ」

 やるわボクも


 私は早速<保毛坂48>の格納庫に走った。

 暗闇に佇む47体は、圧巻でそら頼もしくもある。

「父は47体をどうするつもりだったんだろう」


 私は製造ナンバーの最後、ナンバー47と48を選んで腕を4本取り外す作業に入った。ちなみにナンバー1はRenoだ。


______全ての作業は私一人と、船内AIアシストで行う。

「これだけの作業は、どう考えても三日以上は必要だろう。暫くは冒険者組合とナイトメア亭にも顔を出せない。薬の納品だけは、ジョーに頼んでRenoに護衛を頼むしかない」


 そんな理由とは知らないのは、アデリア組合長とルチアのいる冒険者組合だ。

「えぇ~、どうしてレイジー様じゃないんですかぁ~」

ここのところ午前9時には顔を出すアデリアも、三日も顔を出さないレイジーに激怒して、大荒れになっていたのだ。


 毎日のように朝から酒を飲みに来る、姐さん目当ての三馬鹿トリオのジャッカル達も、でかい体が災いしてアデリアのサンドバックになっていた。


「ジャッカル、メンマ、チャーシュー! てめぇら朝から酒ばかり飲みくさって働きやがれ! 糞が」

ドボぅ ガスぅ メキャ

 Sランク冒険者の拳は、手加減しても重すぎる。

 ゲフぅ

 ウガァ

 ゲボォ

 冒険者組合のボロい扉を突き破って、三馬鹿は瞬時に見えなくなった。

「その程度か腰抜け共が。扉の修理代はあの役立たずに付けておけ。分ったなルチア!」

 はひぃ


「ひでぇ、アデリアは最高にオコだぞ」

「ヒステリーか更年期ってとこか?」


 ギラァ!

「てめぇ等! 地獄をそれ程見たいようだな?」

 ひぃぃ

こうなったアデリアを止められるのは、もうレイジー博士しかいないのだ。

そんなアデリアの乙女心の内を、ジョーが知る筈もない。


「ルチアちゃん、明日は兄貴は来ると思うけど、組合長っていつもより酷いよね。あんなの兄貴が見たら、ドン引き大セールかもよ」

 はぁ、そうですよねぇ。


 耳のいいエルフは、この言葉を敏感にキャッチしていた。

『ひッ、明日は会えるのね♡ お、おしとやかにしなくっちゃ』

二階の執務室に戻るアデリアの足は、スキップをしているように軽やかだった。

「怒るとああか?」

「分からん。いつも怒っているからな」



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