EP2 襲撃ライバル国ルルシア帝国 ゴミはゴミ箱がお似合いなのよ! ☆
2054年1月10日
______ここ青年の住む南国ジャーブラ島では、正月であろうと午前10時になるとコーヒータイムとなっている。と言ってもそれは青年一人だけのスケジュールなのだ。
「失礼します」
静かにそれでいて優雅にコーヒーを差し出す姿は、高級ホテルで働く洗練されたメイドそのもの。
ピク
しかしそのメイドの、中間から垂れていたうさ耳が突然、ピンと直立して左右に動いた。無論、それはバニーガール仕様のアンドロイド、バニラ・アイスだ。
「いけませんご主人様、狂敵です。敵が島に侵入しました!」
「なんだって敵! 本当なのかバニラ。どうして対地レーダーが反応しなかったんだ?」
「弾着まであと10m、0.6秒」
「糞、何だって巡行ミサイルが! もう間に合わない!」
などと言っている時間は無いのに、青年は頭を抱えて座り込むしかなかった。巡行ミサイル相手になんとも無駄とも言える防御だ。
ん?
ぷしゃーん
やがてロックドアが開いて現れたのは、工事現場の黄色いヘルメットを被ったエージェントJoeだった。
「はぁ~い、お久ぁ~博士ぇ~ボク来ちゃったぁ~」
......。
「おいバニラ、このジョーが敵の巡行ミサイルだってか? AIは冗談噛ますのか? 全く脅かしやがって!」
「地上レーダーではJoeは捕捉出来ないので、私が感知したのれす」
「汚物......それでジョー、今日は何をしに来たのさ?」
「そ、それわぁですねぇ......」
ジョーが青年の孤島を訪れたのは、もちろんライバル国の情報を伝える為だろう。それしか訪れる理由がないのだから。
「う~ン それだったら暗号通信か、古風だけど伝書鳩でも良かっただろうに。わざわざこんな孤島まで来るとは、ご苦労様なのか暇なのか? エージェントってのは?」
あは
あは
ご主人様の言葉にジョーが一瞬、目が泳ぎキョドッタのを、アンドロイドのバニラ・アイスは見逃さなかった。
「あ、そ、それはですね、海より深い訳がアリマシテ。暗号通信も ラ、ライバル国に解読されてたら、それはそれで不味いでしょ? だ、だからボクがこうして直接出向いた たたって訳なのよさ」
「のよさって。それ随分浅い海だよね」
あはは
『むぅ....このゴミ、心拍数が異常に上がっている!それに3回目に来た時よりメイクが濃く念入りになってるし、しかも何でパンティが見えそうなミニなの。ふふ、まあいいわ。......これで排除レベルに達したのを確認したわ。今日はどんな手で......』
エージェント・ジョーも、糞アンドロイド、バニラ・アイスがまた何か仕掛けて来るとピンと来ているので、工事現場用の黄色いヘルメットを被って来たのだ。
ミニにヘルメット姿とは、実にアンバランスではあるのだが、工事現場コスで萌えるマニアもいるのかもしれない。
「ジョロジョロ、美味しいコーヒーはいかが?」
「結構です!それにボクのエージェントネームはジョーだ!アンドロイドの癖に、なんで覚えないのさ!」
「あらら?いつ改名したのですか?」
「してねぇし!」
バニラが出す飲み物など、当然何かが混ざっている。前回は下剤入りコーヒーを飲まされて、トイレに缶詰めにされたのをジョーは決して忘れてはいない。
「あ、あの事ですね!前回は便秘だと思い、良く効くお薬を入れさせて頂きましたのでしゅ」
『この糞ウサギが!』
ジョーは糞アンドロイドとやり合うより、どうしても話さななくてはならない事があって来たのだ。
______「博士、この島はライバル国達に依然として監視されているのですよ。ハメリア情報局では、奴らはまた何か仕掛けて来ると言う、確かな情報を持っているのです」
ライバル国は次世代AIを研究していた両親を、事故に見せかけて殺害に成功したが、肝心の次世代AI<myu-96>を見つける事が出来なかった経緯があった。
「ジョー、ライバル国はこの孤島に次世代AIがまだ隠されていると思っている訳? ハメリア合衆国でさへ、次世代AIの開発は出来ていなかったと結論を出しているのに、何でライバル国達はまだ諦めていないんだよ」
天才青年博士の言葉に、エージェント・ジョーはジト目で博士の瞳を見つめた。
「博士ぇ~、ボクに絶対にまだ何か隠しているわよね。でなければ、ライバル国達が未だに監視活動をしている理由の説明がつかないもの。この際、ボクにだけ話してくれてもさぁ、もういいんじゃないかなぁ~。私達そういう仲なんだしさぁ~」
『どういう仲なの!年増ゴミカス・エージェントなんかに話せるものですか! 馬鹿なの? このメスは!』
ライバル国ルルシア、亜細亜宗国の狙いは次世代AI<myu-96>であり、そのAIは僕が完成させたアンドロイド、バニラ・アイスの中に埋まっているのだから、奴らが気づく筈はない。
それは裏を返せば、ライバル国達の新型AI開発が遅れている証拠で、何としてもハメリア合衆国に勝たねばならない焦りからなのだろう。
◆◇◆◇
____エージェント・ジョーの情報は当たっていた。
ビビ
ビビ
オールモードレーダーの警報音だ。
「ご主人様、敵です。ステルス機が島に着陸しようとしています! 機体にはルルシアの特徴があり、恐らくスポスポーイの新型かと」
「何だと! ズボズボなのか?」
「いえ、スポスポーイです」
「ほぉらビンゴ!博士、奴らはまだ次世代AIが島に隠されていると思っているから襲ってきたのよ。一刻も早く逃げましょう!」
エージェント・ジョーの言葉に、博士とバニラ・アイスが目配せをすると、何かを観念したように博士がジョーの左手首を掴んで走り出した。
グイ
「はぁ~ん、博士ぇ~強引なんだからぁ~♡」
『ご主人様のそれは想定外。ジョロジョロ 殺す!』
3人が走り向かったのは、例のウサギの縫いぐるみがある博士の部屋だ。
そして博士が、ウサギの縫いぐるみに向かって手早く認証を終えると______
グゴゴゴ
ゴウン ゴウン
すると床に地下に通じる重厚な隠し扉が現れ、同時にオレンジ色の照明が奥に続く通路を照らし出した。
「は、博士、これは?」
「ジョー、時間が無いんだ。いいから黙って私について来て!」
はひっ
バニラが見ると、いつの間にかジョーの両手は博士の左腕に絡みついていた。
『むっ、そこは私の排他的独占テリトリー! ジョロジョロ 絶対に殺す!』
博士とジョー、そして不気味な黒いオーラを纏ったバニラ・アイスが階段を降り始めると、くぐったドアは自動で閉まりロックされたようだ。
「あの博士、これは秘密の抜け穴で、島のどこかに出るとか?」
「違うよ」
ジョーが黙って着いていくと、今度は鈍い光を放つ金属製の扉の前に出た。
「ここだ」
すぐにバニラが、ご主人様に絡みついているジョロジョロを強引に引き離すと、ジョーがバニラを睨みつけた。
「この糞アンドロイド!何をするだに!」
「あら、ご主人様にゴミが付いていたので。オホホ」
「ボクみたいな、こんな可愛いくてナイスバディなゴミがあるかぁ!」
「間違えました。汚物でした」
「お前達、仲が良いのはいいけど、今はコントをしている時間は無いから。行くよ」
うぐぅ
「......ご主人様、この汚物も入れるのですか? 私は汚物はここで放置するのが最善だと思いますが。ライバル国ルルシアが奇麗に処分してくれます」
「汚物って誰の事よさ?」
「バニラ、敵が侵入して来たんだ、ジョーを見捨てる訳にはいかないだろ」
「あぁ~ん 博士までぇ。 それってやっぱりボクのことなんだ」
「でもそれでは、ご主人様と私のエデンが......」
「時間がない。兎に角中に入ろう」
ドアを抜けると、自動で煌びやかな照明が点灯し、そこが何であるかをジョーに見せつけて来た。
「あのレイジー博士、ここはラボですか?」
こここそが亡き両親が残したラボであり、バニラ・アイスを誕生させた場所である。このラボの存在は、ハメリア合衆国でさへ知らないし、私とバニラ・アイスだけの秘密だった。
「ジョー、ラボでもあるけど、それだけじゃないよ。実はここはね」
ドガ
ドガ
ガガ
「ご主人様、敵が隠し扉を破壊しています。島を離脱しましょう」
ジョーは抜け穴が無ければ最悪、このラボで籠城する覚悟でいた。それがバニラの離脱と聞いて首を傾げるしかなかった。
『ふふ、離脱したらすぐ、この生ゴミをダスト・シュートに放り込んで捨てる......完璧な策だわ』
「バニラ、エンジン始動シーケンス開始」
「はい、ご主人様」
「何??何が始まるのレイジー博士??」
訳も分からず棒立ちになっているジョーに、バニラが微笑みながらこう言った。
「ふっ、ジョロジョロ、揺れるからそこの箱の中に入ってて」
やがて蜂が飛ぶようなブ~ゥゥんと言う音がし始め、次第に音が大きくなっていった。
「何?これ何かのエンジンの音なの?」
ブンブン
ブウ~ン
「バニラ、Gate Open!」
「はい、ご主人様」
ラボ全体が大きく揺れ出して、ジョーは箱に入るようにと言ったバニラ・アイスの言葉の意味を理解した。
「こんなに揺れるからなのね、また嫌がらせを仕掛けて来ると勘ぐってしまったボクって......謝るわバニラ」
『ふっ、チョロイわね』
「間も無く発進するぞバニラ、ナビシートに座れ」
「あれ? あの、あのボクのは?」
「悪いけどジョー、君のシートはないんだ。ぶら下がっている緊急用吊り革で頼むよ」
『へ?二人だけ席があって? ボクは吊り革? ここは何なの?』
「スイッチON 補助エンジン点火!!」
ズウゥォォォ
ひええ~
ゴロゴロ
Gate、 発車 二人乗り シート 吊り革のキーワードと聞いて、エージェント・ジョーは理解した。
「このラボは......座席の無い大型トラックだったのね!」
ジョーの言う大型トラックが45度に傾斜すると、ジョーの足は宙吊りになってバタバタと悲鳴を上げている。
しかしそれには構わず博士とバニラは発進操作を続行中だ。
「Gate 全開放しました!」
「メインGエンジン接続、最大出力で上昇開始」
ラジャー!
一瞬大きく振動したかと思ったけれど、大型トラックは平行に戻った。その時ジョーは、大きな窓から青い空を見た。すぐにまた45度に傾くと、無様に床を転がっていた。
キュィイ
「博士、生ゴミが気を失いました。腐るので捨てましょうか?」
「バニラ、仲がいいのは分かるが、大気圏を離脱した地球軌道にいるんだから、冗談はその位にして介抱してやれよ」
うへ~
ここまで来ればライバル国はもう手出しが出来ない。私がコックピットから立ち上がり、ジョーの様子を確認すると......。
ゴクリ
壁に激突したミニ姿のジョーが、頭にヒヨコを飛ばして120度大股開きで気を失っていた。
「黄色いヘルメット被ってたのがまあ幸いだったよね。流石に用意周到なんだな、エージェント・ジョーって......おっ白だ」
「ご、ご主人様ぁ!」