EP29 爆炎魔法天地爆裂励起(アマゾン) VS AZD
______レイジー印・ドラッグストアで販売する、商品製造に欠かせない機械類を運び終わると、私は課題となっているレティキュラム号を、<魔の森>の中にある北の湖に隠ぺいする段階に入って来た。
ナイトメア亭で借りた二階大部屋の中は、バイソンやモーリンさんには見慣れない機械類が占領して、それが時折点滅したり音を出したりしていた。
「魔素で動かす魔道具みたいな的な? そんなものですよ大将」
ほぉ
「なんとまぁ妙智希林だな。全く何なんだこの部屋は?」
薬師がどうやって薬を作るのか、私達が作る方法は異世界のそれとは大きく異なっているからだ。
「お前薬師だろ?ポーションとか、こんなもんでどうやって作るんだ?」
「あらあら、薬草はどこにあるのかしら? 見あたらないわね」
ぱぱぁ、ままぁ、このへや へ~ん
バイソン大将やモーリンさんに、ルルまでが抱いた疑問は当然だろう。
______私はポーションの製法を知らない。
従って作れるのは滋養強壮剤や胃腸薬、火傷傷薬みたいな物になるだろう。
桔梗が、デブーラ男爵家執事のオイスター・ケチャップは、腰の痛み止めに薬草のシップ薬を貼っていると言っていたので、お年寄り向けには、チャロンパスも品揃えに加えてもいい。
必要な薬は安いなら売れるし、高額な薬は欲しくても売れないだろうから。
以前閃いたように、常備薬セットを各家庭に置いてもらう<富山の置き薬商法>も、将来的には視野に入れているのだ。
これは異世界にはなかった画期的な手法で、皮算用だけど高齢者世帯には、大いに歓迎されれるだろうと思うのだ。
それになんと言っても、自慢の美少女達が時折、家庭を回って代金を回収、薬の補充それだけでも、孫みたいなもので高齢者は嬉しいものなのだ。
「その辺は、個性があり過ぎる娘達に、営業スマイルと社交辞令と言うものを、AIに良く叩き込んでおかなければならないだろう」
ふぅ。
AIは文句が出ない程超優秀なのに、プログラムのせいもあるけど、個性的過ぎる性格に私は文句を言いたいのだ。
まぁしかし、今更プログラムを見直すつもりは無いけれど、夢と鼻の穴が膨らむ私であって全てが順風満帆、異世界で暮らす準備は着々と整い始めていた。
『経営が安定したら......私もいい年だ。そろそろ考えてもいいかもしれない。この異世界にそんな人がいればだけれど』
そんな心配をせずとも、ジョーやアデリア組合長と言う有力な候補が既にに存在しているのだが、いかんせん個性があり過ぎるのだ。
その他にも、ルチア・アルデールと未確認だけれど、デリーシャも怪しい雰囲気である。
______本格的にナイトメア亭で薬を製造するのは、レティキュラム号を湖に沈めてからで、取り合えず私は機械装置のメンテを行い、その晩はナイトメア亭に泊まる事にしたのだった。
「ちょっと兄貴ぃ。私の夕ご飯と明日の朝食は、今日はここで泊まって食べてもいいよねぇ、ボクのエネルギー源なんだからさ」
「しゃあない。俺は薬品製造用の機械室で寝るから、ジョーはWベッドで寝ればいいよ」
『それはそれで複雑なのよねぇ、ボク』
アンドロイドの娘達は、毎日どこかで食べている事にして、基本的に朝食と夕食を摂るのは、私と姐さんだけになっている。
バイソン大将とモーリンさん、ルルにまで何だか不信な目で見られているような気がするのは、当然だろうと思う。
そんな心配も、<レイジー印・ドラッグストア>が、ナイトメア亭の隣にでも開店して引っ越せば解決する訳で、それまでは辛抱すればいいのである。
◇災いは突然向こうからやって来る◇
搬入したばかりの機械に何かあってはいけない。その晩の屋外警戒を、バニラ・アイスと桔梗に任せると、私とジョーはそれぞれ大部屋で疲れた体を休めていた。
Renoは護衛だと言って、私の傍らで控えているが、黙って座って居られると、見慣れていても暗闇では少し怖いものがある。
何故かって、Renoの瞳センサーが紅く光っているからだ。
『暗闇に光る紅い目。これではバイソン大将でもビビる事、間違いない』
______ナイトメア亭近くの森、木々の裏影に潜んでいた一人の男が呟いた。
「俺様に声が掛かったにしても、爆炎魔法一発だけで終わりとは、楽勝すぎる依頼だが」
身を潜めているのは、エイプ子爵に雇われたB+ランク傭兵で、限りなくAランクに近い攻撃魔法を得意とする一匹狼だ。
「俺の熱い必殺技を、とくと味わうがいい」
この男の魔法はヘルファイアーボールより強力な、オリジナル・スペルで、ここで使っても術者が誰なのかを知られる事はない。
そして才能はあっても性格が酷く歪んでいて、冒険者としてチームを組めなかった男なのだ。
金を積めば何でもやる。それがエイプ子爵が選んだ理由だ。
「こんな依頼で100,000G。さて、そろそろ始めるとしよう」
男はそう呟くと、深い赤色をした魔石付のマジックロッドを天に翳し、凶悪な詠唱を始めるのだった。
ブ~ラン ブ~ラン
ウンコデタァ~
「糞ウサギ!」
「桔梗、誰か居る!」
カミィガァ ナクゥティェモウ アワァ ティルナァ
フゥゥゥ~ン
ブリット コキャァ セェィ クイモナクゥ
イッペン ノォコォサズ ス ベ テェダセェ
ア~マゾォォン!
はぁぁッ!
オリジナルスペルにして術者最強の熱量、ヘルファイアー・ボールの強化版<爆炎魔法天地爆裂励起 >である。
帳の降りた夜空に、まるで便器の蓋が開いたかのような茶色い空間が出現し、醜い咢が口を開いていった。ゆっくりと、ゆっくりと。
ギギギギィ
やがてとぐろを巻いたような高熱の塊が、下痢のような悪臭を伴ってナイトメア亭の上空を支配した。
しかし直ぐにナイトメア亭を直撃し落下しないのは、まだ出るからだろう。
「ブーストォ!」
プぅ~
「チッ不発か、久しブリの最大スペルだ、まぁいいだろう」
______!!!
「「「来る!!!」」」
桔梗、バニラ、Reno三体の娘達の反応は早かった。
「主様はRenoに任せて、糞ウサギと私でプラズマ重核子エネルギーを照射して、あれと相殺するぞ!」
分かってるって! でもかぶらは?
「今は我が主様を優先する!」
「プラズマ重核子エネルギーを両手に込めろ糞ウサギ! 腕が溶けてもな!」
キュウゥゥア~ン ズァ~ボボ ドロォ~
「発射出力まで2秒、1秒、桔梗、腕が! もう間に合わないぃ」
とその時だった。
「AZD!」
-273℃の極冷凍波と高熱波が激突、轟音と共に水蒸気が一面に立ち込め、辺りは暴風と霧の世界となり、暴風が男を吹き飛ばそうとする。しかしマジックロッドを地面に突き刺し、姿勢を低くして耐えていた。
「グぅ、あれは伝説のS級極冷凍魔法 AZD!いったい誰が?! 糞が、B+ランクの俺様では勝機が無くなった以上、ここは撤退するしかあるまい。楽な依頼だと思っていたが、これでは相手が悪すぎる」
______「逃げたか?」
「うん、逃げた。まさか追わないよね桔梗」
当然だ。
今はレイジー博士の身が心配なのだ。バニラと桔梗は宿屋の二階へと駆け込んでいった。
クゴオォォ
猛烈な風と水蒸気が、深夜のナイトメア亭を揺らす。
「何だ、どうした?」
私が目を開けると、何かが私に覆い被さっていた。
「Reno、お前か?」
はい
緊急事態にRenoは、自分の身を挺して私を庇っていたのだ。
「何者かが......恐らく魔法による攻撃でした。桔梗とバニラが迎撃を試みましたが」
魔法? どうしてそんな事に?
「お父ちゃぁん」
「主様ぁ」
飛び込んで来たバニラ・アイスと桔梗の両腕は、よく見ると溶けかかっていた。
「お前達、どうしたその腕は!」
二体の肘から先が、蝋が溶けたような醜くい有様になっていた。
「AI-myuが攻撃魔法の発動を予測出来なかったのです。しかし突然、別のマイナスエネルギーによって助けられました」
詳しい話は後にして、まずジョーとナイトメア亭のバイソン家族の安否確認が先だ。
「Reno、下の確認は無事なお前に頼む。ジョーは私が確認するから。それとバニラと桔梗、万が一、その両手を見られるのは拙い。ここに居てくれ」
くっ、何とも不甲斐ない事だ。
でも危なかったぁ~
いったい何故攻撃され、誰がナイトメア亭を守ったのか、それを知る者は居るのだろうか。
◇AZD◇
魔法の発動予兆に気づけるのは、魔法に秀でた者にしか出来ない芸当だ。
私はアンドロイドの娘達は、異世界では無敵とは言わないが、かなり強いと自負していた。しかしそれは間違いだと理解した。
『娘達が強いのは、対物理攻撃に限定されるのだと言う事。これは早急に対処すべき問題だ!』
______傭兵の長いオリジナルスペルのせいで、発動の予兆と魔法の種類にいち早く気づいた者が居たのなら、それはここナイトメア亭の住人しか考えられない。
「あの魔法攻撃を察知出来るのは、ここに居る人間だけだ」
私達にとっては突然、降って沸いた災悪だったのだけれど、一つだけ私の計画の後押しとなった事がある。
それは深夜にも関わらず、<眩い金色と七色の光>が、轟音と共に地上に降り注ぐのを見たと言う冒険者や、デブーラ男爵家の使用人達の証言があった事だ。
翌日の冒険者組合でも、朝からその話題で大いに賑わう事になった。
ルチアもその話を訊いた途端、内心穏やかではなくなり、今にも早引きを申し出たいと思っていた。その申し出先が隣に立っていた。
「ルチア、お前、何をそんなにそわそわしている!」
はひぃ
『その話、ナイトメア亭の方角じゃない! レイジー様の身が心配であたしの心臓が......破裂しそう』
ギラァ
「貴様ら! 朝から寝ぼけた与太話なんかする暇があるのか? 糞共!さっさと稼ぎに行きやがれ!」
真っ赤な顔をして、通常運転で誤魔化したようだが、告白できないアデリアは、純情な乙女そのものであった。
乙女なアデリア組合長とルチア二人が、私を猛烈に案じているとは知らず、私は一人ほくそ笑んでいた。
「これは! 案外いけるかもしれない」
と。




