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EP24 花嫁修業ですってぇ!ついに来たの この世の春がぁ!


______「早速だがご覧の通り、客はおめぇ達だけだ。晩飯の支度までにはちょいと時間があるからな。まずは自己紹介といこうか」


 私達は六人が座れる食堂の椅子に座らせられると、強面店主が後からドカっと座りこんだ。椅子が小さく見えるし、壊れそうな勢いである。

それを見て、たぶん奥様が店主の横にそっと立った。

『うむ、<内助の功>とは常に一歩下がって、主の傍らにあるのだ。実に武士道を心得た奥だ』(今なら発想が男尊女卑と言われるだろうか)



「俺は<ナイトメア亭>店主バイソン・ドラゴ。それと」

「妻のモーリンです。ようこそ<ナイトメア亭>へ。

 こんな強面でマッチョな恐ろしい男に、何故これ程の美女がと思うほどのミスマッチな絵ずらである。


「あの奥様はエルフですよね?」

 あ、はい。

『完全に美女と野獣だよこれ。怖いけれどアデリア組合長も、とんでもない美女エルフだったしなぁ。エルフって凄いや』


「お父うの目尻が下がって、鼻の下がビロ~ン」

「あ、兄貴ぃ、ボクと言うものがありながら!」

「かぶら!怒るのはしばし待て。相手は人妻だ」

 制したのは桔梗だ。

「だけど後で尻が二つに割れる程、蹴ってやるがいい」

 そ、そうだよね。(納得の犠牲者ジョーとバニラ、Reno)


 そこへ、さっきの少女もチョコチョコとやって来た。挨拶をするつもりなのだろうが、流石に経営者の娘は違う。

「娘のルルでぇ~す。山菜採りと給仕係でぇす。よろしくぅ」

 ペコリ

『なんて可愛いんだ!!しかもハーフエルフで母親譲り!』


「とても礼儀正しい娘さんだ。私も前からこんな可愛い娘が欲しいと思っていました」

 あはぁはは

 私は笑って誤魔化したけど、これは本音だった。


『レイジー博士は子供が欲しいんだ。じゃぁ相手はボクしか居ないじゃん!それはつまり、ボクが妻になるって宿命の未来じゃないの?』

 ポッ

「おいかぶら! メスホルモンがダダ漏れているぞ。おむつはどうした?」


 娘を可愛いと言われて怒る親はいない。

「オッ、分かるか客人!ルルはなぁ、ルルはそりゃぁ」

 バチィン

 おぁぁ

 今の音はモーリンさんの張り扇の音だ。あぁエプロンの中に隠しているのか。


「あなた、しっかりしなさい!久々のお客様の前ですよ」

『あっ、強面が尻に敷かれてるぅ。エルフってやっぱり怖ぇえ』


「それでは、私は冒険者Fクラスのチーム<ドラッグ・ファイブスターズ>リーダーのレイジー・タチキ。ご覧の通りの薬師です。じゃあ次、順番に自己紹介して」

 白装束はやはり薬師か。


「ボクはレイジー兄貴の義理の妹、ジョーだよ。よろしくなのよさ」

『ふ、その正体は未来の妻なんですよ』

 妙な黄色い帽子を被った年増か。だが何かを感じる。


「私はReno。長女にあたります」

 義理?あたる?ヘッドセット?

「私は桔梗。お屋形様の次女だ」

 お屋形様とは?何だあの見た事もない長剣は。


「末っ子のバニラ・アイスだよん。ねぇパパぁん」

 むぅ、頭がお花畑のような軽いノリだ。金ダライと麦藁帽子が気になるが。

『やはりこいつ等、只者ではないな。でなければマスターアデリアが、こんなおかしな奴等を紹介する訳がない』


 店主バイソンは仕方なくではあったが、取り合えず収入に繋がった事と妻モーリンの手前、一応の客扱いをする事にした。


「覚えておこう。後で宿帳に書いておいてくんな」

 客扱いになっても、店主の高圧な態度はまるで変わっていない。


「その頼みと言うのは厨房の手伝いでして、Renoと桔梗、バニラの三人に料理と言うものを教えて貰いたいのです」


「そりゃぁ、甘いってもんだぜ兄ちゃん、料理道が一日で極められると思っているのか? やはり俺の目は狂っていなかった」

そりゃぁそうだ。しかし私の狙いは別にある。恐らくこの店の出す料理は美味い。そこでアンドロイド達に料理のデータを取って貰う事なのだ。


 味が分からなくても、食材と調味料の配合、火加減を観察、それらを記憶して後々、私にその覚えた料理を作って貰いたいのである。

 電子化した地球のレシピより、実際に食べた異世界料理のレシピが欲しい私なのだ。

『毎日、レティキュラム号のレトルトではね。私はもう忘れてしまった母親の家庭料理が恋しいんだよ』

私の警護、コーヒー出しだけでは、もはやレイジーファミリーとは言えない。


「料理は二人分で宿代は一人700Gなら悪くはない。見物程度なら見ててもいいさ。なぁモーリン」

「ええ、でも何が目的なのかなぁ~なんて.....あッ!」


モーリンが何かに気づいたように、急にそわそわわくわくし出したのだ。

「あらあら、そうなのねぇ~、はぁそうなのかぁ~。どうぞ遠慮なく見ていってね」

 私に向かってバチコ~ンとウインクとVサインまでして来た。


「おいモーリン、何だ?」

 馬鹿ねぇ、あなたは。ちょっと耳、耳。

 ゴニョ ゴニョ

 !

「何だってぇ~ 花、花嫁修業ってか!でもよ、どう見てもありゃぁ三人共16,17歳だろうがよ」

 しッあんた、声が大きいの!15でも嫁ぐ子はいるんだから。

どんなにひそひそ話でも、アンドロイド達には丸聞こえなのだが。


「「「花嫁修業(けっこん)!」」」

「「「この世の春がついに」」」

三体はハモッて瞳を丸くし、涙が出そうになるほど驚愕する事になっていた。


「兄貴ぃ、花嫁修業ってどうゆう事なのよさぁ。ちゃんと納得のいく説明をして貰おうじゃないの。でないとボクの南友千葉拳が黙っちゃいないよ?」

 ふぅぅぅシャウ シャウだからね。


 妙なピンク色の空気と殺気が漂う中、玄関扉のカウベルが鳴り響いた。

 カラコロリン ランコロン

「バイソンさん、今日はお客様がお泊りになるかもと訊いたので、寄ってみました」


 現れたのは、シルバーの長い髪を無造作に流したエプロン姿の少女だった。

「おっと丁度いいタイミングだ。デリーシャ」

「アデリアさんが、そろそろお客があるって言ってましたので」

 ほうアイツ、そこまで手をまわしてくれてたのか。

  

「それなら早速だが、ベッドメイクと軽く部屋の掃除を頼もうか。部屋は201と210だ」

 承知しました。

 デリーシャと呼ばれた少女は、私達に軽く会釈をすると客室に続く階段を上がって行った。

途中、桔梗をチラリと見たような気がしたのだが。


「あの、彼女は従業員ですか?」

「あぁ、客がある時だけ頼んでいるデリーシャ・ケチャップだ。確かあいつも年頃の17歳だったかな。なぁモーリン」

 うふっ♡

 何で私を見る? モーリンさんまで!


「春っていいわねぇ~あなたぁ」

『異世界にも四季がある?では今は春なの?』

「熱い昔を思い出してしまったぜモーリン」

 えぇ ぽッ

『なんだこの甘々な雰囲気は。今夜は宿が揺れるぞきっと』


 気になるのは、ケチャップという苗字。

私に覚えがあるのは、デブーラ男爵家の執事だけだ。


軽く挨拶が済んだところで、Reno、桔梗、バニラの三体が、モーリンさんと厨房に入っていった。


「夕食が出来るまで、私とジョーは外を散策して来ます」

「あぁ、暗くなる前に帰って来るこった。そうでないと<出る>からな」

 出る?

 私とジョーは宿の外に出た。

あいつ等は<花嫁修業>という言葉でAIが麻痺しているのだろう。ジョーと二人で出かけても問題は無かった。


「博士、ここ森と広い土地だけど本当に何もなくてさぁ、やっぱり出そうだよね」

「大自然の中での野糞は、爽快で気持ちがいいもんだぞ。誰も見てないから、その辺でしたらどうだ?私もジャーブラ島でよく、こいたものさ」


「博士ぇ、やっぱり一度、夕食前にボクの南友千葉拳を食べてみる?」


 その時、私の視界にある区画が見えた。

それは門と鉄の柵で区切られた区画で、近くに寄ってみると、そこは荒れ果てた古い墓地だった。

 バサバサ カァ カァ~


 異世界カラスが、不気味さを演出してくれた。

「ほらぁ、バイソンさんが言ってた出るって、お化けの事だったのよさ」

 ふうんお化けねぇ。カラスもよくやるよ。

「ねぇ博士ぇ、もう帰ろうよぉ~」


 少しだけ墓地に踏み込むと、まわりより少し目立つ墓石が目に付いた。

 その墓石には、愛するXXX......名前の所は削られたのか読めなかった。

「クイントリクス歴XXX。割と最近みたいだけれど、何年前の墓石だろう?」

「そんな事はいいからさぁ、もう帰ろうよ博士ぇ、兄貴ぃ~」


 私には、その墓石に何か引っ掛かるような気がしたのだ。

「本当に何もない。しかしそんな場所に<ナイトメア亭>が何故?客も殆どないのに?」


 何か理由があると思いながらも、私は夕食の魅力には勝てず、ジョーと墓地を後にした。


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